67 / 82
不真面目で肥大化した鳥は自然界では生き延びにくい
しおりを挟む
黒翼騎士団団長殿と特使殿との話し合いを終えて僕は仲間らの元に戻る。
「おかえりなさい」
お話はどうでしたか。それを聞いてくる仲間達。事情は話せないが高貴な方々が自分達に注目していると教えておく。
「へーえ、良い話じゃないですか」
「そうですわね。少なくとも注目されてるなんて」
「我らの活躍がそこまで噂として伝わっているのですな」
「やっぱり名声って大事ですね」
「天は我らを常に見ておられると」
「にひひっ、尊敬の眼差しは嬉しいよね」
「もっと精進する必要があるでしょう」
仲間達は注目の視線が集まっていることが素直に嬉しいようだ。高貴な方々と聞けばなおさらだろう。今はまだどこかに所属する気はないけど。
ここで僕たちは一度周囲を観察するためにテーブルに座ることにした。仲間全員がその意味を理解している。
ここで、良くも悪くも皆がこちらを見ていた。
悪い連中は自分らの待遇の悪さに納得できず依頼が回ってこないのは上の連中が手をまわしているからだと憎んでいた。討伐依頼を受けて一気にステップアップをやろうとするが難易度が高いため回ってこないのだ。
普通の連中は自分らの現状を受け入れており下手な討伐依頼を押し付けられるのは勘弁して欲しいと考えていた。小規模なら何とかなるかもしれないが大規模となればどんなに命があっても足りないと判断している。
良い連中はこちらの動向を見逃さまいと目を光らせていた。真面目な冒険者が数多いな。一部高貴な身なりの人達なんかも混じり出していた。まだこの地を脅かす脅威は数多く存在しているから上に期待しているのだ。
前者はあまり長生きできないだろうな。中間は恵まれれば上手くいくかもしれない。後者は明らかに僕らと接点が出来ないかと期待している。
この3者が主に僕らへ感情を向けている人々だ。
当然なのだろうが前ほど無能で後ろほど有能だ。いつの世も前に出されるのは使い潰しの利く連中という事なのだろう。
おっと、受付嬢がカウンターに来て欲しいとウズウズしていた。これ以上様子見をするのは悪いか。
早速カウンターに向かう。前に並んでいるのは二組。鉄色級のパーティだ。彼らは必要な依頼の受注をすぐさま終えて準備に取り掛かるため建物から出ていく。
「いらっしゃいませ。本日のご用件は何でしょうか」
受付嬢はニコニコしながら応対してくれる。ま、この場所で最優秀なら当然の対応か。
「依頼をお願いします。特に急ぎや手に負えない状況のヤツを優先的に」
「でしたらオーガの個体を確認済みの依頼でいいでしょうか。前任者では手に負えず依頼放棄しました」
オーガの個体か。前に受けたパーティの等級を聞くと「良い判断を下した」そう評価できる。馬鹿丸出しでパーティが壊滅するよりもずっといい。依頼放棄だって中身次第では当然だし無事に生き延びられたら取り返しがつくから。
「では、それでお願いします」
「かしこまりました」
早速依頼の受注手続きが取られる。その間に。
「……チッ。偉くいい身分じゃないか、ええ。『最優秀』だからか。こっちはまた泥まみれの仕事なのに」
以前絡んできた黒翼騎士団の下っ端が隣から絡んできた。
「それがなにか?」
「俺らにも機会に恵まれれば上に行けるんだ。運さえ、運さえ向いてくれれば。なんでこんなに……。畜生!なんで俺らはこんなに恵まれてないんだよ」
その嘆きの声。いや、お前たちは十分恵まれていたよ。安全な家族の元に生まれ元気に育ち努力や勉強に恵まれる機会を得られたはずだ。時間だって十分に余裕を持たせていた。それを軽んじたのは誰だ?当然の権利と思ったのは誰だ?上を憎み下を見下したのは誰だ?世界の現実に気づこうとせず無視したのは誰だ?結局自分自身の責任じゃないか。
ただそれが今になって返ってきただけだ。自業自得である。同情の余地はない。
心の中で忠告しておくが僕らに回ってくる依頼を取るとするなよ。そうなったら最後どうなるか分からないからな。
「お待たせしました」
受付嬢から依頼受注の正式な手続きが終了したことを伝えられる
「ご武運お祈りしてます」
「行ってきます」
さて、オーガぐらいの相手だと気合を入れておかないとね。もうすでにクラスチェンジしたセシル用の装備を準備していた。今回のお披露目では彼が前に出ることになるだろう。そっそく現場に向かう。
