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おこぼれにありつこうとする連中 4

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訓練、研究、準備、実戦。上手くいくこともあれば下手をうつことも日常茶飯事。人生とはそんなものだ。その中で何をつかみ取れるかで人生は大きく変わる。

仲間たちと分担しながら新人冒険者を鍛える時間。彼らからすれば先達でありこちらからすれば後進だ。教える側教わる側となることで見えてくる自身の立場は重要な経験だ。

些細な認識の差を感じることでより高みを目指すきっかけになることもある。

さて、灰色級冒険者どもは誰一人として脱落することなく日夜僕の行う訓練に付いてきている。その間に基本的な採集や基礎を学ぶ野外訓練などを経て徐々にたくましく育っていた。散発的に出るゴブリンぐらいなら問題ないぐらいには。

もうすでに何組かはゴブリンの巣穴に潜らせていた。もちろん、僕のサポート付きだが本当にどうしようもない場合を除いて手出しはしない。でも、教えるべきこと注意すべきことはしっかりと教えている。

それで自信を得ても傲慢になったり敵を侮ったりしないよう厳しく指導している。僕の元から巣立った鳥は生き延びるために必死になって学習を行う。

全員が巣立つまでもうちょっとだ。

そして、徐々にだが実績らしきものもチラホラと聞こえるようになってきていた。

「えへへへっ」

僕に教えを受けているビースト女、どうにも笑みが止まらないようだ。

「そんなにうれしいの?」

質問する。

「だって、今までは『〇〇〇野郎の腰巾着』としか呼ばれていませんでしたから。自力で依頼達成できて嬉しくもなりますよ」

彼女が受けたのは村の周囲にうろついていたゴブリン数体の討伐。どうも群れからはぐれやせ細った個体であったため彼女一人で十分だと判断し戦わせた。運も良かったのだろう。致命の一撃を貰うことなく上手く戦い勝利した。

パーティであるなら人数分分配するが僕はあくまでレクチャーをしているだけなのでもらう気はない。報酬として小金が積み上がり彼女はご満悦だった。

「あれですね。リーダーがいいとその下も良い思いが出来ると実感できます」

「僕は普通だよ。優秀でも何でもない、救いたい命を見殺しにし続けてきたんだ」

「私には難しいことはよく分かりませんけど。今あなたがいるからこそ助けられている人々はいるはずです」

助けられている人々ねぇ、あの施設と比べれば世界は何とも平和だと思ってしまう。もちろん大小様々な不幸はいくらでも聞こえてくる。あそこと比べること自体がおかしいのだろうか?でも、あそこの記憶を忘れる気はないし死んでいった者たちの分まで僕は生きるつもりだ。

あの施設の関係者が憎いからじゃない、彼らとてこれ以外に方法がなかったからこそだろうと最近は考えるようになっていた。

「先生は私達を巣立たせた後はどうなさるおつもりですか」

こちらが何か考えているとビースト女が顔を覗き込んでくる。

「別に。冒険者を続けるだけ。一応行先はあるけど」

「先生ぐらい優秀だったら引く手数多のはずですよね。なのに在野のままでいるんですか」

彼女はもったいないと言った。

「私が先生ぐらい強ければ国王の側近とか国の重鎮とか望むがままに出来るんですけど」

それを目指す気はないんですか?立身出世を望む冒険者らしい答え、でも僕は。世界の平和なんてどうでもよかった、自分の平和さえ守られればそれでいい。それを邪魔するなら何者であろうとも皆殺しにするだけだ。背中に背負うイヴラフグラ《富と咎を成すもの》がわずかに反応したように感じる。

自分勝手だろうか。誰だって自分が一番可愛いはずだ。自分を優先して何が悪い。彼女らの元主も自分勝手だった。その報いはすでに受けたが残されたものにとっては最悪だろう。

「あ、向こうの串焼き美味しそうですよ」

手を引っ張られる。

「これとこれください」

「はいよ」

串焼きを2本買い彼女は代金を支払う。彼女はその1本をこちらに向ける。

「君のお金で買ったんだから君のでしょ」

「先生。自分自身のことに無関心なのに他者への気遣いが出来すぎてますよ。もっと自分を主張すべきだと思います」

いつもいつも誰かのことには一生懸命なのに自分自身への意思が希薄すぎると。

「教わる側はですね。そうした先達への気遣いが出来なければ見放されるって私は思ってます」

これはそのお礼だと。

「いや、それは冒険者ギルドが」

「それは建前ですよね。本音は貴方が大部分のことを整備したと受付嬢から聞きましたから」

「口が軽いなぁ」

「先生はそういった諸々の恩恵を受け取るのをあまり好まない方だと聞いてますが」

「僕自身は制度を発案実行しそれを行き渡らせて最後は冒険者ギルドに丸投げする予定だよ」

それは偽りのない本心だ。そこまで行けばもう僕は必要ないだろう。

「先生は世界に対して『自分だけの色』を入れようとしてるんですね。増々尊敬します」

「おかしい?」

「おかしいどころか偉大としか言いようがないですよ。世界に自分だけの色を入れられるなんて国王でも不可能ですから。それを達成できたのは限られたごく一部とその例外だけなんですから」

