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銀の精鋭、とは 3

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「さて、そろそろ依頼をこなす時間だ」

リーダーであるピュアブリングから依頼をこなす時が来ることを告げられる

「まってましたー」「私の弓が敵を討つときですね」

「今回の武勲はいかほどか楽しみですぞ」「地道に覚えた魔術の実戦運用です」

「主を、我らに勝利を」「ぶったたくぞー」

各自各々戦の準備を整え意識を高める。

「……」

僕だけが弱腰だった。

たった数時間の訓練だけで実戦に出ろと言う時点で無謀なのだ。軍兵が長期間かけて行う練度まですぐさま引き上げるためには死地で生き残るより他にないからだ。

「灰色級からやり直したい?」

ピュアブリングは自分に聞いてくる。「今ならまだ引き返せるぞ」と。それはだめだ。これまで死んでいった者達の悲惨さを考えれば自分は生き残り勝利を積み上げ過去の仲間たちの名を後世に残す義務がある。彼らが無駄に死んだという不名誉を消し去るには僕がやらなければならないのだ。

「じゃ、そこに立って」

「は、はいっ」

言われたとおりに立つ。

「ゆっくり息をしながら体を楽にして思うんだ『わが胸にあるのは自分だけじゃない』って。そうして戦に勝つイメージを巡らせるんだ」

言われたとおりに呼吸すると次第に胸にささやかながら勇気と自信が出てくる。

「これは?」

「古代の戦士達の作法というかお祈りだね。勝利を祈願する姿勢はどこでもあるけど」

なるほど、無策で突っ込むなという事か。誰であれ戦場に立つことに自分を仕立てるのは古来から変わらないようだ。

実戦用の装備も与えられた。剣と盾、そして騎士風のいでたちの鎧。今はまだ最低限なのでこれだけ、でも、どこか不思議な安心感がある。

「今回はゴブリンの拠点潰し、だけども」

制限を付けさせてもらうと。

「まず火力による先制攻撃の禁止と各自のペアでの戦闘術の向上。2人一組で立ち回ってもらう」

ミーアとエメリア、バーゼルとシェリル、ラグリンネとエトナ、最後にピュアブリングと自分。

「今回は新規が入って来てるからそれでまず各自連携を取りつつペアで対応可能な限界を見極める。いざという時の自分の相性の悪い敵を見極めるために」

『はいっ』

なるほど、ソロでは対処が無理でもペアならばどうにかなる場合も多い、今後を見据えて経験を積もうという事か。で、最後に一番足を引っ張る可能性があるためリーダーが担当なのか。

「先に言っておくけど僕の動きに合わせる必要はない。僕が皆の動きに合わせて動くだけだから」

どういうことだ?。彼は指揮を執るわけなのだがなんだか様子がおかしいぞ。その疑問は依頼に出てすぐにわかった。

「こっちに予備の装備を」「矢筒投げてくださいまし」

「はいよっ」

ミーアの武器が血脂で使えなくなり予備の装備を渡しエメリアが矢筒から矢が無くなればすぐさま放り投げる。

「こちらにも予備の装備をお願いします」「こっちに石板下さい」

「はいはい」

バーゼルの武器が摩耗すれば予備を出しシェリルが術の触媒を要求すればそれに瞬時に答える。

「こっちの敵の数が多くて」「ひゃあ、ちょっと厳しい」

「了解」

ラグリンネとエトナが神官なのに前に出て戦うという異常事態においてピュアブリングはすぐさま武器を抜き脅威の排除を迅速に行う。

「セシル。何をボヤボヤしている。お前は誰だ、何者だ、自分の役割を遂行しろ。ほら、ヘイトが集まって来てるぞ。迎え撃て」

仲間らが連携を取りつつ敵の排除をしている最中こちらにもターゲットが集まる。そうだ、今自分はリーダーと組んでいる。彼が役目を遂行できるようにするのが自分の仕事じゃないか。元々騎士とはそういうものだ。

「ぐっ、このっ」

ピュアブリングに迫りくる敵のターゲットを逸らすために盾を半身で構え剣を持つスタンダードスタイル、ゴブリンどもは絶え間ないほどに押し寄せてくる。

(大丈夫だ。自分はもう一人じゃない)

短時間ながらも有用な戦法と弱点の洗い出しと対策、なにより事前のお祈りが功を奏し一体一体確実に倒していく。

「はぁっ」

「ぎゃあああ」

だがさすがに数の多さには対抗するのは容易ではない。合間合間をピュアブリングの加勢で何とかやり過ごしたり時には強化魔術で援護してくれる。てか、なんでこれほどまでのことが出来るんだ?どう考えても常識を飛び越えていた。

リーダーは敵味方に大きな制限がかかる中でそれを一人だけ無視しているかのように行動する。ゴクリっ、自分はまず間違いなく大きな運命を掴んだのだと実感した。

「よし、外周は制圧し終わった」

ついに洞窟の中に入る。

「すまないけど」

一番前列となるのは自分とリーダー、後は後ろに控えることになる。

「たかがゴブリン、されどゴブリン、ここまで拠点を立てられるのならばしかるべき相手がいると考えたほうがいい」

今後ともゴブリン退治はいくらでも仕事が入ってくる。自分だけはもうそれに3回も失敗していた。その恐怖心を取り除くために手柄が必要だ。各自松明を分配し中に入る。

「うっ」

このすえついた独特な匂い、そうだ。あそこと同じ場所だ。仲間達が無残に死んでいったあの場所と。足が震えてくる。

「落ち着いて。君は一人じゃない」

「は、はいっ」

君が出来ることをやれ。他は仲間がする。それだけ。

合間合間の岩陰に松明を向けて待ち伏せを防いだりしながら奥に進む。

「やっぱりトーテムがあるんだよね」

獣の骨や枯れ草や木の枝で作られていたモノ、シャーマンマジシャンなど上位個体がいることは間違いないと。教えてくれる仲間達。

「で、ここで、こうなってるわけ」

洞窟の影の暗がりに子供なら通れそうな横穴があることを松明をかざして確認させる。以前は松明などあまり意味がないと考えていたがこのような横道が作られてしまうなら事前確認はしっかりすべきだと実感した。