「ぐおっ、小癪な!潔く死ねぇ」
「そうはいきません。仲間は僕が守る」
普段は大人しく控えめな彼が最前線でタンクを務めていた。騎士系クラスは防御力が格段に高い上盾も装備できる、そのため盾役としては申し分がない。彼は盾でオーガの攻撃をことごとく受け止めていた。僕の装備が極上なのも一役買っている。
仲間は彼が前衛を務めているので安心して全力を振える。ここの連携も徐々に高まっていた。
ミーアは急所を狙いエメリアは距離外から矢を打ち込みバーゼルはハルバードで薙ぎ払いシェリルは属性魔術で痛手を与える。ラグリンネとエトナはタンクを務めるセシルの援護に回る。
僕はただサポート役に徹した。それでオーガは討伐される。遺体は《収納》で今後の資金源にさせてもらおうか。
仲間らの騎乗馬に乗って帰還する。
「依頼達成してきました」
「うわっ、もうですか。さすがに早いですねぇ」
依頼が確実で迅速なのは受付嬢を始めとして知っていたがここまで早いとは、ちょっと羨望の眼差しを受ける。
「お時間が予定より短縮されたので各種水薬の製造の依頼を受けてくれませんか。現在品薄状態なので色を付けて買い取りますよ」
「わかりました」
あればあるだけ助かるそうなのでコテージ戻り仲間を僕だけの異空間に入れて各種薬草を採集させて僕とラグリンネとエトナで回復の水薬などを片っ端から製造していく。こういう地道な後方支援が人格査定という形で積み上がるからだ。ただモンスターを退治するだけでは等級は上がらない。
多くの人々に役立つからことを求められる冒険者だが無頼漢という評価は民衆全てが認知している。
冒険者の等級査定は厳しいものなのだ。ただひたすら暴力的な行為と周辺の村々から略奪を繰り返す輩を認めては秩序は保たれない。人々の平和に貢献できるからこそ無頼漢の武力を売りにしている連中を纏めてる冒険者ギルドの働きが求めらている。
それを明確に表すのが冒険者プレートの等級だ。それを見ればその人物の信頼と実績が一目瞭然だし異常な要求や法外な金を出すこともない。
ま、それでも非常事態が起きることはままあるけど。
「依頼の納品についてある程度数が揃ったので」
「そうですか。では。こちらへ」
受付嬢は倉庫へと案内する。下手にこの場で出すと僕が《収納》もちであることがばれてしまう。もうここでは公然の秘密扱いにされていた。
早速棚積みにされる各種水薬や解毒剤やらその他傷に効く安い値段の軟膏などありったけ出す。
「いつもいつもありがとうございます。この町にも薬剤師はおりますがそちらも忙しくて中々大量の確保が厳しいのです」
「いつもの通りに在庫確認を行った後で報酬の支払いをお願いします」
「いつもご苦労をおかけしますね。貴方のパーティに追従出来る冒険者が出てくれるとありがたいのですが」
下っ端は数多いが中間が育ちにくい今の現状について嘆きの言葉を聞く。それぐらい人材不足なのだろう。
「やってられるか、仕事はドブ攫いとか大鼠や大虫退治が時折舞い込んでくるだけ。これじゃ何のための冒険者なんだよ。オーガとかトロールとか邪神退治とか、仕事は腐るほどあるはずなのに」
「大物狩りを認めない冒険者ギルドの方が問題なんじゃないのか?オーガだった俺達でも倒せるはずだ。そうに違いない。断固抗議だ」
「そもそも我ら赤彩石級スタートを保証されていた身の上だ。それ相応の実力者の持ち主だ。それは灰色級からスタートというのはどう考えても理不尽だ」
黒翼の騎士団面々が良からぬ夢と欲望を肥大化させ続けていた。お前ら程度ではオーガどころかゴブリンの巣穴退治だけで壊滅するとも考えてすらいないのだろう。
案の定ゴブリンの巣穴討伐を『自分勝手に引き受けるリーダ―』が現れた。隊長の方針に大反発していた若者だ。まだ彼らはゴブリンを雑魚の中の雑魚と侮っていた。それに多くが賛同する。
それが地獄の蓋を開けることも知らずに依頼を強引に受ける。
団長の命令を無視して血気盛んに出て行った彼らはゴブリンの足跡を見つけそれを後先考えずに追いかけ巣穴に辿り着く。松明片手に中に入るが入り組んだ道で分かれてしまう。それがゴブリンの罠とも知らず。
トーテムやら横穴を見逃す面々、それでも奥に進んでいく。
待っていたのは悲惨な運命だった。岩陰からの奇襲に始まり横穴から退路を断たれ武器を振り回そうにも岩壁や仲間が邪魔でまともに振れない。ゴブリンの錆びた粗末な装備がこちらを狙うが対応できる仲間は確実に減っていく。
