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その15 嫉妬
しおりを挟む陽介はホスト狂いになる女性の気持ちが分かるような気がしてきた。
それからも度々真田に逢っていた陽介は彼に夢中になった。
「あの人(真田昭如)には気を付けた方がいいわよ。20代の頃は歌舞伎町でも有名なホストで、、、」
そんな忠告をしてくれる仲間もいた。
それでも真田と会っていると、女としての自尊心をこれ以上ないくらいにくすぐってくれる。
とても褒めるのがうまく、あまりのめり込むのは危険と分かっていても離れられないのだ。
(僕は男だから本当の女性のように狂うことはない。これは単なる遊びなのだから飽きたら終わり。今は彼に褒められると女として悦びを感じるだけ...)
陽介は自分では冷静なつもりでいた。
「マリア! 君の瞳に乾杯♪」
何処かで聞いた台詞だ。
この手のキザな台詞はクサくて気持ち悪いとさえ思っていたのだが、いざ自分が言われるとうっとりしてしまう。
「まだ、マリアとベッドを共にしたことはないよね? マリアを前にすると僕は抱きしめたくなるんだ。一緒に溶け合いたいな、、、」
これが元ホスト特有の口説きテクニックであることは分かっていた。
言葉だけでなく、真田のそれは母性本能をくすぐり陽介は危険を承知で誘惑に負けそうになる。
その度に兄の顔がチラついた...。
この時まで陽介は兄以外と性行為をした経験がなかったのだ。
(お兄ちゃんを裏切れない...)
・・・・・・・・・・
久しぶりに孝介と陽介は郊外の国道沿いにあるラブホで一戦を終えた。
「お兄ちゃんって、やってる時はあまり話さないね? もっと、もっと、いやらしい言葉をかけてくれると燃えるんだけどな。アソコはビンビンなのに」
「おまえ、、俺たちは兄弟なんだぞ。やってる時、どう声をかけるんだ?照れくさくないのか?」
「うん。でも、色々言ってくれると女の子の気持ちになれるんだよね。男は普段は無口でも、ベッドの上ではお喋りになった方がいいんだよ」
陽介は兄との行為の最中、真田のことを思い出していた。
彼ならベッドの中でどんな言葉をかけてくれるんだろう? きっと、うんと精神的快感を与えてくれるに違いない。それに較べ、兄はあまりにも無骨で恥ずかしがりやなのが不満だ。
うんと淫らで乱暴で、それでいてやさしい言葉をかけてほしい。
兄と僕は兄弟で、それがこんなことをしているという罪悪感を捨て切れないから兄は逡巡するのだ。
(マンネリかな? 僕はもっともっと刺激的な女の悦びを知りたい...)
「ところで陽介。お父さん、お母さんの前では、身体は男だけど心は女と言って家での女装を許されているけど、実際はどうなんだ? ホルモンとか全然やってないようだし、将来的に性転換なんて考えてないだろうな?」
「以前も言ったけど、僕は男でいる時は女の人に興味ある。女の子になると男の人に抱いてもらいたい。どっちの心もあるジキル&ハイドみたいなものかな? 自分でもよく分からないんだ。性転換なんかしなくても僕は女の子に見えると思わない? 男にも女にもなれるっていうのがいいんだよね」
「それを聞いて安心した。そうなんだよ、男とも女ともつかない、その妖しい美しさ、倒錯的なところがいい。それに、ホルモンだ、手術だなんて早まると後悔するかもしれないからな」
2ヶ月ぶりの陽介とのセックス。
孝介はベッドの中での陽介の変化を感じていた。何となくたった2ヶ月の間にまた女性化しているように感じた。
(陽介は心も完全に女になったのか?)
それがどういう理由かは分からないが内面のような気がする。
それに、あんなに兄とのセックスに燃えていた弟が、なぜか冷めているように兄は感じていた。
他に男がいるのではないか? なぜ自分は嫉妬しているのか?
所詮、男同士であり兄弟ではないか、弟に他の男がいたって構わないではないか。なぜ、オレは嫉妬するのだ?
「本気にならないでよ...」
と言った母の言葉が思い浮かんだ。
・・・・・・・・・・
その夜。
静江は家事を済ますとプライベートルームでパソコンを開いた。
そこにはニューハーフと言われる人たちが大勢紹介されていた。
息子の陽介が “自分はトランスジェンダーだ” とカミングアウトしてからというもの、気になって、それに母として少しでも理解しようと色々調べているのだ。彼の将来が心配で仕方ない。
ネットで紹介されているプロのニューハーフと比較しても、陽介のそれは遜色がない。(陽介は将来どうするのかしら? ニューハーフとして生きていくの? 同性の恋人が出来て家に連れてきたら? その相手が兄の孝介だったら...)
そんなことを考えながら画面をスクロールさせていると素人女装者紹介欄があり、プロのニューハーフに較べれば未熟、未完成な者ばかりなのだが、その中に目を見張る女装者がいる。
(世の中には素人で陽介以上に女装が似合う男がいるのね? 男とは思えない。まるで本物の美女みたい...)
(ん???こ、 これは...)
静江は何か違和感を覚えもう一度その画像を目を凝らして見た。
プロフィールにはマリアとあった。
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