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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(13)大晦日格闘技男女大戦争。
しおりを挟む元幕内力士雷豪が空手女子高生シルヴィア滝田に無残にもKOされた試合は、各方面に衝撃を走らせたが、そんな中でも相撲界、角界に与えた影響は大変なものであった。
いくら相撲界から追放され3年以上も経ち練習もろくにしていなかったとはいえ、幕内力士であったのは事実。
それが、ケンカ空手少女と言っても18才の女子高生に倒され、それも鼻を潰され血の海に沈まされたのだから。
幕内力士だったのに高校生の女の子にKOされたのか? 力士って弱いんじゃないの?という噂も立った。
角界のメンツ丸つぶれである。
「雷豪の野郎! 相撲界のメンツをよくも潰してくれたな。練習もせず酒ばかり食らってたそうじゃないか。このままじゃ、まずいぞ! 誰か力士の強さを見せてやろうって奴はいないのか?あのケンカ空手少女をぶっ倒してやろうって奴はいないのかっ!?」
協会理事長からそんな檄が飛んだ。
9月も半ばに入ってすぐのこと。
格闘技運営会社『G』の方から年末格闘技戦のカード発表があった。
「皆さん待望のダン嶋原vsNOZOMIが正式に決定しました!」
うおおお! 会場が湧いた。
「大晦日格闘技戦のメインとして行われます。ルールはキックボクシングルールで行われます。スタンドの状態であっても、投げ、関節技、絞め技は禁止とします。嶋原選手所属団体『S』のルールで行われますので、打撃であっても肘は禁止。膝は勿論ありですが首相撲からの膝は禁止。63kg以下という契約で行います」
会場から疑問の声が上がった。
「そのルールじゃ、NOZOMI選手の得意技全部封じられるじゃないですか。男子が女子の挑戦を受けるのに、それは恥ずかしいと思いませんか? 第一不公平ですよ!」
「色々議論もありましたが、もう決まったことです。NOZOMI選手側としても快く受け入れてくれました」
それでも疑問の声はあったが、決定事項でNOZOMIも納得しているようなのでやがて会場は静かになった。
更に開催者側から大きな発表。
「この年末格闘技戦は、NOZOMI vs ダン嶋原戦をメインに “ジェンダーバトル、男女シュートマッチ三番勝負” として、他に異性格闘技戦が2試合行われます。『大晦日格闘技男女大戦争!』ということになります」
大晦日格闘技男女大戦争!
すごいキャッチコピーである。
「まず、7月の大会で元幕内力士雷豪に勝利したシルヴィア滝田と、去年引退した大相撲元小結、翔龍道の一戦。それから、NOZOMIの柔術の内弟子で無名ではありますが奥村美沙子という16才の少女が、マスターズレスリングで活躍する小杉稔と戦います」
この『大晦日格闘技大戦争』は大変な話題になった。
ダン嶋原vsNOZOMIの一戦は、キックルールでありながらNOZOMI得意の肘を禁じられ、ムエタイ仕込みの首相撲からの膝もだめだという。村椿和樹を沈めたNOZOMIの肘と膝に嶋原陣営が恐れをなし彼女の必殺兵器を全部取り上げたと思われても仕方ない。
そんなルールに世間からも批判の声が上がったが、当のNOZOMIは「どんなルールでも私は大丈夫。それより、嶋原さんとの試合が実現することが嬉しいの...」と、気にしていない。
彼女はこのルールでも自信があるのだろうか? 笑顔にも余裕があるようだ。
そして、7月のデビュー戦で元幕内力士を倒すというNOZOMI以上のインパクトを残したシルヴィア滝田と対戦するのは同じく大相撲出身の翔龍道。
角界から追放された雷豪相手とはいえ幕内経験もある元力士が18才の女子空手家に無残にもKOされたのだ。
メンツを潰された相撲界が刺客として送り込んだのが翔龍道なのだ。
翔龍道の最高位は小結。
前頭13枚目が最高位で幕内経験が二場所しかない雷豪とはその実績が全然違う。彼は173cm 107kgの小兵力士であったが、長い間の無理が祟ったのか? 30を前に腰や膝を痛め十両に陥落。そこでも負け越し32才で引退決意。
それでも一年前までは現役であり、今でも軽い稽古と筋トレを続けているそうで3年以上も何もせず弛んだ身体でリングに上った雷豪とは違う。
シルヴィア滝田という女子高生にメンツを潰され、その名誉奪回のためになりふり構わず角界が送り込んできた刺客なのだ。シルヴィアはどう戦う?
それからもう一試合。
マスターズレスリング(45~50才の部)で、今年全日本3位になった小杉稔は若い頃からレスリング一筋。現在46才であるがまだまだ強靭な肉体を持っている。実直な高校体育教師である。
そんな小杉と対戦するのが奥村美沙子という16才の少女だという。
NOZOMIに内弟子?がいたとは意外であるが、彼女が内弟子に抱えるということは余程才能があるのだろう。
無名ではあるが調べると中学一年までは体操選手であったが、身体が成長し大きくなると体操を諦め柔道に転向したのだと言う。そこでNOZOMIに才能を見出されたのだろうか?
小杉稔(46) 170cm 62kg
奥村美沙子(16) 171cm 60kg
体格はほぼ同じだが、年齢差は実に30にもなる。まるで父と娘のようだ。
その頃、ダン嶋原はジムで必死にトレーニングを積んでいた。
間違ってもそんなことは絶対?あり得ないが、万一このルールでNOZOMIに負けるようなことがあれば切腹ものである。キックボクシングという格闘技そのものの存在意義も問われる。
世間では自分がKO出来なかった村椿和樹を沈めたNOZOMIを恐れ、臆病風に吹かれ彼女の肘、膝をルールで封じてしまったと見られているのだ。
数日前に嶋原はマネージャーの伊吹に食ってかかった。
「こんなルールじゃ、勝っても何の自慢にもなりません。せめて村椿さんがやったようにスタンドなら何でもありルールじゃないと世間も認めません」
「ダン! お前はそんなルールで100%彼女に勝てる自信があるのか? スタンドだけでも、投げ、関節、絞めがあれば間合いが違ってくる。それに彼女の肘、首相撲からの膝は危険だ」
「それでも僕は絶対に負けません。村椿さんは相手が女だからと甘く見ていたんです。自分を過信していたんだ。僕は全力で彼女を倒しにいきます」
「もう決まったことだ。お前は自分の分野、ルールで頂点を目指せ!このルールで負けるようなことがあれば、彼女をダンに代わるキック界のヒロインとして迎えるだけだ。そうなればお前に出番はないぞ。変なプライドは捨てトレーニングに励め!」
ダン嶋原は腹を括った。
圧倒的な強さを見せてやる!
あの美しい顔を、場内から悲鳴が上がるほど破壊してやろうじゃないか。
必ず1ラウンドでKOして見せる
“ オレは村椿さんみたいに相手が女だからと甘くは見ない。「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす」というが、全力でNOZOMIをぶっ倒すのみだ ”
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