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第2陣 銀の精鋭、でも 1

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それから少しの間で銀の精鋭第2陣がここにやってきた。前と同じように銀製の装備をしていて豪奢な外見と傲慢な性格をそのままに、いやもっと悪い方向へと進んでいた。

「所詮地方辺境だ。我々が出張るまでものでもないが。中央への覚えをめでたくするための踏み台にさせてもらおう」

『おおっ。いざ我らの栄光への道を築くぞ』

隊員は100人にも数えれるほど増員されていたが中身はもっと悪くなっていた。こんな連中では上手くいくはずがない。

「感じ悪いね」

「いかにも世の中を知らないって感じだな」

「冒険者という仕事がどれだけ過酷か知らないんだな」

人々の反応は冷ややかだった。以前と同じくコネや縁故採用を利用して無理矢理等級を分不相応に上げている。

「まーた馬鹿が騒いでるよ」

「欲望に目がくらんだクズどもが」

「ま、この手合いはどこにでも現れるものです」

「平和に長生きする努力してこなかったんですね」

「天は悪党に対して非情ですから」

「いやぁ、実に愉快だねー」

仲間らの反応は「救いようのないクズ」それだけ。後はどんな残酷な現実で生き延びれるかどうか楽しむようだ。

「なんで、なんで、あんなことがあったばかりなのに」

昨日の今日で第2陣が来てしまった。お国は一体何を考えているのだ?これじゃ無駄に死人を増やすだけだ。彼らは墓場にも行けないかもしれない。どうしたらいいんだ。僕は意を決する。

「リーダー、ご不満でしょうが説得を手伝っていただけませんか」

「んー。それは君の同胞だから?かな。もう無関係でいろと冒険者ギルドから厳命されてるはずだけど」

今更君が出て来て何ができる。パーティの一番下っ端の僕の意見など聞いてくれるはずがない。パーティメンバーもリーダーに賛同している。ようやく手にいれた場所を自分から破壊するつもりか。ピュアブリングは煩わしい羽虫でも確認したかのような態度だった。

「ふぅーっ、それが自分の立場を危うくすることを覚悟の上なんだね」

「はいっ」

確認を取られる。まったくもってその通りだが、せめて、逃げ延びる、時間の猶予ぐらいは。

「チマチマやっても無理だし。トップに会うしかないか」

冒険者ギルドの職員と共に彼らの本陣に乗り込む気だ。

「あん?なんだてめぇら。ここは銀の精鋭の野営地だぞ」

突然やってきた来訪者に警戒の顔をする。

「冒険者ギルドの使いです。今後のことについてお話があります」

「ちっ、うざったい子役人どもが。まぁ、援助をしてくれるならどうにかしてやらぁ」

賄賂を要求する門番、ここまで腐っているとは。ピュアブリングはユクール通貨の入った袋を渡して中に入る。

「おい、あれセシルじゃないか」「あの弱虫セシルだぜ」「いつも遅れていた恥さらしだ」

中に入ると僕のことを知っている連中がいた。

『弱虫セシル』

騎士学校での僕のことだ。要領が悪く覚えも良くなく資質にも恵まれず大人しい性格の自分は常に虐めの対象だったこと。そのことを知っていた連中。一応実家のおかげか最低限は許してくれた、許してくれただけであんまり意味はなかった。より陰険になっただけだ。

家族からも一族からも期待されずいないも同然扱いだ。

そのことを思い出す。

「大丈夫だよ」

ピュアブリングがそっと手を握ってくれた。それだけで過去に立ち向かう勇気が出てきた。奴らが知る弱虫セシルはもうここにはいない。

一番大きなコテージまでまっすぐ向かう。

「なんだ?いったいどこの誰が通せばいいと……っ、貴様!行方不明になっていたセシルだな。よくも我らの前におめおめと顔を出せたな。お前たちのせいで栄光と誇りの銀の精鋭に泥が塗られたではないか」

ここまで何をしに来た。

隊への復帰か?身の保証か?ま、それぐらいは許さなくはない。金次第だがな。なんという酷い言葉だ。先に来ていた元仲間がどれだけ悲惨な運命にあったのかまるで眼中にないようだ。

「連れは誰だ?」

「初めまして。ピュアブリングと申します。彼を保護した者です」

「ふん。こんな女の子程度の尻に敷かれるとはまったくもって不愉快だ」

さっさと帰れ。そう言おうとするが。ピュアブリングは冒険者プレートを見せる。

「これでもまだ不満がありますか?」

「っ!俺と同じ翠光玉色の、プレートだと」

「これであなたと冒険者の『等級』は対等です。お話をする理由がありますよね」

等級という部分を少し強く強調するピュアブリング。

「貴様、どうやってそれを手に入れた!寄進お布施か?大貴族の道楽か?欲望を振り撒いたか?いや、そんなことはどうでもいい。何を言いに来たのだ」

「保護しているセシル殿のお頼みのことですよ。今回に限り、その条件で出てきたわけです」

さしずめ、隊への復帰か。ま、金次第で何とかしてやらんでもない。隊長はそのように結論付けていた。しかし、彼の言葉は全く違っていた。

セシルは明言する

「即刻隊を解散し母国へ帰り平和に長生きできるよう努力するべきです」

「なっ!!」

予想だにしなかった発言に相手は一瞬正気を疑った。

「貴様、我らは君のお墨付きを得ている銀の精鋭だ。厳しい鍛錬を積みこれから飛躍の時を迎えようとしている。いわば正義の執行者だ。それを放棄しろと。ふざけるな。我らの実力ならばモンスターの駆逐など容易いことだ」

