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第1章

186話 有頂天な馬鹿勇者 Ⅳ

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「クソッ!ユウキめ、何という恩知らずだ。我々が温情をかけて使ってやっていたというのに!」

「ええ、本当ね!やはり愚か者は先に排除しておくべきだったわ!」

ベルライトとカノンは罵詈雑言を吐き出し重傷を負ったベルファストを連れて町まで逃げていた。

ちょっと脅せば言うこと聞くと思っていた三人は予想だにしない反撃を食らい驚きを隠せなかった。パーティにいた頃はあれほど従順だったというのに。これでもうユウキとの縁は切れてしまったも同然だ。こんな体たらくで帰ればジークムントらに何を言われるか…。ともかく何かをして挽回しなければの一念だった。

「横になっていろ。医者を連れてくる」

ベルライトが町の宿屋のベッドに重傷を負ったベルファストを横たえて安静にするように言うが、

「クソぉ、クソクソクソ!ユウキめ、平民のくせに下のくせに…。ゆるさん、許さんぞ!我らは勇者、国の未来を…」

口から血の泡を吐き出しながらユウキに対して怨嗟の声を上げ続けるベルファスト。

ともかく、医者を連れてくることにした。

『ど、どうなのだ?』

町の中にいた医者を何とか連れてきてベルファストの容態を確認させるが表情は芳しくなかった。

「内臓にかなりのダメージを受けています。もしかしたら折れた骨が内臓に刺さっているかもしれません。こうなると高位の神官魔術しかないのですが…」

自分の手には負えないと、医者は断言した。何とかならないか?そう思う二人だが自分らでも危ういと思うほどなのでそうせざるを得ないことを何となく感じていた。

今までユウキを雑用しかできないゴミだと判断していたがあのような力を隠し持っていたことが悔やまれる。あの力にもっと早く気が付いていれば格段に上に行けただろうと。

この医者では処置できないと、そう言われて医者は去る。

ジークムントのパーティには神官魔術を使えるものがいたはずだ。頭を下げるのは嫌だが下げざるを得ないか。どうしてこんな立場にまで落ちぶれたのか、二人には考えようが無かった。

そうして……、二人はベルファストを置いてジークムントの所まで戻るのだが。

「なにぃ?ベルファストが重傷を負ったから助けて欲しいだと?」

ジークムントらはこの上なく嫌そうな顔をした。

「勝手にどこかに出かけていたと思ったらベルファストが重傷だと、ふざけるな!我ら勇者は威信と誇りを背負っておるのだ。どこの馬鹿か知らぬがそんな相手ごときに負けた奴にかまっている暇などない!」

激昂し怒声を上げるジークムントら。それを眉を顰める者も何人かいたがベルファスト程度など構う気がないことに二人は失望した。

「し、しかし。その代わり重要な情報を得ました」

「本当か?」

「ええ、もちろんです」

ベルライトとカノンはかつて同じパーティにいたユウキのことを言いふらす。

「ユウキ?確か不吉な黒い髪と瞳を持つ異邦人だな?確か生まれが…」

ジークムントが何か思案している。

「……あの家の出の者だな」

「「そ、そうです!」」

「あの家の者らはいつの時代になっても逆らい続けているな、まったくもって面倒な」

ここで勇者らはユウキに対して思案する、ユウキと勇者らしか知らない秘密、彼の出生。

「よし、我らが対応してやる」

ありがたく思えと。何とか引き出した答えに安堵する二人をあざ笑うかのようにジークムントから驚きの言葉が出てきた。

「ベルファストは即刻始末しろ」

「「ええっ!?」」

余りにも感情の無い答えに二人は絶望する。どうして、そんな…。

「関係を悪化させた者などいらん。我らこそが真の勇者なのだ。ベルファストなどしょせん先触れ、これからは我らが舵取りをする順番だ。さぁ、さっさと帰りベルファストを始末しろ」

余りにも容赦のない返事に二人はひたすら頭を下げるが返事は同じだった。

「始末できぬのなら、分かるな?」

ベルファストだけでは無く自分らの身さえ危ういこと、それをほのめかされ二人は結局ベルファストの元まで帰ることになった。

「ユウキめ、ゆうきめ、ゆう…き」

町の宿屋にもどるがベルファストは苦悶の声を上げ続けている。ここまで連れ添った仲間を見て二人は迷う。今落ち目である自分らには何かを変える必要があった。それが何なのかを二人は夜まで悩んで、決断した。

夜の暗闇の中、ベルライトとカノンは町近くの崖にベルファストを担架で担いできて。

「「ごめんなさい」」

ベルファストの乗った担架を崖目掛けて放り込んだ!

ガラガラガラ

悲鳴を上げる間もなくベルファストは崖下に落ちていく。二人は足早にそこから去るのだった。







~ベルファスト視点~

「(おのれ…。おのれおのれおのれユウキめ!許さん、ゆるさんぞ。偉大な勇者になるはずの俺をこんな目に合わせおって。体が治れば復讐してやる、絶対に復讐してやるぞ!)」

町のベッドで体を横たえながらベルファストの思念はひたすらに憎悪と怒りで満ちていた。その視線の先には連れ添った仲間であるベルライトとカノンがいた。

彼ら二人が何かを言い合っているがベルファストの耳には届かない。

しばらくして、二人が戻ると自分は担架で外に動かされる。

「(どうやら、治療してくれる相手を見つけたようだな)」

暗闇の中、運びだされる自分を何とか助けようとしてると判断したベルファストだが、時間が経つにつれて人気のない方向へと向かう二人に違和感を覚える。そして、連れて来られたのは底なしの崖であった。ここで何とか声を上げる。

「な、なにを?」

か細い声

その声は二人には入らずに、

「、あああ!ああああ!!、あああああああ!!!」

自分の体が容赦なく崖下に投げられたのを体で感じた。

最初は浮遊感、そして恐怖。しばらくしたら崖の岩肌に体が叩きつけられる痛み、それが何度も何度も何度でも。やがて体が動かなくなり意識を失う。

通常であればここで即死なのだが、

「が、ががが、がぁぁあ!」

野獣のような声が崖から木霊した。
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