上 下
24 / 298
第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

58 チームお飾りの正妃の復活(1)

しおりを挟む



 執務室に戻ると、すでにアドラーの執務机が準備してあった。どうやら私たちがいない間に用意されたようだった。
 ブラッドは執務室に戻るとすぐに私を見ながら口を開いた。

「クローディア殿。アドラーも正式にクローディア殿の側近になったことなので、今後のことを説明する」
「わかったわ」

 私たちは話し合いをする時は、執務室にある食事を摂るための広めのテーブルに集まるようにしているので、皆、必要な物を持って自然にそのテーブルに集まった。
 私の前にブラッド。その隣にガルド。そして私の隣にはアドラーが座った。このテーブルは8人くらいは座れるようになっているので書類を広げても余裕がある。
 ブラッドは、分厚い手帳を開きながら口を開いた。

「まず、明後日からクローディア殿には私と共にシーズルス伯爵領に行ってもらう。船の披露式前日に一泊、船の披露式当日一泊、そして船内の視察と処女航海の見送りに一泊の合計三泊を考えている」

 え……それって王都じゃなかったんだ……?
 しかもシーズルス領と言えば、ラウルの家が任されている領だ。確か領主はラウルの兄だったはずだ。

 私は思わずブラッドを見た。船の完成披露式に出席することは聞いたが、三泊四日の旅になるとは知らなかった。でも船の披露式に出席することに異論はないので黙って聞いていると、ブラッドはさらに眉を寄せながら言った。

「だが……まだ連絡が来ていないのでなんとも言えないが、近々スカーピリナ国の王の歓迎パーティーも予定されているので、そのパーティーの日程によっては、泊まらずに戻って来るかもしれない」

 そう言えば、スカーピリナ国の国王がこの国を訪問すると言っていた。ラノベのシナリオ通りの展開で警戒していたはずだが、ここ数日部屋でのんびり、まったりと過ごしていたのですっかり忘れていた。
 ブラッドの言葉の後に、ガルドが微笑みながら言った。

「アドラー。その辺りのことも含め、今日はこの後ラウル副団長をお呼びしていますので、安全な経路を話し合いましょう」
「はい」

 アドラーは真剣な顔で頷いた。するとブラッドが、アドラーに向かって言った。

「アドラー。それと今回の披露式の招待客を調べて、クローディア殿の補佐ができるように招待客の情報を頭に入れておけ。今回は海路関係者や造船や建築関係者が多いはずだ。本来ならこの辺りは殿下が関係しているので、クローディア殿は普段関わることの少ない者たちだ。フォローできるようにしておけ」
「はい」

 私はハラハラしながら話を聞いていた。経路の話し合いだけでも大変そうなのに、招待客の把握との人たちの情報を覚えるって……正直に言うとこれまでフィルガルド殿下にか興味のなかった私は、社交を全く真面目にしていないので、あまり貴族の顔と名前が一致しない。アドラーに負担をかけて、申し訳ないが、フォローはかなり有難い。すると今度はガルドが顎に手を置きながら言った。

「それとクローディア様のご宿泊される宿泊地についても調査が必要です。すでに先方から返事を貰っています。今回はシーズルス領邸にブラッド様と共にご宿泊される予定ですので、こちらについてもラウルと領邸内部の確認を致しましょう」
「はい」

 ええ~~まだあるの?
 私がアドラーの負担を考えて、オロオロしていると、さらにブラッドがアドラーを見ながら言った。

「アドラー、陛下の側近殿に話をして、王家からシーズルス領への褒美も確認して準備させておけ。こちらから催促しなければ、忘れている可能性が高いからな」
「はい」

 ちょっと……。ブラッドもガルドも、アドラーをこき使い過ぎじゃない?!

 鬼のブラッドは、私だけではなく、アドラーまでこき使うようだった。本当に安定の鬼っぷりだ。

「ちょっと、アドラーの負担が大き過ぎない?」

 私が耐えかねて声を上げると、アドラーが微笑みながら言った。

「クローディア様。ご心配頂きありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。それよりも準備不足で慌てる方が問題なので、今できることは全て終わらせます。それに以前、ブラッド様に任せて頂いた調査の方が、遥かに大変でしたのでこのくらい問題ありません」

 以前の調査の方が大変?!
 私はジロリとブラッドを見た。
 この鬼……一体、何をアドラーに任せたというのだろうか? もしかして、私の知らないことも頼んでいるのかもしれない。