あくまで強者側にいると強調するが事実を知っているセシルにはもはやそれは何の意味もなかった

「駄目…なんですよ。確かに騎士学校で勉強やら鍛錬は真面目にしました。でも、それはもう、今の時代では役に立ちませんでした。自分らに都合の良い戦場と戦法しか考えられない騎士団とモンスターの脅威と直面している冒険者とは質も量もあらゆることが違いすぎます。我々はもはや自分らさえ守れないのです」

優秀な冒険者を好待遇で招聘し謙虚に教えを乞うべきだ。コネや縁故採用を使い等級の強引な引き上げなど今後は禁止にするべきだ。実戦を重視し状況に合わせて対応できるように訓練を見直すべきだ。その他色々なことを私利私欲なく隊長に進言するセシルだが。

「貴様!臆病風に吹かれたな。我らの行ってきたことに間違いなど微塵もない。国王陛下の期待を背負う自分らとそこらの冒険者とは立場が違うのだ。奴らは世を乱す不穏分子だ。それなのに教えを受けろ?ふざけるな。我らが騎士道が唯一無二の正義だ。冒険者風情が我らの上を行くなど絶対に認めない!」

隊長は激怒し護衛兵を呼び出す。そして、強引に外まで連れだされた。

「あー、典型的な忠義心は良いけど根本から勘違いしているね」

「ええ、あれではもう交渉する余地などないでしょう」

「皆さん……無理を承知で来てくださったのに」

自分の力が足りず無駄骨になった。それだけが悔しかった。もう賽は投げられ駒は動き出している。もう自分らには何もできない。

「よくがんばったね」

リーダーの慰めだけが僕の心を癒してくれた。

言うべきこともやるべきこともやった。後はもうどうにでもなれだ。僕が責任を取る必要はない。

奴らはそうして「自分らを最優先にしろ」冒険者ギルドに脅迫に近い意味で宣言しゴブリンの拠点討伐に向かう。これは本来なら僕たちが受ける依頼だった。それを横取りとは。いや、もう今更か。もう奴らとは本当に無関係になったのだから。

しばらくののち。

『タ…頼むぅ…回復の水薬を…奇跡を…どうか、自分らにぃ…』

満身創痍の連中が大量に《バーミット》に帰還してきた。体中ボロボロであり手足の欠損も多数。あれだけピカピカだった装備は返り血やらで汚れまくれ見る影もない。人数も大幅に減ってしまい激戦の爪痕を嫌というほど実感できる。

教会の神官総出で治療にあたるがとても足りない。ピュアブリングは緊急事態という事で回復の水薬を大量に教会に持ってきた。それを使い治療にあたる。

「予想通りだね」

「だから、言ったのに」

ボロボロとなった同胞たちを見てセシルは心を痛めた。正直あれでは手の施しようがなかったとも言える。生き残りが帰ってきただけでも幸運だろう。野ざらしの場所に簡易テントを立てて各自治療にあたる神官達。彼らの目には生気がなくまだ現実を自覚できないようだ。

痛みに苦しみ奇跡による治療を一刻も早く行わなければならない現状でもなお馬鹿は騒ぎだす。

「貴様ら、その無様な姿はなんだ!銀の精鋭がこのような姿をさらすとは恥を知らんのか!」

前回話をした隊長は生き延びたようだ。多分部下を肉壁にしてでも生き延びたのだろう。その証拠に彼だけがピカピカなままだった。

「さっさと戦いに行くぞ。仲間への弔い合戦だ」

「馬鹿なことはおやめください。今緊急治療の最中ですので」

「教会の神官風情が騎士に逆らうのか」

「その騎士達は大至急治療が必要なのです。その奇跡や回復の水薬代は誰がお支払いするのですか」

「はっ。いつもは神への奉仕を唱えながら代金を要求するとは、これが教会の商売とやらか」

騎士を癒すという神への奉仕で代金はたりるはずだ。あろうことかそいつは教会に喧嘩を売ったのだ。

「……発言の内容は慎重になさった方がよろしいですよ」

「ふん、これだから教会とやらは気に食わん。お布施寄進を民衆からかき集める組織のくせに」

傲慢横暴もここまで行けばある意味すごいと思う。けど、これでもう教会はお前らの敵に認定されたぞ。マジで馬鹿だ。

そして、当然のように隊長に視線が集まる。怒り憎しみ殺意、自分達をこんな目に会わせておきながらなんでお前だけは無事なのだ。

その容赦のない視線を本当に気付かないのか平然と振舞う隊長を見てこれは駄目だ、見切りを付けざるを得なかった。

負傷者の治療すらも中途半端に終わらせ再度戦いに行こうとする隊長と渋々ついていくだけの兵士達。滅亡の足音はもうそこまで迫っていた。
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