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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(59) 龍と豹。禁断の対決か?

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呼び出された部屋に龍太が訪ねてみると、NOZOMIは穏やかな表情で目を向けてきた。奥村美沙子との激戦の疲れもあるが何か重要なことを言ってくるような気がして緊張した。

「龍太く、、いや、もう君付けは失礼かもしれないわね? お疲れ様でした。
うちの美沙子はどうだった? 結構手こずっていたようだけど...」

「いや、俺なんて君付けどころか呼び捨てでいいです(笑)。奥村さんは想像以上に凄いテクニックでした。あのしつこさには根負けするところでした。
正直、一年前の自分なら負けていたと思います。この一年で一番成長できたのは精神面だと思うのでどんな局面になっても冷静でいられました」

「そう、、。きっと、デビュー戦でうちの柳紅華に負けてドン底を味わったことが良かったのよね」

「そう思います...」

龍太はNOZOMIの話しに合わせながらも彼女が何を言いたいのか気になる。

「うちのエース候補、シルヴィアと美沙子が続けて倒されたんじゃ、いよいよ次は私の出番かな?って...」

「・・・・・・」

NOZOMIはそう言うと、意味ありげな表情でニヤッと笑った。
龍太はNOZOMIの次の言葉を待った。

「龍太君、シルヴィアを倒して70kg以下級王者、植松拓哉への挑戦券を得た
けど勝つ自信はあるの?」

龍太は植松拓哉の顔を思い出した。
MMA全階級を通じてパウンドフォーパウンド。無敵の絶対王者植松は冷静沈着な戦いぶりから『氷点下の男』と形容され対戦相手を震え上がらせる。
正直、龍太は今の自分の力では勝ちめは薄いと自分でも思っている。
(でも戦いは何が起こるか分からない)

「自信があるかないか?という問題じゃなくてチャンスですから...」

「龍太君はこの夏に21になるのよね?
私も28になるのよ。あと数戦して引退するから時間がない。アナタが植松さんに負ければ、私との試合は実現不可能と断言してもいいのよ」

「で、でも...」

「そこでお願いがあるの。植松拓哉戦を私に譲ってくれないかしら? 彼は女子と試合することは拒むと思うけど、最終的には受けると思う。彼は強い!
私だって勝つ自信はないけど...」

龍太は黙ってNOZOMIの顔を見た。

「その代わり、植松拓哉戦のあとは、龍太君の挑戦を考える。アナタは私と植松拓哉のどちらと戦いたいの?」

「ほ、本当ですか! 自分が今日まで頑張ってこられたのはNOZOMIさんといつか戦いたい一心からです」

「それだけ聞いて安心したわ。今年の大晦日の格闘技戦で私は植松拓哉と戦うための交渉する。そして、同大会で龍太君はある格闘家と戦ってもらう。
龍太君が勝てば、次は私と龍太君の試合が実現。これは約束するわ」

「は、はい! 願ってもないことです。そのある格闘家とは誰ですか?」

「それは、今は言えないわ...」


・・・・・・・・・・・・・・・・


堂島龍太が部屋を出ていって、30分後に今度は妹の堂島麻美が入ってきた。
麻美はNLFS所属であり、NOZOMIはズバリと告げようと思った。

「麻美、本当に強くなったわね?」

「まだまだです!」

「これは、鎌田さんもシルヴィアもトレーナー達も言ってるけど、アナタは既にNLFSでは私に次ぐ実力者。近い将来、私を抜くかもしれない。そこでもう一度聞きたいの。アナタがうちに入校してきた目的は何?」

「はい! NOZOMIさんと、勝っても負けてもいいから戦いたいからです。私はいつも天国の父に心の中でそう話しかけています。そのためには、ここで経験を、NOZOMIさんの近くで経験を積むのが一番と考えたからです」

NOZOMIはジッと麻美の目を見た。
かなり意志の強そうな目。彼女の眼光に流石のNOZOMIもゾッとした。

(女豹のように飛び掛かって来そうだ)

「分かりました。でも、それはアナタのお兄さんも同じ気持ちね。私はあと2戦で引退します」

「え! それじゃ、お兄ちゃんと私、両方の挑戦を受けてくれるんですか? 私を最初に戦わせて下さい!」

「ちょっと待って! そのうちの一戦は今年の大晦日に植松拓哉と戦いたいと思ってるの。そして、来年の大晦日をラストマッチにしたい!」

「ど、どういうことですか?」

「龍太君にも話したけど、来年の私のラストマッチで戦いたいなら、今年の大会である格闘家と戦って勝ち上がって来なさい!ってね。まだ、龍太君に当てる格闘家は決めてないけれど、これがどういう意味か分かるでしょ?」

「それって、ま、まさか...」

「言っておきます。アナタたち兄妹両方の挑戦を受けるわけにはいかない。この宿命のシュートマッチはそんな軽いもんじゃない。私は堂島兄妹どちらか一人の挑戦しか受けない」

流石の麻美も絶句した。

“ 禁断のシュートマッチ!”

そんな言葉が麻美の頭の中に過った。


・・・・・・・・・・・・・・・


それから一ヶ月後。

NLFSからある発表があり、それはある格闘技番組の中で中継された。

NOZOMIが発表する。

「総合格闘技界のパウンドフォーパウンドと言われる、70kg以下級絶対王者と言われる植松拓哉さんと、私の試合が今年の格闘技戦で行われることが正式に決まりました。それと、これは個人的なことですが、植松さんとの試合後はあと一試合、つまり来年の大晦日が私の引退試合になります」

NOZOMIとの対戦を植松はかなり渋ったようだが、マッチメイカーの沼田の執拗な説得に降参したようだ。

NOZOMIが話し終えると、同席していた堂島麻美がマイクを受け取った。

「NOZOMIさんの引退試合の相手に立候補します。それはNOZOMIさんも賛成してくれています。父源太郎に捧げる試合にしたい...」

テレビを観ていた龍太の顔が曇った。


「でも、それは私の兄も同じ気持ちだと思います。それが、私たち兄妹の悲願だからです。お互いにNOZOMIさんとの試合は譲れないと思います」

会場内がシーンとなった。


「私は兄の堂島龍太に挑戦したいと思います。NOZOMIさんへの挑戦権をかけて戦いたい!」


龍太が立ち上がった。

佐知子は悪夢を見る思いだ。


つづく。
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