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不真面目で肥大化した鳥は自然界では生き延びにくい

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黒翼騎士団団長殿と特使殿との話し合いを終えて僕は仲間らの元に戻る。

「おかえりなさい」

お話はどうでしたか。それを聞いてくる仲間達。事情は話せないが高貴な方々が自分達に注目していると教えておく。

「へーえ、良い話じゃないですか」

「そうですわね。少なくとも注目されてるなんて」

「我らの活躍がそこまで噂として伝わっているのですな」

「やっぱり名声って大事ですね」

「天は我らを常に見ておられると」

「にひひっ、尊敬の眼差しは嬉しいよね」

「もっと精進する必要があるでしょう」

仲間達は注目の視線が集まっていることが素直に嬉しいようだ。高貴な方々と聞けばなおさらだろう。今はまだどこかに所属する気はないけど。

ここで僕たちは一度周囲を観察するためにテーブルに座ることにした。仲間全員がその意味を理解している。

ここで、良くも悪くも皆がこちらを見ていた。

悪い連中は自分らの待遇の悪さに納得できず依頼が回ってこないのは上の連中が手をまわしているからだと憎んでいた。討伐依頼を受けて一気にステップアップをやろうとするが難易度が高いため回ってこないのだ。

普通の連中は自分らの現状を受け入れており下手な討伐依頼を押し付けられるのは勘弁して欲しいと考えていた。小規模なら何とかなるかもしれないが大規模となればどんなに命があっても足りないと判断している。

良い連中はこちらの動向を見逃さまいと目を光らせていた。真面目な冒険者が数多いな。一部高貴な身なりの人達なんかも混じり出していた。まだこの地を脅かす脅威は数多く存在しているから上に期待しているのだ。

前者はあまり長生きできないだろうな。中間は恵まれれば上手くいくかもしれない。後者は明らかに僕らと接点が出来ないかと期待している。

この3者が主に僕らへ感情を向けている人々だ。

当然なのだろうが前ほど無能で後ろほど有能だ。いつの世も前に出されるのは使い潰しの利く連中という事なのだろう。

おっと、受付嬢がカウンターに来て欲しいとウズウズしていた。これ以上様子見をするのは悪いか。

早速カウンターに向かう。前に並んでいるのは二組。鉄色級のパーティだ。彼らは必要な依頼の受注をすぐさま終えて準備に取り掛かるため建物から出ていく。

「いらっしゃいませ。本日のご用件は何でしょうか」

受付嬢はニコニコしながら応対してくれる。ま、この場所で最優秀なら当然の対応か。

「依頼をお願いします。特に急ぎや手に負えない状況のヤツを優先的に」

「でしたらオーガの個体を確認済みの依頼でいいでしょうか。前任者では手に負えず依頼放棄しました」

オーガの個体か。前に受けたパーティの等級を聞くと「良い判断を下した」そう評価できる。馬鹿丸出しでパーティが壊滅するよりもずっといい。依頼放棄だって中身次第では当然だし無事に生き延びられたら取り返しがつくから。

「では、それでお願いします」

「かしこまりました」

早速依頼の受注手続きが取られる。その間に。

「……チッ。偉くいい身分じゃないか、ええ。『最優秀』だからか。こっちはまた泥まみれの仕事なのに」

以前絡んできた黒翼騎士団の下っ端が隣から絡んできた。

「それがなにか?」

「俺らにも機会に恵まれれば上に行けるんだ。運さえ、運さえ向いてくれれば。なんでこんなに……。畜生!なんで俺らはこんなに恵まれてないんだよ」

その嘆きの声。いや、お前たちは十分恵まれていたよ。安全な家族の元に生まれ元気に育ち努力や勉強に恵まれる機会を得られたはずだ。時間だって十分に余裕を持たせていた。それを軽んじたのは誰だ?当然の権利と思ったのは誰だ?上を憎み下を見下したのは誰だ?世界の現実に気づこうとせず無視したのは誰だ?結局自分自身の責任じゃないか。

ただそれが今になって返ってきただけだ。自業自得である。同情の余地はない。

心の中で忠告しておくが僕らに回ってくる依頼を取るとするなよ。そうなったら最後どうなるか分からないからな。

「お待たせしました」

受付嬢から依頼受注の正式な手続きが終了したことを伝えられる

「ご武運お祈りしてます」

「行ってきます」

さて、オーガぐらいの相手だと気合を入れておかないとね。もうすでにクラスチェンジしたセシル用の装備を準備していた。今回のお披露目では彼が前に出ることになるだろう。そっそく現場に向かう。

「ぐおっ、小癪な!潔く死ねぇ」

「そうはいきません。仲間は僕が守る」

普段は大人しく控えめな彼が最前線でタンクを務めていた。騎士系クラスは防御力が格段に高い上盾も装備できる、そのため盾役としては申し分がない。彼は盾でオーガの攻撃をことごとく受け止めていた。僕の装備が極上なのも一役買っている。

仲間は彼が前衛を務めているので安心して全力を振える。ここの連携も徐々に高まっていた。

ミーアは急所を狙いエメリアは距離外から矢を打ち込みバーゼルはハルバードで薙ぎ払いシェリルは属性魔術で痛手を与える。ラグリンネとエトナはタンクを務めるセシルの援護に回る。

