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第1章
201話 ギルド支部長ナタリア・ライツェンの取引
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武装した冒険者ギルドの者らに拘束された僕らだが木製の手枷足枷を掛けるどころ縄すら繋ごうとはしない。多少の規律違反者なのだがその扱いはまるで恩人のような対応であった。
それと同時に倉庫の外から出された品々を「現場公開品」という名目を付けて次々と回収していくギルドの職員ら、それに激昂する貴族連中であるがさすがに状況が悪すぎて財宝を確保できなかった。ここでもし財宝の品定めをされると所有権でゴタゴタが起きるだろう。
貴族らから憎々しげな視線を向けられながら品々は全部回収されたとのことだ。後で聞いた話だが。
そうして、僕と仲間らは現場にいた重要参考人という扱いのまま取り調べを受けていた。
「ユウキ・トヨクニ・南部に新しく建てた貴族家の当主で間違いないな」
「はい」
「貴殿はここに何をしに来たのだ?」
「不当に通行税を聴取しているという貴族家の調査で」
「なぜ都合よく火事現場にいたのだ?」
「時と場所の巡り合いかと」
内容については規則通りの解答だけしかしない、火事を発生させた張本人とか事前に倉庫に納められていた財宝のこととか何一つとして聞かれなかったからだ。聞かれないことを話す必要などないしそれを証拠として書き残されても面倒だし。
僅か三十分足らずの話をしただけで、
「なるほど。あくまで火急的に速やかに現場に対応しただけのようだ。ご苦労」
これで全員無事に解放されることになる。
その後速やかにギルド支部長の部屋まで案内された。
「はじめましてぇ~、ここでギルド支部長を任されているナタリア・ライツェンよぉ~」
すぐさま握手をする。準男爵位だそうだ。
「さて、単刀直入に聞くけどぉ~。あれ、自作自演よねぇ~」
彼女は即座に本題を切り出した。僕はそれに平然と答える
「その根拠は?」
「状況を町全体で調べるとぉ~、町に放火犯が出たという看板の出たというタイミングと出火のタイミングにぃ~、若干人の介入する時間差があったのよぉ~」
…この短時間にそこまで調べたのか。確かに看板を立てるタイミングと出火のタイミングを結構調整したが画策する時間差が出来てしまったのは事前に判断していたが。この人、予想以上に出来る人のようだ。
「その間にぃ~、目撃者らしき目撃者もいないぃ~、これってぇ計画犯よねぇ~」
「そう思われるのならば犯人をなぜ確保しないのですか」
ややとぼけた風に反論する。
「大事の前の小事よぉ~、放火犯は確かにそこそこの刑を受けるべきだけどぉ~、貴族の不法蓄財の罪を暴いたという功の方が重要なのよぉ~」
「なるほど」
「ここまで狙いすました犯罪者を追い詰めるのは一苦労~、それならこっちの都合がいいように動いてもらう方が楽ぅ~」
彼女の言う”都合のいい行動”という一文に僕は何らかの裏取引が必要であると判断した。
「何をお望みですか?」
「後ろに振り向いてぇ~」
売りその扉を見ると女性のギルド職員が立っていた。彼女はただひたすらに他愛の無い話を勝手に始める。その合間合間を縫うように後ろから独り言らしき話が飛んできた。
「(ここから~西にあるヴァリアル塩田でぇ、塩の納品が長期間滞っているのよぉ~。どうもぉ~領主が勝手に野盗や狼藉者ら集めて決起したらしいわぁ~。塩はここ一帯の重要な資金源、それを滞らせては大迷惑。交渉に向かうと法外な増額を提示してきたわぁ~。これは一大事、即座に解決しないとねぇ~)」
なぁるほど、塩はすべて国家と繋がりのある領主と商人の専売品である。正確に言えば塩田を整地する際の条件として沿岸一帯の土地を国法で無理矢理任命しているのだ。塩は物資としては最重要の品物である。それの納品を滞らせては即座に極刑のはずなのだ。
