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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(56) 残酷な考えが頭に浮かぶ。

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遂にその日は来た。

龍太がシルヴィアに、麻美がダン嶋原に挑む宿命のシュートマッチ。
NOZOMIに倒され亡き者となった堂島源太郎の遺児がここまで成長した。

“ 打倒 NOZOMI !”

兄の龍太は勿論のこと、NOZOMIの下でトレーニングを積んできた麻美もその言葉を堂々と口にするようになってきた。麻美にとってはNOZOMIから受けた恩もあるが、それと父の仇討ち?否、父に代わってリベンジしたいという気持ちは別なのだ。

女豹の恩讐!

それを承知でNOZOMIは麻美をスクールに受け入れた。それはNOZOMIも期待しているからなのかもしれない。
只、簡単に挑戦を受ける気はない。試練を与えないと意味がないからだ。


NOZOMI戦という悲願を果たすためには、堂島龍太はシルヴィア滝田、堂島麻美はダン嶋原は避けては通れない壁なのかもしれない。
これはNOZOMIが仕掛け送り込んだ刺客と考えてもいいだろう。

負けてしまえばそこまで...。


NOZOMIはあることを考えていた。

現在27才になったNOZOMIは30才で引退すると公言している。

(そこまで自分の肉体は持つのか?)

実は強豪男子と10年間も死闘を繰り広げてきた彼女の肉体は悲鳴を上げ衰えを自覚するようになってきた。
現役を続けるだけならまだ10年は出来る自信がある。でも、、、。

“ 美しく絶対強くなくてはならない”

衰えた姿は見せたくない。
自惚れでなくそんな美意識がある。

(来年と再来年、あと2試合だけ...)


今夜の試合。
堂島龍太はシルヴィアに、堂島麻美はダン嶋原に勝つのは難しいとNOZOMIは思う。そうなったら残念だけど私との試合は実現しない。でも、あの兄妹は何か想像を超えた何かを持っているような気がしてならない。

(あの兄妹どちらか一人が、今夜ジャイアントキリングを起こすような気がする。そうなったら、私の引退試合の相手になるかもしれない。果たしてどちらが私の前に立つのかしら? でもふたりとも勝ったならば?)


そこでNOZOMIは思案した。

NOZOMIは堂島兄妹どちらか一人としか戦わないつもりだ。

(ふたりとも今夜負けてしまったら、残念だけど堂島兄妹の夢は潰える。でも揃って勝ち上がってきたなら?)

【残酷な考えが頭に浮かんだ。】



堂島龍太とシルヴィア滝田の試合は、MMA70kg以下級王座への挑戦権をかけてという触れ込みだがNOZOMIは植松拓哉の実力を知っている。

パウンド・フォー・パウンド

どちらが挑戦権を得ても植松には勝てない。彼は極めてデンジャラスだ。

植松拓哉には私が挑戦する!

(勝てるかどうかは分からないけれど、私の格闘技人生は植松拓哉を倒すことで終わりにしたい。あの兄妹が試練を超えてきたら別だけど...)



年末格闘技戦は始まった。

NLFS勢一番手に登場したのは柳紅華。
相手は元十両力士 阿修羅海。
かつて、シルヴィアが雷豪、翔龍道といった元幕内力士と戦ったが、十両とはいえ阿修羅海は現役(24才)から総合に転向し今回が2試合目だ。
韓国相撲シルムの女子王者とはいえ相手は日本国技大相撲の十両までいった男である。お互いの意地がぶつかりあい相撲でいうがっぷり四つに組む形から始まった。

紅華は龍太戦の時は70kg以下で戦ったが今では75kg程になっている。阿修羅海は軽量力士であったが、それでも身長180少し体重も100kg前後ある。
四つに組むと体力に勝る阿修羅海がコーナーに紅華を押し込む。土俵があれば彼の寄り切り勝ちなのだがこれは総合ルールなのだ。

ウオオオオ!!

場内が湧いた。
阿修羅海が押し込むとそれを利用した紅華が引きながら投げを打つと阿修羅海が先に膝をついた。
元十両力士が女子に倒された。
これが相手を先に倒した方が勝ちのシルムの実力なのだろうか?

紅華が倒れた阿修羅海に馬乗りになるとマウントパンチを見舞う。TKO勝ちか?と思われたが、スタンディングでは強さを発揮する紅華だが、彼女の課題はグラウンドにある。それに力士の肉体は強靭で必死にガードされ仕留め切れず第1ラウンド終了のゴング。

第2ラウンドになるとスタンディングでの激しい攻防になった。
紅華はテコンドー流打撃で攻め、阿修羅海は相撲流の張り手で対抗。
両者、うっすらと鼻血を滲ませながら凄まじい打撃戦になった。
最後はテコンドーの構えをした紅華に阿修羅海の相撲流ぶちかましが見事に決まると紅華はカウント内に立ち上がることは出来なかった。

柳紅華。
来年の春になると日本で通っていた高校を卒業。韓国へ帰国することが決まっている。日本最後の試合は敗れたが彼女の健闘に場内から惜しみない拍手が送られた。紅華は韓国に帰ったら道場を開きNOZOMIの援助もありNLFSソウル支部としてやっていく方向だ。
控室でモニターを見ていた龍太は感慨深いものがあった。
(俺のデビュー戦相手。俺をドン底に突き落とした女子なのだ。紅華のことは忘れられないだろう。ありがとう...)



NLFS二番手登場は桜木明日香。

50kg以下級トーナメント決勝では、明日香の高速タックルに膝を合わしてきた王島守のKO勝ちだった。

それでも明日香はタックルに拘る。
(この戦法でしか、私は真の強者である王島守には勝てない!)

明日香は膝爆弾を喰らわないように、徹底的に低空高速タックルのトレーニングを積んできた。
低空なら膝は届かない、足首を取り倒したらマウントパンチで仕留める。

実は高速タックルからのマウントパンチという戦法は、堂島麻美も得意にしておりそれは明日香から学んだ。
明日香と麻美は同じレスリング出身で高速タックルが突出して速い。


試合は王島と明日香の睨み合いから始まり、王島はボクシングスタイル、明日香はレスリング流低い構え。
明日香はあり得ない斜めの位置から王島の足元に低空の高速タックルを見事に決めると足首を取った。
そのまま凄いスピードでマウントになると真上から拳を振り落とした。

スモールモンスター、王島守のこのようなピンチ姿は初めてだろう。
場内から驚きの声が漏れ聞こえる。

数発明日香の殴打を喰らい、口を切ったようだが王島は巧い。
それに鋼のような肉体には明日香のパンチは決定打とはならない。

しばらくはグラウンドの攻防が続き膠着状態であったが、最後はスタンディングでの打撃戦で明日香は沈んだ。

スモールモンスター、王島守強し!
最軽量級とはいえ、女子が男子の階級で腰にベルトを巻くのは難しいのか?

リベンジを果たせなかった明日香だが
前回より確実に距離を縮めた。



そして・・・。

次は俺の番だ!

堂島龍太は花道へ向かった。

これから俺はシルヴィア滝田さんと死闘を繰り広げるのだ。

絶対に勝つ!敗れれば先はない。


つづく。

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