「ちょっと、ブラッド。あなたアドラーに何を……」

 私がブラッドに苦情を言おうとしていると、扉がノックされてアドラーが立ち上がった。

「確認して参ります」

 そしてアドラーが扉を開けると、副団長のラウルと、記録書記官のジーニアスと、私の専属の侍女のリリアが入って来た。ラウルが来るというのは先ほど、ガルドから聞いていたので知っていたが、ジーニアスとリリアがいるのが意外だった。

「みんな、どうしたの?!」

 私が皆の登場に驚いていると、鬼が顔色一つ変えずに言った。

「今回、ここにいる者たちで今後のクローディア殿の視察や、スカーピリナ国行きを支援することになった」
「は?」

 私が驚き過ぎて目を大きく開けていると、ラウルが嬉しそうに言った。

「今後、クローディア殿の遠征には必ず私が同行することになりました。全力でお守り致します!! どうぞ、お任せください」

 副団長のラウル自ら私の護衛?! ちょっと……贅沢過ぎじゃ……。
 私がオロオロとしていると、ジーニアスが声を上げた。

「私もこの度、陛下からクローディア様専属の記録書記官に任命されました!! 最新情報や記録でお役に立ちますのでどうぞよろしくお願い致します」

 え?
 遠征にまで記録書記官のジーニアスが同行?! しかも、私専属って!!
 陛下~~~贅沢過ぎますって!!

 私が眩暈を覚えていると、リリアがにこやかに言った。

「クローディア様。お城の中だけではなく、遠征でも同行して、クローディア様のお世話と、女性だけしか入れない場所の護衛を致します。今度は鉄扇だけだなんて、迂闊なことは致しませんので、どうぞご安心下さいませ」

 私は耐えきれずに声を上げた。

「みんな、待って!! 私、命狙われるのよ? しかも、スカーピリナ国は、イドレ国の隣だよ? 危ないよ?!」

 私が真剣な顔で言うと、ラウルがにこやかに笑いながら言った。

「そうですね。だから私が行くのです」

 そして、ジーニアスも頷きながら言った。

「私はこの国の情報だけではなく他国の最新情報も把握しております。それに私の記録は全て正式な記録として認められます。何かあっても法の力であなたをお守りすることができます」
 
 さらにリリアが私を見て戸惑いながら言った。

「私も皆様と同じでクローディア様をお守りしたいと思ったのですが……クローディア様。なぜこちらに兄がいるのでしょうか?」
「え?」

 私は思わず、アドラーを見た。
 もしかして、私の側近になるということをご家族に相談していないのだろうか?!

「アドラー。あなた、ご家族に話をしていないの?」
「……兄には話をしました」

 アドラーの兄ということはルラック子爵は知っているということだが……。
 私は、皆を見ながら言った。

「本日、アドラーを私の側近に任命しました」

 
 アドラーはそれを聞いてにこやかに、微笑みながら言った。

「クローディア様の側近になりましたので、よろしくお願いします」

 アドラーがにこやかに笑っていると、ラウルが怒ったような声を上げた。

「アドラー、お前。側近ってずるいぞ!!」

 ジーニアスもアドラーに詰め寄りながら言った。

「そうですよ!! アドラー殿、抜け駆けなんて卑怯です」

 リリアはアドラーの腕を持ちながら言った。

「お兄様!! クローディア様をお守りしたいのなら、ラウル様に誘われた時に騎士団に入って護衛になってもよかったのではないですか?」

 アドラーは皆を見ながら相変わらずの笑顔だが、どこかどす黒さを含んだ笑顔で言った。

「側近でないと、殿下からクローディア様をお守りすることは出来ませんから。もしクローディア様がお許し下さるのなら、今後一切クローディアとフィルガルド殿下を二人でお会いさせるような真似はいたしません」

 え?
 アドラーはもしかして、今日だけじゃなくて……これからもフィルガルド殿下とお会いする時、側に居てくれるの……かな? 

 私が、アドラーの言葉の意味を考えていると、ブラッドが悪魔のような美しい顔でニヤリと笑った。

「……そういうことだ。さぁ、打合せをするぞ」

 その途端、先ほどまで不満そうにしていた皆が一斉に納得して頷いた。

「ああ。なるほど。頼むぞアドラー!!」
「それは素晴らしい。お願いします」
「それがいいでしょうね。お兄様、頑張って下さい」

 みんな次々に席に座ってすっかり話し合いモードになっている。
 なぜか私だけが取り残されたような心境になりながらも、私も席に座って話し合いに参加したのだった。

 こうして、再び『チームお飾りの王太子妃』が復活したのだった。






しおりを挟む
感想 842

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜

白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人は結ばれるのか? ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。