僕はただサポート役に徹した。それでオーガは討伐される。遺体は《収納》で今後の資金源にさせてもらおうか。

仲間らの騎乗馬に乗って帰還する。

「依頼達成してきました」

「うわっ、もうですか。さすがに早いですねぇ」

依頼が確実で迅速なのは受付嬢を始めとして知っていたがここまで早いとは、ちょっと羨望の眼差しを受ける。

「お時間が予定より短縮されたので各種水薬の製造の依頼を受けてくれませんか。現在品薄状態なので色を付けて買い取りますよ」

「わかりました」

あればあるだけ助かるそうなのでコテージ戻り仲間を僕だけの異空間に入れて各種薬草を採集させて僕とラグリンネとエトナで回復の水薬などを片っ端から製造していく。こういう地道な後方支援が人格査定という形で積み上がるからだ。ただモンスターを退治するだけでは等級は上がらない。

多くの人々に役立つからことを求められる冒険者だが無頼漢という評価は民衆全てが認知している。

冒険者の等級査定は厳しいものなのだ。ただひたすら暴力的な行為と周辺の村々から略奪を繰り返す輩を認めては秩序は保たれない。人々の平和に貢献できるからこそ無頼漢の武力を売りにしている連中を纏めてる冒険者ギルドの働きが求めらている。

それを明確に表すのが冒険者プレートの等級だ。それを見ればその人物の信頼と実績が一目瞭然だし異常な要求や法外な金を出すこともない。

ま、それでも非常事態が起きることはままあるけど。

「依頼の納品についてある程度数が揃ったので」

「そうですか。では。こちらへ」

受付嬢は倉庫へと案内する。下手にこの場で出すと僕が《収納》もちであることがばれてしまう。もうここでは公然の秘密扱いにされていた。

早速棚積みにされる各種水薬や解毒剤やらその他傷に効く安い値段の軟膏などありったけ出す。

「いつもいつもありがとうございます。この町にも薬剤師はおりますがそちらも忙しくて中々大量の確保が厳しいのです」

「いつもの通りに在庫確認を行った後で報酬の支払いをお願いします」

「いつもご苦労をおかけしますね。貴方のパーティに追従出来る冒険者が出てくれるとありがたいのですが」

下っ端は数多いが中間が育ちにくい今の現状について嘆きの言葉を聞く。それぐらい人材不足なのだろう。

「やってられるか、仕事はドブ攫いとか大鼠や大虫退治が時折舞い込んでくるだけ。これじゃ何のための冒険者なんだよ。オーガとかトロールとか邪神退治とか、仕事は腐るほどあるはずなのに」

「大物狩りを認めない冒険者ギルドの方が問題なんじゃないのか?オーガだった俺達でも倒せるはずだ。そうに違いない。断固抗議だ」

「そもそも我ら赤彩石級スタートを保証されていた身の上だ。それ相応の実力者の持ち主だ。それは灰色級からスタートというのはどう考えても理不尽だ」

黒翼の騎士団面々が良からぬ夢と欲望を肥大化させ続けていた。お前ら程度ではオーガどころかゴブリンの巣穴退治だけで壊滅するとも考えてすらいないのだろう。

案の定ゴブリンの巣穴討伐を『自分勝手に引き受けるリーダ―』が現れた。隊長の方針に大反発していた若者だ。まだ彼らはゴブリンを雑魚の中の雑魚と侮っていた。それに多くが賛同する。

それが地獄の蓋を開けることも知らずに依頼を強引に受ける。

団長の命令を無視して血気盛んに出て行った彼らはゴブリンの足跡を見つけそれを後先考えずに追いかけ巣穴に辿り着く。松明片手に中に入るが入り組んだ道で分かれてしまう。それがゴブリンの罠とも知らず。

トーテムやら横穴を見逃す面々、それでも奥に進んでいく。

待っていたのは悲惨な運命だった。岩陰からの奇襲に始まり横穴から退路を断たれ武器を振り回そうにも岩壁や仲間が邪魔でまともに振れない。ゴブリンの錆びた粗末な装備がこちらを狙うが対応できる仲間は確実に減っていく。

ようやく現実の残酷さを思い知り退却しようとするがそこには渡りのホブゴブリンが待ち構えていた。ここで容赦なく叩き潰され生き残りはわずかだけだった。

あれだけ、あれだけいた団員たちが、ゴブリンの巣穴討伐一回だけでほとんどいなくなってしまった。リーダーの聞こえの良い言葉に騙されてその結果が団員達の大量死亡と虜囚になった女達だ。彼らの悲惨な運命を思い浮かべる。

その後どうにか本拠地まで辿り着くが周りからは誰も助けてくれなかった。

「この馬鹿者どもが。勝手に討伐依頼を受けて壊滅だと。貴様らのせいで貴重な団員が無駄死にしたわ」

「それは、団長が、臆病者で」

「その臆病さがあるからころ地道に依頼をこなす選択をしたのだ。それに対してお前たちがどうなったのだ」

ゴブリン程度と侮り巣穴の中に罠が仕掛けられていることも理解せず大量の仲間を失った。その事実は変わらない。皆都合の良い現実をばかりを見て脅威の確認を怠ったからだ。すべて自分自身に責任がある。

「たかがゴブリン、されどゴブリン、子供の体格だが悪知恵が働き狡猾な脅威なのだ。それを侮った結果がこれだ。正直に言ってもう隊はガタガタだ。増員は来る予定だがこの分ではどれだけ生き残れるか」

「後発組ですか?それでしたらある程度マシだと思いますけど」

「自分らの立場をよく考えろ。胡坐をかき努力しなかった貴様らの同胞が一体何ができるというのだ」

団長はもう私達に見切りをつけ始めている。この居場所を失ったらどうなるだろうか。農奴になるか娼婦になるかのたれ死ぬか。どちらにして悲惨な運命が待ち受けているだろう。

この悪夢は長く続くのだ。生き残りは絶望に染まる。
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