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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

72 クイーンイザベラ号お披露目式(2)

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 ブラッドが懐中時計を取り出し、時計を確認した。
 そろそろ船の完成披露式が始まるのだろうか?
 そんなことを思っていると、部屋の外が賑やかになった。

「間に合ったようだな……」

 ブラッドはそう呟くと、懐中時計をパタリと閉じて胸ポケットにしまった。
 しばらくするとノックの音が聞こえて、入室を許可すると執事が入って来た。

「クローディア様。フィルガルド殿下がご到着になりました」
「報告ありがとうございます」

 私は執事にお礼を言った。
 どうやら先ほどの賑やかさは、フィルガルド殿下が到着したからのようだった。
 ブラッドが立ち上がると、少しだけ切なそうな瞳を向けながら言った。

「ではクローディア殿。我々は先に会場で待っている」
「あ……うん、わかった」

 なんとなくブラッドと一緒にお披露目式に出ると思っていたので、離れることが寂しいと思えた。
 だがフィルガルド殿下がいる以上、私のパートナーは彼だと決まっている。
 
 ブラッドはガルドやジーニアス、ヒューゴやリリアを引きつれて扉に向かった。残されたのは、私と側近のアドラーと、私の護衛のラウルの3人だけだった。

 ブラッドが扉を開くと、丁度フィルガルド殿下が入って来るところだった。ブラッドは、フィルガルド殿下を見ると、小さく呟くように言った。

「間に合ったようだな……先に会場で待っている」
 
 通り過ぎようとするブラッドに、フィルガルド殿下が息を切らしながら言った。

「当たり前だ……次は譲らないと言ったはずだ」

 ブラッドは無表情にフィルガルド殿下を見ながら言った。

「……そうか」

 そしてブラッドたちは部屋を出て行った。今……。一瞬、ブラッドが放った凍てつくような極寒の空気感はなんだろうか? もしかして、ブラッドとしては『フィルガルド殿下が来るなら自分は忙しいので仕事をしていたかったのに』という感じの圧だったのだろうか?
 確かにブラッドも忙しいので、フィルガルド殿下が来られるならわざわざブラッドが来ることもなかったということなのだろう。
 なぜだろう、私はたぶん悪くないのに居たたまれない。

 ブラッドたちが部屋を出ると、フィルガルド殿下が凄い勢いで私の方に歩いて来て両手を取った。

「クローディア!! 会いたかった。今日もキレイですね」
「ありがとうございます。フィルガルド殿下も素敵ですよ」

 私はフィルガルド殿下の社交辞令に笑顔で答えた。

「ありがとうございます。クローディア、開始間際になってしまい申し訳ございませんでした」
「いえ、無事に到着されて安心致しました」

 これは本心だった。殿下ではなく私が狙われているとはいえ、無事にここまで来てくれてほっとしていた。
 フィルガルド殿下は私の頭にキスをすると私の手を片方だけ離して優しい笑顔で言った。

「では、クローディア。行きましょうか」

 私は一瞬、フィルガルド殿下に見とれた後に、フィルガルド殿下の手の上に自分の手を乗せている状況が恥ずかしいと思えた。いつもは腕を組んでいるのだが、手を握っているとフィルガルド殿下の体温を直接感じて顔が熱くなる。

「あの……」

 フィルガルド殿下に腕を組みたいと提案しようとすると、執事が「そろそろ始まりますので会場にお越しください」と言ったので、手を離してもらうタイミングを失ってしまった。
 こうして私はフィルガルド殿下の手に手を重ねたまま会場に向かったのだった。





 その後、会場に着くとフィルガルド殿下の言葉や、シーズルス伯爵の話などがあった後に、関係者にあいさつをした。普段なら私とフィルガルド殿下は離れてあいさつをするのに、この日フィルガルド殿下は全く私の手を離そうとしなかった。

 少しだけ人の波は切れて、私たちは船の端に寄った。私はフィルガルド殿下に小声で言った。

「あの……なぜ手を繋いだままなのですか? 別れてあいさつした方が効率がいいと思います……」

 私がいつものように離れてあいさつをしようと提案すると、信じられないことが起きた。

「フィルガルド殿下?!」

 私は思わずフィルガルド殿下をじっと見つめた。殿下は、私の手を自分の手の平に上に乗せたまま指を絡ませたのだ。これじゃあ、恋人繋ぎだ。簡単には離れられない。
 フィルガルド殿下が私を見て美しく微笑みながら言った。

「今日は離れないようにしっかりと繋いでおきます」
「……え?!」

 私は思わず顔に熱が集まるの感じた。
 一体、何が起きているのだろうか?!

 私はこの状況の意味がわからずに心臓を早くするしかなかったのだった。




 クローディアとフィルガルドがあいさつを一通り終えて、少し休憩するために船の端いた時。

 ブラッドたちはクローディアの護衛のために常に彼らの近くにいた。
 フィルガルド殿下がクローディアを船の端で人から隠すようにするのを当然近くで見ていたブラッドたちは、落ち着かない気持ちになった。

 一刻も早く、クローディアをフィルガルドから離したいが口実が見つけられない。
 フィルガルドがクローディアの指に指を絡めたのを見たブラッドは、思わず二人から顔を背けた。

 そして、海に二つの不審な光を見つけたのだった。

「……あれはなんだ?」





 フィルガルド殿下に指を絡められて、恥ずかしくて殿下から顔を背けた私は海を見つめた。

「あれ……何かしら?」

 すると、近くからブラッドの声が聞こえた。

「……あれはなんだ?」

 奇しくも私とブラッドは、同じタイミングで海に不審な光を見つけたのだった。





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