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短編 悲しみを乗り越えるが

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「もう大丈夫、かな?」

「情けない姿を見せて申し訳ありません」

ありったけの悲しみを吐き出した自分はまともになったと思う。

「ほら、これで顔面を拭いてあげる」

涙やらは鼻水やらでグチャグチャの顔に柔らかく新品の布を優しく当ててくる。まるでお姉ちゃんが泣き虫の弟をあやすかのようだ。

「落ち着いた」

「はい」

なんといえばよいのか。こんなに弱い姿を見せたのは家族でもないはずだ。

「本当は器量のある女性をあてがいたかったんだけど」

こういうのは女性じゃないと難しいものだ、と。見た目は完全に女の子のリーダーが困った顔をした。

「いえ、リーダーで良かったと自分は思います」

「そう?まぁ、これもリーダーのお勤めなんだよねぇ」

不満を貯めこみ暴発しパーティクラッシュを未然に防ぐ。というか、タイミングが良すぎるような。

「あと、そこ。のぞき見するためだけに来るなんて困っちゃうよ」

『ビクッ』

後ろの方を見ると仲間たち全員がコッソリと、こちらに視線を向けていたことに気づく。

「いやぁー、いいもの見れたよ」「悲しみを隠す騎士を癒す乙女ですわ」

「うぉっほん。まぁ、幸か不幸か出くわしただけでして」「女の子だったら完璧でしたけど」

「男が男を慰めるって不思議なものですね」「実にいいよ。君はそっち方面の殺し屋だよ」

「みんなこんなのが好きなんだね」

『良いお話に食いつくのは大好物だからだよ』

仲間全員が親指を突き立てる。

「ご心配をおかけして申し訳ありません」

自分はまだ所々恥ずかしいが。少なくとも嫌われてはいないようだった。

「はぁ、各自やることをやり終えたんだよね」

『バッチリ』

「じゃ、勝利の宴と行こうか」

『異議なし!』

晩飯は豪勢に生の肉の塊を買ってきてそれを大鍋で茹でた後鉄板で焼く。それを切り分けて各自に配る。湯がいた出し汁はソースのベースにするなど中々だ、チーズや果物、ドレッシングの利いたサラダ、お酒だって色々揃っていた。

「かんぱーい」

『いただきまーす』

各自目の前に出されたご馳走を気のすむまで食べ散らかす。追加注文も自由だ。家にいた時ですらこんな豪勢な食事など想像すらしてなかった。

食事が終わると各自リフレッシュルームで体の汚れを洗い流し個室に戻り就寝する。

(今日は本当に色々なことがあった。なぜ騎士学校では単純なことを教えてくれなかったのだ)

どう考えても騎士学校で教えている内容にはいくつもの大きな穴があり冒険者として生き抜くことは不可能だと思えてしまう、このあたりの制度の変化も今後必要になるかもしれない。ともかくやれることをやらないと生き残れないのだから。

その後しばらくすると仲間の動きを徐々に覚えていきいかに自分が己の力を発揮できるかにどのように立回るべきかを真剣に考え始める。

そんな時間が過ぎていく一方で問題が起こった。中央から役人が来たからだ。

「銀の精鋭が引き受けていた依頼報酬を頂きたい。今すぐにです」

「何をふざけたことを言っているんですか。銀の精鋭はもう壊滅しました。依頼達成を1回とてしておりません」

「意味が分かりませんな。60名で隊を組んでおきながら依頼達成が一回もないというのはどういうことなのでしょうか」

「そう思えるのでしたらそちらで勝手に隊員なりを探して下さい。こちらも忙しいのです」

「……チッ。これだから冒険者ギルドの職員は現実が見えておらんのだ」

舌打ちしながら役人は建物を出ていく。彼は本当に現実が見えていないようだ。その後役人たちは生き残りを探していくが自分を除いてまともな生活などしていなかった。自分を除いて行方不明になっていた。

そして、再び冒険者ギルドに抗議に来た。

「有り得ない!こんなことは絶対にありえない。銀の精鋭は優秀な精鋭を集めて構成されたパーティだ。それがこのような短期間で壊滅とはいったい何があったのだ」

「3回連続で難易度の高い依頼を失敗しました」

「たかが3回連続で依頼を失敗した程度で60人もの隊員がほとんどいなくなるとはどういうことだね。オーガやら邪神の化身とでも出会ったのか?そうとしか思えないのだが」

「依頼内容は3回ともゴブリンの巣穴討伐ですよ」

役人は笑い声をあげる。

「ゴブリン?ゴブリン程度などそこらをウロチョロしているだけの雑魚の中の雑魚ではないか。そんなのを相手に3回も失敗し壊滅なんてありえない。もっとましな嘘を言いたまえ」

役人はそのような嘘は通じないぞと、本気で思っていた。別の場所に行ったり、あるいは依頼の最中だから帰ってきていない。そのように解釈した。

だけども、時間が経つにつれてそれが本当のことであることを噂などから聞くことになる。

「こんな事実は認められない!本当に生き残りはいないのか」

「それにお応えする理由はありません」

「このような事態になったのにはそちらにも原因があるのではないのか。例えば」

必要な物資提供しなかったとか、色々考えられるはずだ。

「さぁ?こちらはちゃんと警告しましたよ。向こうが無視しただけです」

「くっ。第1陣は本当に失敗したのか。こんな報告を持ち帰れば私はとんでもない目にあうぞ。もう第2陣も到着するというのに」

役人は顔を青ざめ今後どうするのかを慎重に選ばざるを得なかった。不幸の連鎖はまだ続くようだ。
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