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第1章

153話 商売の雛型 Ⅰ

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手始めにライク家に商売の雛型を提供した僕は次の構想に着手する。大雑把に営業形態を見ると飲食店六割雑貨店三割その他一割というところだ。

やはり飲食店が一番多い。新規参入もしやすいがうまくいってない場合も多いのだ。これから手を付けることにする。

店の大きさも資金もバラバラなのである程度条件を統一する必要があるだろう。

ここで僕は条件を『資金』『立地』『規模』『人手』『対応』の五つの要素で構成することにした。ここに売る『商品』を加えていないのはその要素を入れると統合性が取れないと判断したのだ。商品に該当する部分は土地などにより左右されるのでその条件は除外して確たる要素だけで構成する方が好ましい。

これに『小中大』を加える。これはもちろん先の要素の大きさであり少なく済むか大きくするか中ぐらいにするか、なにも大きいほどいいわけではない、予算が少なくても繁盛する理由は多い。低予算小規模でも出店させられるのならばその方が良いからだ。

これで大まかな枠組みは終わりだ。なお、完成度は八割前後というところに留めている。雛型を完成させてしまうと条件状況に対応できなくなる場合があるし店主の工夫が盛り込めない等の場合を考慮している。八割ほどに留めて現場で改良すればいいだけだ。八割とは言うが僕が考案しているので十分儲けを出せる計算をしている。

それらの条件を紙に書き込んで書類にすれば完成だ。

「はい。この条件で店の再建計画を実施します」

リサギルド支部長に渡すと彼女は大雑把に見て判子を押した。

「中身を詳細に確認しないのですか」

僕は殆ど書類審査無しで内容が通ることに不思議を覚えた。

「ユウキの手腕については確認するまでも無いことですし周りがうるさいのですよ」

店の経営改善案は中々進んでおらず手間も掛かる。それが一刻も早くできるのならばあれやこれや問うても仕方ないことだと。やはり、店の経営が危ういのは事実なようだ。

「とりあえず、状況条件が違う店を三件ほど任せます。これの店経営改善を行って下さい」

期日は長めに取りことになるが経営改善に掛かる費用や期日は少なければ少ないほど高評価だということだ。

さて、どんな店を任されることになるのだろうか。

「よく来てくれたな。待っていたぞ」

一軒目はごく普通の飲食店だった。店の規模も人通りも中ぐらいだが資金は小というところだ。

「リサギルド支部長から店の経営改善を依頼されました」

「そうか。まぁ、ゆっくりしていけ」

店の中に入るとごく普通の食堂のようだ。

「で、どのようにして店を改善するんだ?」

店長である男性から質問される。その前に確認作業を行う。

「先に忠告しておきます、店にお客を来させることは難しくありません。しかし、その客に対応できる店を維持する心構えを持たないと店はいずれ閉店するしかないでしょう」

「む?」

店長の男性は意外な返答に驚く。

ハッキリ言うが店に客を来させる手段はして難しくない、問題は店に来た客の対応だ。まともな客もいればひたすら無駄話ばかりする客もいる。それらに的確に対応しなければ店の中は客で詰まってしまう。それ乗り越えても店に来る客は止まらない。外に並ぶ客にも対応しなくてはならなくなる。

さらに言うと客が大勢来ることで隣接する家々の迷惑になる場合も多い。両隣と正面は間違いなくその被害を被るので近所付き合いも手抜かりなくしなくてはならない。

現代でも人気店の噂を聞いて押しかける客の対応次第で流れは大きく変わる。店側としてはそれらに対応し努力する姿勢を保たなくてはいずれ客から見放されてしまうからだ。

「店に客を来させても売る商品が無かったり遅れたり、はたまた対応できなければいけません。それは店側の努力であり依頼主からの要望です」

僕も改善案は出すが出来る限り現場の対応で行って欲しい。これはモデルケースなのでそのあたりの問題点を解消しておかないと後々処理しきれなくなる。

「そうか。ただ店に客が多く来れば儲かると考えていたが。そうなるとそれはそれで問題だというのだな」

「はい」

「君が依頼を受けてくれたのはありがたいよ」

「具体的に状況を教えてください」

店の従業員は店長を含めて三人、この規模なら普通だが。中身を見ると厨房がさして大きくないな。このまま客を呼び込むと詰まる危険がある。

とはいっても、調理場を拡張する資金も無いのは明らか。当面はこのままでやるしかないか。接客を何とかすればいける範囲だと思う。

経営改善にかかる依頼金は冒険者ギルド審査部門の管轄なので僕からは要求は出来ない。要求要望は頻繁に来るが対応策が無く依頼が山と積まれている状況なのだ。急ぎ改善しなくては。

そうして、一軒目の経営改善を開始する。

要点は『呼び込み』『付き合い』『商品改良』の三点だけである。

呼び込みはそのままの意味で店の情報を外に向けて発信すればいいだけ、これが実は疎かにしている店が圧倒的に多い。「店長が何処の店で修行していました」「こういう料理を出してます」という情報が外に出してないので店の中身が分からず躊躇してしまう客が多いのだ。

まずは手書きのチラシを店長を含めて書いてもらう。売り物の商品やちょっとした特徴などを書いてもらう。とりあえずそれを百枚ほど。これで店に客が来るなら安いものだろう。

次に付き合い。店に客が大勢来るということはそれだけで問題だ。特に両隣と正面は並ぶ人々を見て不愉快に思う。それが同業者ならばなおさらだ。

この店の立地では隣には野菜などを売る店と文房具を売る雑貨店がある。まずは両隣の店と親交を深めて仲良くなるのが一番だ。食事などをして付き合いを深めてトラブルがおこならないようにする。

最後に商品改良。店の売りは麦飯と肉野菜炒め。平凡なメニューなので工夫する。とはいえ、改良点は決まっている。麦飯と肉野菜炒めの量を少し多めにしただけ。味には基本何も手を加えない。

大まかに人の流れを確認するとこの辺りは低所得の労働者が数多く出入りしてる。それらは食べ応えのある料理に飢えているので量を多くしておくのだ。味付けはやや濃い目にすればいい。

それですべての改善は終わった。あとは、時間が経過するのを眺めればいい。

「ユウキ、経営改善を依頼した店の報告が来ました」

「どうでしたか」

「見事にお店は繁盛しました」

売り上げは三倍以上、実利益は二倍を余裕で超えたそうだ。

「まったく申請予算無しで経営改善を果たしましたね」

お店の人たちは大喜びだそうだ。

「お客が来た場合の対応にも目を配りここまで利益を出すとは見事としか言いようがありません」

「これで最初の問題はクリアですね」

「ええ。元手無しでも経営改善が図れるとなれば評判はすぐにでも広がるでしょう」

次の店に行って経営改善をお願いされる。次の店はどうなんだろうか。
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