だが、国が独占していて冒険者ギルドでも手が出せない場所の場合、領主らと商人が結託して納入を遅らせたり金額を吊り上げたりする例は考え付くのはたやすい。普通は予算内のやりくりで不審がられない程度に抑えるものだが欲が出ると力づくでの値上げに出る例もある。
塩製造の専売で得られる資金は群を抜いているからなので武力蜂起という手段も黙認されてしまう。
「(解決してくれるならぁ~、望むがままの褒美を出すわぁ~。通行税を取る連中ぐらいいくらでも黙らせてあげるぅ~)」
塩の納品を拒否することによる損害と僕の通行税を取るという行為の損害を比べれば明らかに前者の方が圧倒的に大きい。将来的にはどうなるかまだ分からないがこの人の密命に応じた方が問題を解決するのは早そうだ。
「(早速取り掛からせてもらいます)」
小声で了承する。
「(証拠を残さないようにねぇ~)」
それと同時に女性の他愛の無い話も終わり扉を出ることになった。
「「ユウキ様、ご無事でございますか!」」
扉の外ではアルムとエルヴィンが待っていた。
「手荒なことはされなかったかな」
「そのことなのですが。なぜか武器の類しか取り上げられず縛られもしませんでした」
「というか。むしろ大事な客人のような対応です、どうしてなのでしょうか」
多分、こちらの戦力を無傷で使うためだろうな。下手に危害を加えると事態の解決が遅れると向こうが判断したのだろうな。
もう引き受けてしまったのでどうしようもないが、物資も兵も何一つとして送ってはこないだろう。そういう事情であり取引ということなのだ。この人数ぐらい消えても何一つとして問題がないからだ、職業貴族としても代わりは補充できるという意味でもある。
ま、だからこそ恩賞が莫大なのだ。
この二人を鍛えたいと考えていたがそれは後になるな。どのみち妨害をしている貴族らを個別に潰して回るのは一苦労、ナタリアの褒美の内容がどの程度なのかは判断しづらいが兵士たちを無傷のままでいさせたというからにはなにがしかの結果を望んでいるのだろう。
連戦な上に情報も不明、性根を据えて取り掛からないと
それと同時に倉庫の外から出された品々を「現場公開品」という名目を付けて次々と回収していくギルドの職員ら、それに激昂する貴族連中であるがさすがに状況が悪すぎて財宝を確保できなかった。ここでもし財宝の品定めをされると所有権でゴタゴタが起きるだろう。
貴族らから憎々しげな視線を向けられながら品々は全部回収されたとのことだ。後で聞いた話だが。
そうして、僕と仲間らは現場にいた重要参考人という扱いのまま取り調べを受けていた。
「ユウキ・トヨクニ・南部に新しく建てた貴族家の当主で間違いないな」
「はい」
「貴殿はここに何をしに来たのだ?」
「不当に通行税を聴取しているという貴族家の調査で」
「なぜ都合よく火事現場にいたのだ?」
「時と場所の巡り合いかと」
内容については規則通りの解答だけしかしない、火事を発生させた張本人とか事前に倉庫に納められていた財宝のこととか何一つとして聞かれなかったからだ。聞かれないことを話す必要などないしそれを証拠として書き残されても面倒だし。
僅か三十分足らずの話をしただけで、
「なるほど。あくまで火急的に速やかに現場に対応しただけのようだ。ご苦労」
これで全員無事に解放されることになる。
その後速やかにギルド支部長の部屋まで案内された。
「はじめましてぇ~、ここでギルド支部長を任されているナタリア・ライツェンよぉ~」
すぐさま握手をする。準男爵位だそうだ。
「さて、単刀直入に聞くけどぉ~。あれ、自作自演よねぇ~」
彼女は即座に本題を切り出した。僕はそれに平然と答える
「その根拠は?」
「状況を町全体で調べるとぉ~、町に放火犯が出たという看板の出たというタイミングと出火のタイミングにぃ~、若干人の介入する時間差があったのよぉ~」