ビースト女の目が輝く。

「先生は、その、敵と見なせば誰とでも戦う。そうおっしゃいましたよね。嘘じゃありませんよね」

僕は自分の言葉に嘘をつくことを絶対にしない。誰かに嘘をつくこともあるが自分には嘘をつかない。

「じゃ、私の悩みの相談、受けてもらえますか」

広場の椅子に座り焼いた肉を食べながら彼女の悩みを聞く。

彼女の部族の問題だった。

この世界では種族ごとに集落を形成しく暮らしているのがほとんど。町のように雑多な入り交じりはあまりない隔離された場所。そこで彼女は生を受けた。普通に育ち普通に暮らし普通に人生を過ごす、それが彼女の人生の計画であったが冒険者となった理由。

部族の長から「我が一族の子を守れ」そう命じられた。

そいつは世の中の常識を知らない狭い世界の王様であり支配者だった。彼女はそれに逆らえずお供をするが左記のとおり常識や良心が欠けており「自分は世界の主人公」声高に叫んでいた。ま、典型的世の中を知らない馬鹿が出てきただけ、それだけ。

いくら止めても取り巻き共が遮る。彼らからすれば世の中を知らない成り上がりを煽てて甘い汁を吸おうとしたのだろう。コネを使い青彩石級にいきなり成り上がったからすべてが嘘ではないはずだ。しかし、その後が良くなかった。青彩石級など下位の真ん中あたり、とてもじゃないが冒険者としてはまだまだ下積みが必要だ。

だけどもそいつは王様気取りであれやこれやと欲望を撒き散らした。やがてその評判が部族の里まで聞こえるようになると彼に帰還を命じた。だけども一度甘い汁を味わった彼に窮屈な里の暮らしは我慢できなかった。徐々に支援金は減らされていくが彼は変わらなかった。いや、悪い方向へと進み始める。

仲間らと結託して弱者の弱みを握り脅す。そんな行為に手を染めた。当然冒険者の等級も下げられる。真面目に冒険者をやろうとはせずひたすら搾取だけを続ける。それを見て取り巻き達も潮時と判断し離れていくが彼は変わらなかった。

もうすでに共の者たちの多くが離れており残っているのは私だけ。何とか出来ないか。追い詰められた彼が考えたのが「優秀な冒険者へ寄生する」だった。実に単純明快な答えだ。寄生して適当に指示を出せば実績を積めると。安直に言うが馬鹿である。

「優秀な冒険者を金で買うか。まぁ、悪いと言えばそれまでだけど。それ以外打開策がなかったんだね」

「はい…。優秀な冒険者のパーティはほぼ固定であり何もしない能無しを受け入れる余地はないと。全部跳ね除けられました。さらに物資の買い占めをするため金貸し共からありったけ金を借り実行しましたが御覧の有様で」

「それを邪魔した僕を憎んだと」

「そうなんです。彼は騒ぎましたよ。『お前のせいで計画が狂った』で、最後には部族からいなかったこと扱いにされてしまい借金返済のため強制労働送りになりました」

そういう事情なのね。まぁ、責任の一端が僕にあるのは間違いない。

「家族から手紙がようやく来たんです。『なんでこんなことになってしまったんだ』元主が真面目に冒険者を学んでいれば、行動に移していれば、後悔先に立たずです」

「だから、僕に復讐すると」

「最初はそう考えてました。馬鹿な元主の責任のせいで私まで悲惨な目にあったんですから憎まない方が無理でしょう、けど。実際問題そこまで大事になったらその元凶のほうが悪いに決まってます。あなたがいなかったら今現在平穏なこの場所で暴動が起きていたでしょうから」

ちゃんと現実は理解できて処理したようだ。

「結局元主には冒険者などならず里で飼い殺しにしておくべきだったと。私の中で結論が出せました。これでようやく重荷が無くなりましたし」

けど、まだ解決できてない問題が存在している。

「元主に媚びていた取り巻き共が私達に近づいてきたんです。『甘い汁を吸わせろ』嫌らしい笑い顔で叫ぶそれは金の亡者以外ありえません」

まーたここでよろしくない連中か。仕方ない、世の中のためにお掃除させてもらうか。それには彼女達の協力が不可欠だ。どうやら他にもいたようでそれを排除してくれるならばと大喜びだった。

僕が行ったのは『局地的大暴騰と大暴落』だ。

彼女らを通じて「これが今後値段が上がる」そんな噂を流して置き意図的に僕がそれらの品々を手当たり次第に買いまくり市場から無くして無意味な大暴騰を起こす。奴らは金の匂いに敏感だからその噂を聞いて品物を買い漁るため外に買い付けに行く。

で、奴らがいなくなったスキに買い占めた品々を破格の安値で流通させる。僕のスキルならば同じ品物を量産することは容易い。数日後有り金はたいて買ってきた品々はもはやゴミのような値段まで下がっている。じゃ、近場の場所に売りに行けばいい。それも先手を打ち《転移》で品々を破格の安値でばら撒いた。

もうゴミ同然となった品々を抱え彼らは大変に困窮した。

『悪夢だ。こんなのは悪夢以外ありえない。一体誰がこんなことをしたのだ』

もはやゴミ同然の在庫を抱えてしまい換金不可能となった連中に近づいたのは金貸し共だった。ま、金に困った人に近づくのが金貸しだからね。暴利だけど。奴らはことごとく強制労働送りになりましたとさ。めでたしめでたし。
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