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高橋 かなえ

13 かまってほしくてしたことだから?

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 凛花とのやりとりをハラハラした顔で見守っていた杏が、百瀬のことから話をそらす。

「とにかく、かなえは上級生に言われたことを真に受けて、それからずーっとオシャレに背を向けてきたってことね。でもさぁ。小さい時からスタイル良くて、あれだけうらやましがられてきたのに、なんで私たちよりそんな人たちの言うことを聞いちゃうかな」

 ほんと、どうしてなんだろう。杏の言うとおりだ。
 パパもママも友達も、あたしのことを悪く言わなかった。たくさんほめてもらってきたし、かばってもらってもきたと思う。
 なのに、大きいことをはじめ、色黒なところや天パなど気に入らないところばかりをピックアップして、自分はかわいくないなあと思ってしまう。

 色の白いは七難かくすという言葉や、きれいな髪といったら天使の輪のできる黒髪ストレートというイメージがある。
 女子は華奢でか弱いのがよくて、反対に男子は活発でたくましくないといけない、というような。
 一般的なきれいな子のイメージから外れている自分はダメだって、いつの間にかなんとなく思いこんでいたような気がする。
 そこに上級生の言葉がガーンと来て、私の中にすっぽりおさまってしまった。

「よくわからないけど、自分の中で声がしてた。調子にのんなよって。自分のことかわいいとでも思ってんのかって。それでスカートをはこうとしても、やめようってなっちゃう。またあんなふうに言われたらって思うと、怖かったんだ」

 三人とも苦いものを口にしたような顔をしてだまってしまった。あまりに暗い告白だったかもしれない。
 長い沈黙を断ち切るように由美子が声を上げた。

「その上級生、かなえちゃんのことが気になってたんじゃないかなあ。かなえちゃんは大葉くんたち男子ともよく話してたし、ノリがいいから。気を引けばかまってもらえるとおもったのかも」

 由美子の言葉に杏がテーブルに手をつき身を乗り出した。

「気を引くって、かんちがい女とかゴリラとか言って? それでどうしていい関係になれると思うの? 話したこともないのに。距離感バグってるっ」

 普段イヤなことを言われても笑って流してるって言ってたのに、人のことになると許せないのだろうか。杏の怒りが爆発した。頬を膨らませてさらに続ける。
 
「イヤなこと言われたのはこっちなのに、知らないよ。なんでそこまでわかってやんなきゃいけないの」
「あっ。かなえちゃんがわかってあげるべきだったって意味じゃないよ。ただ、相手の言うことに意味はなかったっていうか。だから、もう忘れていいんだよって伝えたくて……」

 由美子の静かな弁明に、杏はふうっと大きなため息をつき、ぽろりとこぼした。

「おとなってさ、男子は好きな子にいじわるするんだってよく言うよね。どう考えても相手が悪いってわかってるのに、なんでかばうの? なんで許さなきゃいけなくなんの? 私はそんなこと言われても全然なぐさめられない。由美子は平気なの?」

 立て続けの疑問に、悪意を向けられても笑って流さなければやってられなかった、杏の悔しさ、納得できない思いが滲み出す。
 立ち向かえばノリのわからないやつにされ、流していれば当然言われっぱなし。どっちにしろ自分を守ることはできないのだ。
 傷ついたのに、怖かったのに、やめてほしいのに、抵抗できない。
 そんな惨めさを抱えたあたしを、あたしはどうやって好きでいることができるだろう。

「ごめん。あたしも杏と同じ気持ちかも。意味ないんだからそんなことで傷つくなって聞こえる。いつまでもこだわって忘れられないのはおかしいよ、強くなんなきゃダメだって」

 正直に伝えて落ちこんだかなと由美子の顔を見る。由美子は授業中数式を解いているときのように真剣な顔をしていた。

「私の方こそごめん。そんなつもりはなかったの」

 否定的な言葉もちゃんと受け止めてくれる由美子のことを、あらためて好きだなと思う。
 黙ってやりとりを聞いていた凛花が、なるほどなあとつぶやいた。

「なーんか、今ので私、なんでかなえがまともに聞いてくれないって言うのかわかったわ。確かに私、かなえがやだって言ってもぜんぜん本気にしてなかった。なぜかいいんだって思いこんでたもん」

 胸の前で細い腕を組む。

「かなえがギャーギャー言うのはそういうお約束だと思ってたし、今日みたいに本気で怒られたらなんでそんなノリが悪いのって腹が立った。男子も私とおんなじなんだね。そっか。だから男子もやめないのか」
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