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第二章 規格外の魔法学術士
第2話 丁寧な仕事の結果は……?
しおりを挟む魔法陣に乗って移動した場所は、どこかの森の中だった。
そして目の前には、『Z』と書かれた札が浮かび4人の剣院の生徒が立っていた。
「秀人、頭上に札があるみたいね。『A』を探しましょう」
エリザベス様に言われて俺は返事をした。
「うん」
そして歩いて行くと、よく知る顔ばかりのグル―プを見つけた。
グレイ殿下と、ギルとアイクとヨーク。
そして頭上には『A』の文字。
「あ……」
思わず声を上げると、グレイ殿下と目が合った。
「秀人!!」
俺たちが一礼をしながら近づくと、グレイ殿下の声でギルたちも俺たちに気付いた。
「お、もしかして、秀人がこのグループなのか?」
アイクが声を上げた。
「うん。ギルやアイクにヨークも同じか、ほっとしたかも…」
「俺もだ」
ギルたちと話をしているとエリザベス様が声を上げた。
「秀人、剣院の方とも仲がいいのね……いつの間に仲良くなったの?」
俺はエリザベス様にギルたちを紹介した。
「あ、みんな同じ寮です。こっちが同じ部屋のギルに、隣の部屋のアイクとヨークです」
エリザベス様は納得したように言った。
「寮……通りで……学院内部で私が秀人の人間関係を把握していないなんて有り得ないと思っていたの……」
エリザベス様の言葉に、なぜかギルやアイクやヨークが顔を赤くしていた。
だがすぐにギルが優雅に微笑みながらエリザベス様にあいさつをした。
「初めまして、スピカ伯爵家のギルと申します」
「ああ、スピカ伯爵家の……」
ギルがエリザベス様と話をしているとアイクが小声で何かを言った。
「え? エリザベス様って溺愛執着系? なるほどな~~そういうことか……秀人、事前に言っておけよ……」
「何が?」
俺はアイクに肩を叩かれたが、ギルたちの方を見ていたので、アイクたちの話をよく話を聞いていなくて首を傾けていると、不機嫌そうなグレイ殿下と目が合った。
しまった、殿下にしっかりとあいさつをしていなかった!!
俺は急いで頭を下げた。
「グレイ殿下、この度はどうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げていると視界に殿下の足が見えた。
え?
急いで顔を上げると至近距離で殿下の顔が見えた。
近いな!!
「秀人、私のことは気安くグレイと呼んでくれ。言葉遣いも皆と同じで構わない」
「ええ!? 無理ですよ」
俺が両手を前にしてぶんぶんと首を振ると、殿下に両手を握られた。
「なぜだ。私のことを守ると言っただろう? 秀人とは、普段から何でも言い合える関係でいたい」
ああ、なるほど。
確かに敬語は苦手なので普段通りに話せるなら助かる。
「秀人……どういうこと? あなた、グレイ殿下にそんなことを言ったの?」
なぜかエリザベス様まで不機嫌になっていた。
そして俺ではなく殿下が答えた。
「ああ、そうだ。さらに秀人は私の耳が好きだと言った」
「え?」
言った……けれども!!
今それ全く関係ない!!
「耳……生々しいな……」
「うん……なんだかよくわからないけど……エロい」
ヨークとアイクが顔を赤くしながら呟いた
何が!?
グレイの耳形いいじゃん!!
二人とも顔を赤くする必要ないからね?
耳の形が好きって言っただけだけだからね!!
「秀人、私のことはエリーと呼びなさい。あと、敬語も禁止よ。使ったらただでは済まないわよ」
俺はグレイに手を握られながらも、急に髪を耳にかけ、いつもと違う雰囲気になったエリザベス様を見ながら必死で頷いた。
「エリーな。わかった」
険悪な雰囲気の中、アイクが汗をかきながら声を上げた。
「そろったので、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
ギルも大きく頷いた。
こうしてアイクとギルのおかげでなんとか魔獣討伐に行くことになったのだった。
◇
魔獣討伐に向かってしばらく経った頃。
「秀人……いいか?」
グレイがこめかみを押さえながら低い声を出した。
俺は慌ててグレイを見ながら尋ねた。
「ん? どうした、グレイ? もしかして!! どこかケガでもしたのか?」
「するわけがない!! 今私が相手をしているのは魔王ではない。キラーラビットだ!! ……こんなに過保護に守るな!!」
「え~~~?」
ちなみにキラーラビットとは、狩りの練習を始める時に対峙するかなり初心者向けの魔物だ。
俺のここ数日の知識の集大成にグレイだけではなく、みんなドン引きの様子だった。
監督で同行しているロビン導師まで頬を引きつらせている。
現在グレイにかけている防御と補助魔法を一覧にしてみた。
▶物理完全防御
▶魔法完全防御
▶異常状態自動回復
▶ケガ自動回復
▶攻撃力3倍
▶魔法攻撃威力3倍
▶自動魔力回復
▶自動体力回復
▶魔法詠唱時間短縮
▶汚れ自動洗浄
俺は急いでグレイに尋ねた。
「もしかして魔法で守り過ぎると気分悪くなったり、身体に不都合があるとかの問題が!?」
するとグレイが首を振った。
「不都合はない。むしろ『自動回復』系の魔法のおかげか、政務と学院の両立で溜まっていた疲労まで回復されたようで、身体が羽のように軽い」
「グレイ、学院と政務の両立なんて大変だな」
周りグループは懸命に魔物と応戦していたが、秀人のグループ全体過剰なほどの補助魔法かかっているのでみんな余裕だった。
ちなみに俺とグレイは絶賛魔物に襲われている最中だが、物理完全防御と、魔法完全防御がかかっているのでキラーラビットの群れに襲われても特に問題なく話に集中できる。
「そうだな。時々めげそうになるがな」
「そうか……グレイ、偉いな」
秀人の言葉にグレイがハッとした。
「違う。そんなことはどうでもいいんだ、秀人。物理防御でさえ、魔法学院の卒業試験なんだろ? それをこれほど易々と……ましてや物理完全防御など魔法院の魔導士でさえ使える者はほとんどいないのだぞ?」
「え? そうなの??」
「ああ。しかも魔力も相当消費するだろ? これでは昼まで持たないぞ?」
「え? そう? 計算したら大丈夫だったんだけど……」
秀人は腕を組んで考えた。
「グレイたちって魔法とか使うの?」
「いや。私は魔法は一切使わない」
俺の言葉にグレイが答えた。
「俺も使わないぞ、秀人」
「使わなくはないけど、今日は使わないかな~~」
ギルと、アイクも答えた。
「私も使わない」
ヨークも使わないらしい。
「そっかぁ~じゃあ」
▶魔法攻撃威力3倍
▶魔法詠唱時間短縮
「魔法使わないならこれは解除するね」
「あああとこれもだ」
▶攻撃力3倍
「今回は私たちの腕試しでもある。このように攻撃を強化されたら私は自分の現状を知ることが出来ない。だから解除してくれ」
「ああ。なるほど……訓練だもんな。了解!!」
グレイの願いで攻撃力3倍も解除した。
「随分少なくなったな……だいぶ減ったけど大丈夫?『▶移動速度上昇』も追加する?」
「急に移動が早くなったら混乱するだろ。必要ない!!」
グレイが正論を言ったので秀人は素直に納得した。
「なるほど……」
グレイと俺の言い合いを見ていたアイクが首を傾けながら言った。
「なぜだろう? 秀人が凄すぎるはずなのに……」
「ん……本人無自覚過ぎて……あまり凄さが伝わらない……」
「それな」
アイクとヨーク小さく息を吐いたのだった。
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