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第一章 異世界での新生活

第6話 俺、問題児疑惑アリ?

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「……大体こんなところかしら? わかった?」

 怖そうだと思ったエリザベスさんは、意外にもとても説明が上手く、かなり丁寧に魔法の勉強の仕方を教えてくれた。

「随分とはっきりしました」

 どうやら、魔法を使いこなすにも勉強が必要なようだ。
 そしてその基礎となる魔導書は2種類ある。

・パリエラ学術書全8巻
・クレーメン魔法学術書全3巻

 一般的には、『パリエラ学術書全8巻』の内容を習得した後に、『クレーメン魔法学術書全3巻』という魔法書の内容を習得するらしい。

 この魔法学院にいる生徒は、魔法を使うだけの魔法使いではなく、魔法を組み合わせたり新しい魔法を作る魔法学術士を目指しているそうだ。
 俺としては魔法使いで構わないのだが……。

 とにかく高度な魔法を使うは勉強が必要らしい。
 もっと冒険して、なんらかの精霊に気に入られて魔法を使えるようになる……というのを期待していただけに勉強しなければいけないなんて残念過ぎる。

「次は適正だけど……あなたは、特殊魔法でしょ? 特殊魔法は適正を持っている人が少ないから、あまり研究されていないの」

「へぇ~~」

 そう言えば俺、特殊魔法で間違いないのかな?
 これも全て俺が、あの男性に『耳が好き』とか言っちゃったからだけど……
 
「適正って変わりますか?」

 エリザベスさんが困ったように言った。

「適正は、生まれた時から変わらないわ。でも一般的にはわからないの。魔法学院に入った時に魔力量と、適正を判定できるってわけ」

 俺は、あの男性とのおかしなやり取りを思い出して、エリザベスさんに尋ねた。

「ちなみにエリザベスさんは、適正検査の時、何を選んだのですか?」

「私は、赤い宝石を選んだわ」

 赤い宝玉と言われて、俺は声を上げた。

「あ~あの額の……確かに目立ってましたよね」

 そもそも俺が『この人勇者みたいだ』と思ったのは男性の額の赤い宝玉を見たからかもしれない。

「え? あなた、宝玉が見えたの??」

「はい」

「適正で使われる道具は、全て特殊な魔法具で、自分の適性の魔法具以外は目に入らなくて選べないの。だから私は赤い宝石以外はわからないわ」

「え? 魔法具? それしか見えない!?」

 どういうことだろう?
 俺には少なくとも、宝玉は見えたが他にも盾なども見えた。

「え、ええ。そうよ……赤い宝玉が見えて、適正が攻撃魔法ではないってことは……他にも見えたの?」

 顔がくっつきそうなほど顔を近付けられて、思わずゴクリと息を呑みながら答えた。

「はい……盾や、剣や、杖も見えました」

 エリザベスさんは俺をじっと見つめながら言った。

「信じられないわ……剣や盾、杖を見たという人もいると聞いたことはあるけど……全部見えたなんて……確かにそれは特殊魔法かもしれないわ」

 まぁ、たくさんの魔法具をスルーして俺は『耳』と答えたわけですが……
 
 俺が黒歴史を思い出しながら遠くを見つめていると、エリザベスさんが声をあげた。

「秀人、あなたの実力が知りたいわ。これから図書室に行って、パリエラ学術書を試してみましょう!!」

 エリザベスさんが瞳を輝かせながら言った。
 正直、気が重いが断れない雰囲気だ。

「あ、はい……」

「では、行きましょう」

 エリザベスさんは壁に手を触れて入口を出現させた。
 俺もこうしてようやくこの取り調べ室……不思議箱から出たのだった。

 
 それから、エリザベスさんと一緒に図書室に着いた。

「うわ……すげぇ……」

 図書室に行くと、俺はあまりのスケールの大きさに驚いた。
 この部屋の入口は至って普通だったのに、中に入ってみるとビル10階分くらいの突き抜けた空間の壁全面に、本がぎっしりと並んでいる。
 そして天井付近のガラスには、ステンドグラスのような物で何かの絵が書かれている。
 さらには階段が浮かんだり、消えたりしている。

 ここは異世界だ。
 そう思えた。

「初めてのご利用ですね」

 俺がこの場所の異世界感に浸っていると誰かに話かけられた。
 声の聞こえた方を見るとどこかで見たことがある動物にそっくりな人(?)が立っていた。

 あ~~~え~~~と、何て動物だっけ?
 ゾウみたいに鼻なのか顔が長くて、つぶらな瞳でパンダみたいな風貌の……。
 ほら、あれだよ、あれ~~~。
 なんだっけ?
 
 俺がどんな動物なのか思い出せないでいると、エリザベスさんがその人(?)に話しかけた。

「私たち新入生です」

「かしこまりました。それでは、こちらの石板に手を」

「ええ」

 エリザベスさんは、迷わず石板に手をかざした。
 すると石板の色が変わった。
 本当に異世界だ。

「もう、結構です。では、次の方」

「はい」

 俺が石板に手を乗せると、石板は何も反応しない。
 あれ?
 俺には何の反応もしない?
 
 俺は、『壊れたのだろうか?』と、どこかぼんやりとその光景を見ていたが、なんだかみんな焦っているように思えた。

 図書室の人(?)が慌てて俺の顔を見ながら尋ねた。

「反応しない!? そんなまさか……。あの……失礼ですが、あなたはこの学院の生徒ですよね?」

 ――ここの生徒なのか?

 そう問われると自信がない。
 自分で試験を受けた訳でもないし、願書を提出したわけでもない。
 俺はただクレーメンとかいう男性にここに飛ばされただけだ。

 今さらだけど、もしかして俺ってここの生徒ではないのだろうか?

 俺がそんなことを考えていると、エリザベス様が高圧的な態度で言った。

「何を言っているの? 秀人がここの生徒なのは当然でしょ? ここの学生以外がこの学院の門を通れる訳がないでしょ?! そんな愚かなことを言う前に、早急に原因を究明なさい!!」

 カッコいい~~~~!!
 女王様降臨?!
 味方だとマジで頼もしいな……女王様。

「はい!! 少々お待ちください!!」

 図書室の人(?)は、大慌てで紙に何かを書くと、空中浮かんでいる袋のような物の中に入れた。
 俺は図書室でも面倒に巻き込まれてしまったようだ。

 なんだか申し訳ない。
 出直した方がいいだろうか?

 俺がこの状況をどうするべきかを考えていると、風が吹きガシャンと音がした。
 気が付くと両手両足に鎖付きの鉄のような手枷と足枷を付けて、クマというには深すぎるほど顔の半分が黒くなっている男性が現れた。
 
 うわ……なんか、またヤバそうな人来た……。

 女王様のような美人の次は、全身枷と鎖だらけの男性。
 俺は思わず、遠くを見つめたのだった。



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