…この短時間にそこまで調べたのか。確かに看板を立てるタイミングと出火のタイミングを結構調整したが画策する時間差が出来てしまったのは事前に判断していたが。この人、予想以上に出来る人のようだ。
「その間にぃ~、目撃者らしき目撃者もいないぃ~、これってぇ計画犯よねぇ~」
「そう思われるのならば犯人をなぜ確保しないのですか」
ややとぼけた風に反論する。
「大事の前の小事よぉ~、放火犯は確かにそこそこの刑を受けるべきだけどぉ~、貴族の不法蓄財の罪を暴いたという功の方が重要なのよぉ~」
「なるほど」
「ここまで狙いすました犯罪者を追い詰めるのは一苦労~、それならこっちの都合がいいように動いてもらう方が楽ぅ~」
彼女の言う”都合のいい行動”という一文に僕は何らかの裏取引が必要であると判断した。
「何をお望みですか?」
「後ろに振り向いてぇ~」
売りその扉を見ると女性のギルド職員が立っていた。彼女はただひたすらに他愛の無い話を勝手に始める。その合間合間を縫うように後ろから独り言らしき話が飛んできた。
「(ここから~西にあるヴァリアル塩田でぇ、塩の納品が長期間滞っているのよぉ~。どうもぉ~領主が勝手に野盗や狼藉者ら集めて決起したらしいわぁ~。塩はここ一帯の重要な資金源、それを滞らせては大迷惑。交渉に向かうと法外な増額を提示してきたわぁ~。これは一大事、即座に解決しないとねぇ~)」
なぁるほど、塩はすべて国家と繋がりのある領主と商人の専売品である。正確に言えば塩田を整地する際の条件として沿岸一帯の土地を国法で無理矢理任命しているのだ。塩は物資としては最重要の品物である。それの納品を滞らせては即座に極刑のはずなのだ。
だが、国が独占していて冒険者ギルドでも手が出せない場所の場合、領主らと商人が結託して納入を遅らせたり金額を吊り上げたりする例は考え付くのはたやすい。普通は予算内のやりくりで不審がられない程度に抑えるものだが欲が出ると力づくでの値上げに出る例もある。
塩製造の専売で得られる資金は群を抜いているからなので武力蜂起という手段も黙認されてしまう。
「(解決してくれるならぁ~、望むがままの褒美を出すわぁ~。通行税を取る連中ぐらいいくらでも黙らせてあげるぅ~)」
塩の納品を拒否することによる損害と僕の通行税を取るという行為の損害を比べれば明らかに前者の方が圧倒的に大きい。将来的にはどうなるかまだ分からないがこの人の密命に応じた方が問題を解決するのは早そうだ。
「(早速取り掛からせてもらいます)」
小声で了承する。
「(証拠を残さないようにねぇ~)」
それと同時に女性の他愛の無い話も終わり扉を出ることになった。
「「ユウキ様、ご無事でございますか!」」
扉の外ではアルムとエルヴィンが待っていた。
「手荒なことはされなかったかな」
「そのことなのですが。なぜか武器の類しか取り上げられず縛られもしませんでした」
「というか。むしろ大事な客人のような対応です、どうしてなのでしょうか」
多分、こちらの戦力を無傷で使うためだろうな。下手に危害を加えると事態の解決が遅れると向こうが判断したのだろうな。
もう引き受けてしまったのでどうしようもないが、物資も兵も何一つとして送ってはこないだろう。そういう事情であり取引ということなのだ。この人数ぐらい消えても何一つとして問題がないからだ、職業貴族としても代わりは補充できるという意味でもある。
ま、だからこそ恩賞が莫大なのだ。
この二人を鍛えたいと考えていたがそれは後になるな。どのみち妨害をしている貴族らを個別に潰して回るのは一苦労、ナタリアの褒美の内容がどの程度なのかは判断しづらいが兵士たちを無傷のままでいさせたというからにはなにがしかの結果を望んでいるのだろう。
連戦な上に情報も不明、性根を据えて取り掛からないと
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