ようやく現実の残酷さを思い知り退却しようとするがそこには渡りのホブゴブリンが待ち構えていた。ここで容赦なく叩き潰され生き残りはわずかだけだった。
あれだけ、あれだけいた団員たちが、ゴブリンの巣穴討伐一回だけでほとんどいなくなってしまった。リーダーの聞こえの良い言葉に騙されてその結果が団員達の大量死亡と虜囚になった女達だ。彼らの悲惨な運命を思い浮かべる。
その後どうにか本拠地まで辿り着くが周りからは誰も助けてくれなかった。
「この馬鹿者どもが。勝手に討伐依頼を受けて壊滅だと。貴様らのせいで貴重な団員が無駄死にしたわ」
「それは、団長が、臆病者で」
「その臆病さがあるからころ地道に依頼をこなす選択をしたのだ。それに対してお前たちがどうなったのだ」
ゴブリン程度と侮り巣穴の中に罠が仕掛けられていることも理解せず大量の仲間を失った。その事実は変わらない。皆都合の良い現実をばかりを見て脅威の確認を怠ったからだ。すべて自分自身に責任がある。
「たかがゴブリン、されどゴブリン、子供の体格だが悪知恵が働き狡猾な脅威なのだ。それを侮った結果がこれだ。正直に言ってもう隊はガタガタだ。増員は来る予定だがこの分ではどれだけ生き残れるか」
「後発組ですか?それでしたらある程度マシだと思いますけど」
「自分らの立場をよく考えろ。胡坐をかき努力しなかった貴様らの同胞が一体何ができるというのだ」
団長はもう私達に見切りをつけ始めている。この居場所を失ったらどうなるだろうか。農奴になるか娼婦になるかのたれ死ぬか。どちらにして悲惨な運命が待ち受けているだろう。
この悪夢は長く続くのだ。生き残りは絶望に染まる。
「おかえりなさい」
お話はどうでしたか。それを聞いてくる仲間達。事情は話せないが高貴な方々が自分達に注目していると教えておく。
「へーえ、良い話じゃないですか」
「そうですわね。少なくとも注目されてるなんて」
「我らの活躍がそこまで噂として伝わっているのですな」
「やっぱり名声って大事ですね」
「天は我らを常に見ておられると」
「にひひっ、尊敬の眼差しは嬉しいよね」
「もっと精進する必要があるでしょう」
仲間達は注目の視線が集まっていることが素直に嬉しいようだ。高貴な方々と聞けばなおさらだろう。今はまだどこかに所属する気はないけど。
ここで僕たちは一度周囲を観察するためにテーブルに座ることにした。仲間全員がその意味を理解している。
ここで、良くも悪くも皆がこちらを見ていた。
悪い連中は自分らの待遇の悪さに納得できず依頼が回ってこないのは上の連中が手をまわしているからだと憎んでいた。討伐依頼を受けて一気にステップアップをやろうとするが難易度が高いため回ってこないのだ。
普通の連中は自分らの現状を受け入れており下手な討伐依頼を押し付けられるのは勘弁して欲しいと考えていた。小規模なら何とかなるかもしれないが大規模となればどんなに命があっても足りないと判断している。
良い連中はこちらの動向を見逃さまいと目を光らせていた。真面目な冒険者が数多いな。一部高貴な身なりの人達なんかも混じり出していた。まだこの地を脅かす脅威は数多く存在しているから上に期待しているのだ。
前者はあまり長生きできないだろうな。中間は恵まれれば上手くいくかもしれない。後者は明らかに僕らと接点が出来ないかと期待している。
この3者が主に僕らへ感情を向けている人々だ。
当然なのだろうが前ほど無能で後ろほど有能だ。いつの世も前に出されるのは使い潰しの利く連中という事なのだろう。
おっと、受付嬢がカウンターに来て欲しいとウズウズしていた。これ以上様子見をするのは悪いか。
早速カウンターに向かう。前に並んでいるのは二組。鉄色級のパーティだ。彼らは必要な依頼の受注をすぐさま終えて準備に取り掛かるため建物から出ていく。
「いらっしゃいませ。本日のご用件は何でしょうか」
受付嬢はニコニコしながら応対してくれる。ま、この場所で最優秀なら当然の対応か。
「依頼をお願いします。特に急ぎや手に負えない状況のヤツを優先的に」
「でしたらオーガの個体を確認済みの依頼でいいでしょうか。前任者では手に負えず依頼放棄しました」
オーガの個体か。前に受けたパーティの等級を聞くと「良い判断を下した」そう評価できる。馬鹿丸出しでパーティが壊滅するよりもずっといい。依頼放棄だって中身次第では当然だし無事に生き延びられたら取り返しがつくから。