彼はその後も色々なことを現場でレクチャーしながら前に進みつつ敵の排除を僕に行わせる。暗がりから不意に出てくるゴブリンの醜悪さとその脅威を実感しながら。

そうして、最深部まで到達する。

「ひっ」「静かにしろ」

そこにいたのは数十体のゴブリンだった。こんな数がまだ生き残っていたのか。

「これを全員貼って」

「これは?」

「《状態異常無効化》のお呪いを書いたもの」

訳も分からずそれを体に貼る。あと、短剣を何十本も出してしまう。

「《睡眠》《酩酊》《沈黙》《追い風》」

ピュアブリングは一度に複数の呪文を組み合わせて発動する。それでゴブリンどもは眠りの中に落ちる。後はやることは一つだけだ。

ザシュッ、と。剣先を喉元に突き立てる。それだけでは万が一死んだふりをしている可能性もあるためさらに心臓を刺して確実に殺す。他の仲間全員も彼が出した短剣を使い同じように二度刺して死亡の確認を怠らないようにしていた。

神官であるラグリンネやエトナですら忌避感を抱かずに黙々と短剣で殺していく。

単純明快だが、楽な作業ではなかった。

「うぇっ」

ゴブリンを視界に入れ確実の殺す作業は食べた腹の中の物を吐き出しかねないほどだった。本音を言えば見たくもない。でも、ここで見逃せば次はどれほどになるのか想像が出来ない。ピュアブリングが術を維持している間に始末をつける必要がある。

なので、短剣はいくらあっても困らなかった。

上位個体はしぶといそうだから4回以上確実に刺し頭を割れ、事前にそう聞いている。あったのは感情のない殺意だけだった。あたり一面血の海で染まった。

「まだ終わってませんよ」

「えっ?」

ミーアらが向かったのはさらに奥の場所で木の板で何かが隠されていた。それを取り外すと「ぷぎゃあ」ゴブリンの子供がいた。

「連れ去られた女達がいなかったのは雌が多かったんだね」「そうですわね。ま、これも自然の営みというやつでしょうし」

二人は新品の短剣を握りしめている。もうやることは決まっている、だけども。どうか、どうかこの時、この瞬間だけ、この場面だけ、それを変えたい気持ちが出てくるが。

「セシル。これが世の営みなら我らもそれに従わねばならんのだ」「あなたの気持ちはよく分かりますが知恵を付けられて復讐してくることを考えて下さい」

二人の言葉は分かる、分かるが。単純な復讐という言葉では頭の中が整理できないのだ。

「これも天の定めた運命なのでしょう」「モンスターとして生まれた時点でこうなるうんめいなのよー」

神官の二人でさえもその運命に介入しようとしなかった。そうして、ゴブリンの拠点は殲滅された。

その後のことはそこら中に転がっている粗悪な装備の回収とかお宝がないとかそんなことだけ。自分を取り戻したのは血脂で汚れた服を洗濯していた頃だった。

装備品の手入れやチェックは各自でやることになっているが急ぎの場合はピュアブリングに頼めばいいと。

「……」

自分は今日初めて依頼を達成した喜びよりも自分の手を血で汚すという事がどれほど残酷なのかを考えていた。有名な武勲詩で語られるような綺麗で素敵なお話などどこにも存在しなかった。ただの略奪と蹂躙だけがこの世界の共通することだけ。それだけ。

先に死んだ元仲間達が今日の自分を見たらどう思うのだろうか。軽蔑するか、残酷だというか、無慈悲だと非難するか、じゃなんでお前達は先に死んでいったんだ。

努力もせず胡坐をかき必要な知恵知識を聞こうともせず先達の教えすらも笑い話にした。そんなことは現実にあるわけがないと。で、最後がこれだ。ああ、不運だったな。

だけども、自分は今日という死地から見事に生還した。

「セシル」

「リーダー」

「初陣の勝利おめでとう」

「ありがとうございます」

お褒めの言葉をもらう。でも、今は誰ともかかわりたくなかった。すると「え?!」ピュアブリングがその細く幼い体で抱きしめてくれた。

「辛かったよね?」

「え、いえ」

「苦しかったよね?」

「その…」

「悲しかったら泣いてもいいんだよ?」

「……」

「さ、体の中の悪い泥を出し切って笑顔で明日を迎えようよ」

それでもう抑えが聞かなくなった。その細い体に今はひたすら甘えよう。大粒の涙が際限なく出てくる

「う、う、うわあぁあぁぁん!なんで、なんで、あんなにいた、仲間達が、みんないなくなって、無残に死んで、若い命の自分が、いきのこって、しまって。みんな、みんな、いいやつだって、わるいやつだって、いなくなって。置いてきぼりにされて。要領の良くない、じぶんが、じぶんがぁあ!」

セシルは誰も見たことが無いほどに悲しんだ。自分の戦いの幕はまだ始まったばかりだ。絶対に生き延びて見せる。臆病者と笑えばいいさ。現実を知らない他の連中は一生その場所でそうしてろ。

もう自分と彼らは無関係なのだから。
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