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一文字
【漢字一文字】天使 〜やればできる子埋もれて終われ〜
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やればできる子埋もれて終われ。
「文章力向上委員会」に掲載していた短編より。
お題は「背」
2007年4月
塾の教室、教壇のど真ん前に高瀬雪子がいた。
慣れない場所に緊張しているのか、一人心細げに肩を寄せて座っている。
雪子の姿に僕の胸は早鐘を打った。
年齢にそぐわぬ子供っぽいTシャツの背には天使の羽。
ラメの入った青い線で一筆書きされた羽が、蛍光灯の明かりでキラキラ光っている。
錦糸のように光る色素の薄い髪。
うっすら覗く吸い付きそうな白い肌。
桜色の頬……。
「ああ、麗しの天使様~~!」
後ろから柳生俊夫が肩を掴み、囁いた。
それから堪えきれないと言った風に吹き出し、唾を飛ばす。
「ばっ……きったねぇな」
「ぼーっと突っ立ってねーでさっさと入れよ。見惚れちゃって。青春だね~」
俊夫が僕の肩を揺らす。
「は? ちげーし。誰があんなブス。小学生みてーなだっせーシャツ着てんなぁって見てただけだし」
見透かされたようで悔しくて、つい悪態をついてしまう。
「天使様も西高志望だって聞いたぜ。……ほい三巻」
俊夫は貸してくれると言っていた漫画の続きを押し付けると、自分の教室へ向かった。
塾は成績でクラスが決まる。
俊夫はAクラス。
西高ならAクラス、少なくともBクラスに入っておかなくてはだめだ。
なのに同じ西高志望の僕はといえば、今月もまたCクラス。
雪子もCで、西高志望なのか……。
入り口付近の席に腰掛け雪子の背中を見る。
西高を目指すなら、今は女の子のことよりも勉強に専念するべきだ。
そんな言い訳をしてひとりぼっちの雪子に声もかけようとしない僕は、やっぱりへたれだ。
「はぁ? 何でこんな離れた席に座ってんだよ」
講義を終え机の上を片付けていると、いきなり後頭部をはたかれた。
振り向くと俊夫が腰に手を当てて仁王立ちしている。
「だっから、別にお前が思ってるようなことなんか……」
「じゃあ、俺が取っても後悔しないな? 言っとくけど、タナボタはねーからな。西高も天使もチャレンジせずに手に入ると思うなよ?」
俊夫の声に雪子が振り返る。
「あ」
僕らの姿を見つけると雪子の頬が緩んだ。
「あれ高瀬? いつから?」
俊夫は、たった今雪子の存在に気がついたというような驚いた顔を作って雪子のもとへ歩み寄る。
僕を残したまま。
「今日初めてだよ~。もー誰も知ってる人がいないと思って緊張してたよ~。柳生くんは何組?」
「Aだよ」
「すっご~い。さすが柳生くん、あったまいいなあ~」
雪子がふわっと蕾のほころぶような笑顔を俊夫に向ける。
えくぼ。
長いまつげ。
「三枝くんもA組?」
「へっ?」
雪子が目を合わせてきた。
「まさか。こいつやる気ねーもん。やればできる子埋もれて終われ」
しどろもどろな僕に俊夫は呪いのような言葉を吐きベェッと舌を出す。
「高瀬帰りは迎え? 一人なら送っていこうか?」
「いいの?」
警戒心ゼロな笑顔を向ける雪子の背中に俊夫の手が触れる。
このままでいいのか? いやよくない。
何もしないで負けるなんて、情けないじゃないか。
「ちょ……待て、高瀬気付けよ! それ一番危険なパターンだかんな!」
僕は二人の背中を追いかけた。
「文章力向上委員会」に掲載していた短編より。
お題は「背」
2007年4月
塾の教室、教壇のど真ん前に高瀬雪子がいた。
慣れない場所に緊張しているのか、一人心細げに肩を寄せて座っている。
雪子の姿に僕の胸は早鐘を打った。
年齢にそぐわぬ子供っぽいTシャツの背には天使の羽。
ラメの入った青い線で一筆書きされた羽が、蛍光灯の明かりでキラキラ光っている。
錦糸のように光る色素の薄い髪。
うっすら覗く吸い付きそうな白い肌。
桜色の頬……。
「ああ、麗しの天使様~~!」
後ろから柳生俊夫が肩を掴み、囁いた。
それから堪えきれないと言った風に吹き出し、唾を飛ばす。
「ばっ……きったねぇな」
「ぼーっと突っ立ってねーでさっさと入れよ。見惚れちゃって。青春だね~」
俊夫が僕の肩を揺らす。
「は? ちげーし。誰があんなブス。小学生みてーなだっせーシャツ着てんなぁって見てただけだし」
見透かされたようで悔しくて、つい悪態をついてしまう。
「天使様も西高志望だって聞いたぜ。……ほい三巻」
俊夫は貸してくれると言っていた漫画の続きを押し付けると、自分の教室へ向かった。
塾は成績でクラスが決まる。
俊夫はAクラス。
西高ならAクラス、少なくともBクラスに入っておかなくてはだめだ。
なのに同じ西高志望の僕はといえば、今月もまたCクラス。
雪子もCで、西高志望なのか……。
入り口付近の席に腰掛け雪子の背中を見る。
西高を目指すなら、今は女の子のことよりも勉強に専念するべきだ。
そんな言い訳をしてひとりぼっちの雪子に声もかけようとしない僕は、やっぱりへたれだ。
「はぁ? 何でこんな離れた席に座ってんだよ」
講義を終え机の上を片付けていると、いきなり後頭部をはたかれた。
振り向くと俊夫が腰に手を当てて仁王立ちしている。
「だっから、別にお前が思ってるようなことなんか……」
「じゃあ、俺が取っても後悔しないな? 言っとくけど、タナボタはねーからな。西高も天使もチャレンジせずに手に入ると思うなよ?」
俊夫の声に雪子が振り返る。
「あ」
僕らの姿を見つけると雪子の頬が緩んだ。
「あれ高瀬? いつから?」
俊夫は、たった今雪子の存在に気がついたというような驚いた顔を作って雪子のもとへ歩み寄る。
僕を残したまま。
「今日初めてだよ~。もー誰も知ってる人がいないと思って緊張してたよ~。柳生くんは何組?」
「Aだよ」
「すっご~い。さすが柳生くん、あったまいいなあ~」
雪子がふわっと蕾のほころぶような笑顔を俊夫に向ける。
えくぼ。
長いまつげ。
「三枝くんもA組?」
「へっ?」
雪子が目を合わせてきた。
「まさか。こいつやる気ねーもん。やればできる子埋もれて終われ」
しどろもどろな僕に俊夫は呪いのような言葉を吐きベェッと舌を出す。
「高瀬帰りは迎え? 一人なら送っていこうか?」
「いいの?」
警戒心ゼロな笑顔を向ける雪子の背中に俊夫の手が触れる。
このままでいいのか? いやよくない。
何もしないで負けるなんて、情けないじゃないか。
「ちょ……待て、高瀬気付けよ! それ一番危険なパターンだかんな!」
僕は二人の背中を追いかけた。
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