「では、それでお願いします」
「かしこまりました」
早速依頼の受注手続きが取られる。その間に。
「……チッ。偉くいい身分じゃないか、ええ。『最優秀』だからか。こっちはまた泥まみれの仕事なのに」
以前絡んできた黒翼騎士団の下っ端が隣から絡んできた。
「それがなにか?」
「俺らにも機会に恵まれれば上に行けるんだ。運さえ、運さえ向いてくれれば。なんでこんなに……。畜生!なんで俺らはこんなに恵まれてないんだよ」
その嘆きの声。いや、お前たちは十分恵まれていたよ。安全な家族の元に生まれ元気に育ち努力や勉強に恵まれる機会を得られたはずだ。時間だって十分に余裕を持たせていた。それを軽んじたのは誰だ?当然の権利と思ったのは誰だ?上を憎み下を見下したのは誰だ?世界の現実に気づこうとせず無視したのは誰だ?結局自分自身の責任じゃないか。
ただそれが今になって返ってきただけだ。自業自得である。同情の余地はない。
心の中で忠告しておくが僕らに回ってくる依頼を取るとするなよ。そうなったら最後どうなるか分からないからな。
「お待たせしました」
受付嬢から依頼受注の正式な手続きが終了したことを伝えられる
「ご武運お祈りしてます」
「行ってきます」
さて、オーガぐらいの相手だと気合を入れておかないとね。もうすでにクラスチェンジしたセシル用の装備を準備していた。今回のお披露目では彼が前に出ることになるだろう。そっそく現場に向かう。
「ぐおっ、小癪な!潔く死ねぇ」
「そうはいきません。仲間は僕が守る」
普段は大人しく控えめな彼が最前線でタンクを務めていた。騎士系クラスは防御力が格段に高い上盾も装備できる、そのため盾役としては申し分がない。彼は盾でオーガの攻撃をことごとく受け止めていた。僕の装備が極上なのも一役買っている。
仲間は彼が前衛を務めているので安心して全力を振える。ここの連携も徐々に高まっていた。
ミーアは急所を狙いエメリアは距離外から矢を打ち込みバーゼルはハルバードで薙ぎ払いシェリルは属性魔術で痛手を与える。ラグリンネとエトナはタンクを務めるセシルの援護に回る。
僕はただサポート役に徹した。それでオーガは討伐される。遺体は《収納》で今後の資金源にさせてもらおうか。
仲間らの騎乗馬に乗って帰還する。
「依頼達成してきました」
「うわっ、もうですか。さすがに早いですねぇ」
依頼が確実で迅速なのは受付嬢を始めとして知っていたがここまで早いとは、ちょっと羨望の眼差しを受ける。
「お時間が予定より短縮されたので各種水薬の製造の依頼を受けてくれませんか。現在品薄状態なので色を付けて買い取りますよ」
「わかりました」
あればあるだけ助かるそうなのでコテージ戻り仲間を僕だけの異空間に入れて各種薬草を採集させて僕とラグリンネとエトナで回復の水薬などを片っ端から製造していく。こういう地道な後方支援が人格査定という形で積み上がるからだ。ただモンスターを退治するだけでは等級は上がらない。
多くの人々に役立つからことを求められる冒険者だが無頼漢という評価は民衆全てが認知している。
冒険者の等級査定は厳しいものなのだ。ただひたすら暴力的な行為と周辺の村々から略奪を繰り返す輩を認めては秩序は保たれない。人々の平和に貢献できるからこそ無頼漢の武力を売りにしている連中を纏めてる冒険者ギルドの働きが求めらている。
それを明確に表すのが冒険者プレートの等級だ。それを見ればその人物の信頼と実績が一目瞭然だし異常な要求や法外な金を出すこともない。
ま、それでも非常事態が起きることはままあるけど。
「依頼の納品についてある程度数が揃ったので」
「そうですか。では。こちらへ」
受付嬢は倉庫へと案内する。下手にこの場で出すと僕が《収納》もちであることがばれてしまう。もうここでは公然の秘密扱いにされていた。
早速棚積みにされる各種水薬や解毒剤やらその他傷に効く安い値段の軟膏などありったけ出す。
「いつもいつもありがとうございます。この町にも薬剤師はおりますがそちらも忙しくて中々大量の確保が厳しいのです」
「いつもの通りに在庫確認を行った後で報酬の支払いをお願いします」
「いつもご苦労をおかけしますね。貴方のパーティに追従出来る冒険者が出てくれるとありがたいのですが」
