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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(63) お兄ちゃんを超えます。
しおりを挟む2○○○年12月31日。
G社主催の格闘技大会は○○ドームに5万人以上のファンが詰めかけた。
MMAパウンドフォーパウンドと言われる『氷点下の男』植松拓哉に、史上最強の女『雌蛇』NOZOMIが挑む試合は大変な話題である。
皆、植松の強さを知るが、NOZOMIは敗れたとはいえ超人渡瀬耕作をKO寸前まで追い込んだ女なのだ。
渡瀬は無差別級であり、それを追い込んだNOZOMIは女子とはいえ植松も油断ならないだろう。
そんなドリームマッチに負けず劣らずの話題になっているのが、兄と妹の禁断のシュートマッチ。
堂島龍太とASAMIは実の兄妹であり、NOZOMIに敗れ帰らぬ人となった堂島源太郎の息子と娘なのだ。
勝者が一年後のNOZOMIの引退試合の相手を務めると発表されていた。
話題にならないわけがない。
NLFS勢は他に天海瞳が男子キックボクサーバンタム級ランカーとの試合が予定されていたのだが、瞳側から体調不良とのことで棄権すると発表された。天海瞳に何があったのだろうか?
堂島源太郎の息子と娘の試合ということもあり、佐知子と継父今井宗平の元にも招待券が届いていた。
「私は家で待ってる。だって、あの子達と約束したんだもの。試合が終わったらまっすぐ帰って、皆で楽しく御節料理を食べようって、、龍太も麻美も約束は必ず守る子だから、色々料理を作っておきたいの...」
「そうだね、、終わったら、オレがふたりを車に乗せて帰ってくるよ。美味しい御節料理を頼むな...」
そう言って、今井だけが出かけた。
(さあ、明日の朝はみんなで御節料理食べるんだから楽しみだわ)
佐知子は不安をかき消すかのように、お節づくりに精を出した。
各試合は順調に消化した。
今年はどれも熱戦で会場は熱狂した。
いよいよ、次は堂島龍太とASAMIの試合である。
佐知子は祈るような気持ちでテレビ画面を見つめた。心臓が破裂しそうだ。
会場の片隅に、試合を棄権した天海瞳の姿があった。
(私はどっちを応援すればいいの?麻美は同じスクールでルームメイトにもなった仲良し。でも私は麻美には悪いけど龍太さんを応援する。だって、私のお腹の中には新しい命が宿っている。龍太さんの...)
(リングアナ)
「ASAMI選手の入場です!」
薄暗い花道にシルエット。
そこにスポットライトが当たるとポップな音楽が大音響で鳴り響いた。
そこに現れたのは三人の美女。
先頭はミニスカート姿の麻美。
後ろにしゃれた流行デニムパンツ姿の
シルヴィア滝田、奥村美沙子を従えての入場である。長身でスタイルの良い三人が、こうしたおしゃれな格好で入場してくると、まるでファッションショーの舞台のようでもある。
(実況)
「もう、この三人は格闘家というよりファッションモデルのようです。特に今夜の主役、ASAMIのミニスカートからスラリと伸びる美しい脚は、、私は信じられません。こんな美少女がこれから男性と戦うということが。しかも相手は血を分けた実の兄なのです」
華麗な堂島麻美の入場。
そしてリングイン。シルヴィアと美沙子は麻美のセコンドに就くようだ。
試合になれば一切の情を捨て非情になりきる麻美だが、相手が兄ということもあり流石の麻美も緊張気味だ。
しかし、リングインした瞬間...。
『女豹』という魔物が降りてきた。
それは麻美の内部に取り憑いた。
堂島麻美は女豹ASAMIになった。
テレビ中継を観ていた佐知子は、自分の娘がリングインした瞬間に目付きが変わったのをはっきり見た。
(あの子は兄が相手でも情は挟まない。
例え兄を殺してでも自分が這い上がろうとする性格。麻美お願いだから無茶はしないで。龍太はお前のお兄ちゃんなのよ。お母さん信じてるから...)
佐知子は麻美の目を見ると、不吉な予感に襲われた。
(リングアナ)
「堂島龍太選手の入場です!」
龍太は大学の柔道部仲間三人を従えて入場してきた。セコンドは柔道部の先輩ふたり。麻美とは対照的に至ってシンプルな入場である。
龍太がリングインすると、麻美と視線が交錯した。
ウオオオオオオ!!
兄妹の睨み合いに場内が湧いた。
兄と妹による真剣勝負。
禁断のシュートマッチ! これからこのリングで、どんな戦いが繰り広げられるのだろうか?
龍太は漆黒のハーフパンツ。麻美はリング上でミニスカートとシャツを脱ぎ捨てると真紅の豹柄スポーツビキニ。
佐知子は龍太の姿を見ると、筋肉が引き締まり精悍さが増したような気がした。かなりのハードトレーニングを積んできたのが見て取れる。
目付きも鋭くなっているが、非情な目をした麻美とは違って戸惑いの表情があるのを見逃さなかった。
(やっぱり、龍太はやさしい子だ...)
佐知子は龍太に “麻美に負けるようなことがあっても長男であることに変わりはない。恥じることなく堂々としていなさい” と言ったが、実際にそうなったら兄としての、男としての自信がどんなに揺らぎ、屈辱で心が傷つくだろう? それを思うとたまらない。
リング下で観ていた今井宗平は、リング上のふたりの更なる成長、進化を感じた。肉体も心もだ。
(ひょっとすると、この勝者は来年のNOZOMI戦で悲願を達成するかも...)
(実況)
「いよいよゴングを待つだけです。今から11年前、このリング上で父源太郎がNOZOMIの腕の中で失神する姿を客席で観ていた堂島龍太と麻美の兄妹。
亡きものとなった父のリベンジを誓いこの日が来ました。そして、勝った方が一年後にNOZOMIへの挑戦権を得ることになります。運命の神様はなんと残酷なのでしょう? 血の繋がった兄と妹の禁断のシュートマッチ!」
龍太は目の前の麻美の背に高さに驚いた。あんなに小さかった妹が、今では自分と2~3cmしか違わない。
全身弾力のあるゴムボールのようでありまさに女豹だ。
(この眼光、、兄に向ける目か?)
麻美も兄の肉体の変化に驚いている。
私と戦うため相当なトレーニングを積んできたのは間違いない。
(私は小さい頃から、ずっとお兄ちゃんの背中を追いかけてこの日まで来た。本当に感謝している。でも、私は負けない。今日、お兄ちゃんを超えます)
宿命のゴングは鳴った。
龍太は麻美の高速タックルを警戒している。そこでテイクダウンを取られると女豹のような速さで襲われマウントパンチを食らってしまう。
そうなれば、その後の展開でもペースを握られてしまうだろう。
打撃の構えではなく、龍太は低い姿勢から慎重に麻美に迫っていく。
麻美は逆に拳を構えたボクシングスタイル。龍太はこの構えに騙されてはいけないと思った。麻美はあり得ない体勢、位置からいきなりタックルを仕掛けてくることがあるからだ。
慎重に慎重に龍太は麻美に迫る。
それを麻美はジャブで牽制する。
龍太が先に仕掛けた。
麻美に組み付こうと前に出た。
シュッ! グサッ!
麻美の右ストレートが真っ直ぐ龍太の顔面に飛んでくるとヒットした。
龍太はニ、三歩よろけると、そのままリングを這った。
ダウンである。
つづく。
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