ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

56 お飾りの正妃の側近(2)

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 ブラッドが案内してくれたのはフィルガルド殿下の執務室だった。

「ここで最終選考があるの?」

 私がブラッドに尋ねると、ブラッドは私を見ながら答えてくれた。

「いや、場所はフィルガルド殿下の執務室隣の応接室だが、今からフィルガルド殿下をお呼びして、殿下も交えてクローディア殿の側近を決める」
「へぇ~~フィルガルド殿下も……もしかして、ブラッドも候補者に会うの?」

 ブラッドは、私を見下ろし鋭い目つきで答えた。

「当たり前だ」

 あ……当たり前なんだ……。

 てっきり私が一人で会って決めるのかと思っていたが、どうやらフィルガルド殿下やブラッドも同席するようだった。ということはつまり……候補者は陛下だけではなく、王太子と筆頭公爵家の人間にも審査されるということだ。

 ハードル高過ぎるって……。

 私は思わず候補者に同情してしまった。

 候補者に同情しながら遠い目をしていると、ブラッドが迷うことなく扉をノックした。私は一応王太子妃だが、未だにフィルガルド殿下の執務室に入る時は緊張するのに、ブラッドにはためらいも緊張も一切見られず非常に堂に入った様子だった。

 さすがブラッド……慣れてる……。

 私はブラッドと違って緊張しながら待っていると、扉が開いてフィルガルド殿下の側近のクリスフォードが出迎えてくれた。

「ようこそ、お待ちしておりました」
「ご苦労」

 ブラッドの後に私も執務室に入ろうとすると、クリスフォードが笑顔であいさつをしてくれた。

「クローディア様。お元気になられたようで何よりです」

 クリスフォードは以前の私もよく知っている。だからだろうか、彼は笑っているのにいつもどこか警戒されているように感じて、少し身構えてしまった。だが過去を知っているからと言って不遜な態度を取るわけにもいかないので、私は淑女らしい笑顔を浮かべてクリスフォードに微笑みかけた。

「ごきげんよう、クリスフォード様。ご無沙汰しております。ご心配頂き感謝いたします」

 あいさつをすると、クリスフォードがあからさまに驚いた顔をした。
 
 気持ちは……わからなくもない。むしろ十分過ぎるほど理解できる。
 私は、彼に対して本当に穴があったら入りたいでは生温い、むしろ完全に封印してしまいたいほどの黒歴史がある。実は以前の私はずっとフィルガルド殿下の側近のクリスフォードに嫉妬していたのだ。……ちなみにクリスフォードは男性で……既婚者だ。

 フィルガルド殿下と一番長い時間一緒にいるという理由だったが……嫉妬も相手を選ぼうと、以前のクローディアに説教をしてやりたい。

 どれだけ、心狭いの?! クローディアさん?! いや、今は私なんだけどさぁ!!

 そんな心の狭いクローディアは、クリスフォードに向かって『一番殿下と長い時間を過ごしているからっていい気にならないことね!!』や『私と殿下の時間を邪魔するならただではすまないわ!!』などと謎の捨てセリフを何度も何度も口にしている。側近が主と一緒にいるのは当たり前なのに!!

 もう~~~イヤだ~~!! もし、クリスフォードの頭に消しゴムを使えるならキレイに消してしまいたい!!
 
 そんなこともあって、クリスフォードは極力、殿下と私が会っている時は顔を出さない。
 もう……本当に本当に申し訳無さすぎて言葉もない。
 私は過去の過ちを少しでも清算すべくクリスフォードを見上げながら言った。

「クリスフォード様、以前はその……随分とあなたを困らせてしまいました。どうぞこれからは、殿下とご一緒に私にもお会いして頂けたらと思います」

 クリスフォードは、目を大きく開けて尋ねた。

「私も同席してもよろしいのですか?!」
「もちろんです……ぜひ……」
「……では……ぜひ……」

 私が頷くと、クリスフォードも頷きなんだか微妙過ぎる空気になった。
 二人に気まずい雰囲気の微妙な間が生まれて居たたまれない。

「クローディア!! もう身体はよろしいのですか?」

 私とクリスフォードの微妙過ぎる空気を打ち破ってくれたのは、フィルガルド殿下だった。
 私は慌ててフィルガルド殿下にお礼を言った。

「おはようございます、フィルガルド殿下。たくさんの贈り物をありがとうございました。おかげで回復いたしました」
「そうですか、確かに顔色も良さそうですね。よかった……本当に安心しました」
「ありがとうございます。フィルガルド殿下、本日はよろしくお願いいたします」

 フィルガルド殿下の優しくて眩しい笑顔に、私はたじろぎながらも笑顔を返した。すると殿下は、とても機嫌良さそうに口を開いた。

「クローディアの側近候補者は、10名以上も集まったと聞きました。優秀な人材がとても多く集まり、今後は父上と、指名制ではなく募集にしようかと話をしていたところです」

 え?! 10名以上?! どうしてそんなに?!

 てっきり一人も集まらないと思っていたので、フィルガルド殿下の言葉はとても信じられなかった。
 しかも、今後は指名制ではなく募集にするって……そんな簡単に変更していいものなの?!
 私の動揺はさらに大きくなった。そんな私にフィルガルド殿下はさらに嬉しそうに言った。

「しかも最終的に残った人物はかなり有能で、父上が『ぜひ自分の側近に迎えたい』と言っていたほどの人物だそうですよ。良さそうな側近が見つかって幸運でしたね、クローディア」

 は? 
 フィルガルド殿下の父って……国王陛下ってことでしょ?!
 国王陛下が自分の側近にしたいって……!!
 幸運ですねって……。

 全然よくなぁ~~~い!!

 何それ、人材の無駄遣いにも程がある。なぜ、お飾りの王太子妃である私にそんな凄い人物が?!
 むしろ、これまでどこに隠れてたの、その人?!
 そんな凄い人を見落としてたっていうのなら、やっぱり指名制は変えた方がいいのかもしれない。
 私は、すでに緊張とプレッシャーで白目をむいていた。

「そう……ですね……」

 どうしよう、二年で離婚するって知ってるのかな?
 知らなかったら本当に申し訳無さすぎる。その時は、土下座しかないかもしれない……。

「では、クローディア。行きましょうか。お手をどうぞ」

 フィルガルド殿下に爽やかな笑顔で手を差し出されたので、私はゆっくりとその手を取った。
 私はいつの間にか自分の側近候補者に会うことに恐怖さえ感じていた。

 そして私たちは、フィルガルド殿下の執務室のすぐ隣の応接室に向かった。
 距離としてはそれほど長くはないが、私にはとても長い道のりに思えた。

 そしてノックの音と共に、扉が開けられた。

 私は恐る恐る部屋の中を見て思わず声を上げた。

「あ!! え……?」
「クローディア様、アドラー・ルラックと申します。よろしくお願い致します」

 私を待っていたのは、つい数日前に領主代理試験に受かったばかりのアドラーだった。
 アドラーは美しく微笑みながら立っていた。

 アドラーの登場に私の頭は、なぜ彼がここにいるのか理解できなくて混乱してしまったのだった。






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