下っ端は数多いが中間が育ちにくい今の現状について嘆きの言葉を聞く。それぐらい人材不足なのだろう。
「やってられるか、仕事はドブ攫いとか大鼠や大虫退治が時折舞い込んでくるだけ。これじゃ何のための冒険者なんだよ。オーガとかトロールとか邪神退治とか、仕事は腐るほどあるはずなのに」
「大物狩りを認めない冒険者ギルドの方が問題なんじゃないのか?オーガだった俺達でも倒せるはずだ。そうに違いない。断固抗議だ」
「そもそも我ら赤彩石級スタートを保証されていた身の上だ。それ相応の実力者の持ち主だ。それは灰色級からスタートというのはどう考えても理不尽だ」
黒翼の騎士団面々が良からぬ夢と欲望を肥大化させ続けていた。お前ら程度ではオーガどころかゴブリンの巣穴退治だけで壊滅するとも考えてすらいないのだろう。
案の定ゴブリンの巣穴討伐を『自分勝手に引き受けるリーダ―』が現れた。隊長の方針に大反発していた若者だ。まだ彼らはゴブリンを雑魚の中の雑魚と侮っていた。それに多くが賛同する。
それが地獄の蓋を開けることも知らずに依頼を強引に受ける。
団長の命令を無視して血気盛んに出て行った彼らはゴブリンの足跡を見つけそれを後先考えずに追いかけ巣穴に辿り着く。松明片手に中に入るが入り組んだ道で分かれてしまう。それがゴブリンの罠とも知らず。
トーテムやら横穴を見逃す面々、それでも奥に進んでいく。
待っていたのは悲惨な運命だった。岩陰からの奇襲に始まり横穴から退路を断たれ武器を振り回そうにも岩壁や仲間が邪魔でまともに振れない。ゴブリンの錆びた粗末な装備がこちらを狙うが対応できる仲間は確実に減っていく。
ようやく現実の残酷さを思い知り退却しようとするがそこには渡りのホブゴブリンが待ち構えていた。ここで容赦なく叩き潰され生き残りはわずかだけだった。
あれだけ、あれだけいた団員たちが、ゴブリンの巣穴討伐一回だけでほとんどいなくなってしまった。リーダーの聞こえの良い言葉に騙されてその結果が団員達の大量死亡と虜囚になった女達だ。彼らの悲惨な運命を思い浮かべる。
その後どうにか本拠地まで辿り着くが周りからは誰も助けてくれなかった。
「この馬鹿者どもが。勝手に討伐依頼を受けて壊滅だと。貴様らのせいで貴重な団員が無駄死にしたわ」
「それは、団長が、臆病者で」
「その臆病さがあるからころ地道に依頼をこなす選択をしたのだ。それに対してお前たちがどうなったのだ」
ゴブリン程度と侮り巣穴の中に罠が仕掛けられていることも理解せず大量の仲間を失った。その事実は変わらない。皆都合の良い現実をばかりを見て脅威の確認を怠ったからだ。すべて自分自身に責任がある。
「たかがゴブリン、されどゴブリン、子供の体格だが悪知恵が働き狡猾な脅威なのだ。それを侮った結果がこれだ。正直に言ってもう隊はガタガタだ。増員は来る予定だがこの分ではどれだけ生き残れるか」
「後発組ですか?それでしたらある程度マシだと思いますけど」
「自分らの立場をよく考えろ。胡坐をかき努力しなかった貴様らの同胞が一体何ができるというのだ」
団長はもう私達に見切りをつけ始めている。この居場所を失ったらどうなるだろうか。農奴になるか娼婦になるかのたれ死ぬか。どちらにして悲惨な運命が待ち受けているだろう。
この悪夢は長く続くのだ。生き残りは絶望に染まる。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ
夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー
八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。
田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。
でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?
どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。
だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。
そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる