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おこぼれにありつこうとする連中 3

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コネや縁故採用で冒険者となったがその後馬鹿な行動をした主のせいで壊滅し日和見をしたり媚びへつらったりしていた連中は軒並み貧困に落ち白い眼を向けられるようになり居場所を失う。

もう彼らを守ってくれる相手はいなくなり自力で居場所を確保できなければ農奴になるか路上暮らしか娼婦にまで落ちる寸前まで追いつめられる。

だが、捨てられるものあれば拾う意味のあるものも存在していた。たとえそれが元主の敵だとしても救ってくれるのならば頭を下げる価値がある。

彼らにはもう逃げ場はないのだから。

「たかがこん棒、されどこん棒、正確に敵の急所を狙えばゴブリンでも即死させられる。武器がショボいとかなんだとか言ってる場合じゃないでしょ。どんな形であれ敵を倒せればいいんだから」

『は、はいっ』

「鉄の剣の方がいい?。馬鹿、5体も切れば血脂で使い物にならなくなる装備よりも物理で殴れ摩耗しにくい装備のほうがいいんだ。こん棒は人類が最初に装備した実績と歴史ある武器なんだ。見てくれより結果だ」

『はいっ』

「木製や革製の盾なんてダサくて格好悪い?てめぇら攻撃を防御できるありがたさが分かってないだろ。防具がなくて致命傷を負う危険性のあるお前らには野暮ったくても盾が有効なんだ。しっかり扱い方を覚えておけ」

『り、了解しました』

「おい、スリングショットを馬鹿にするなよ。こんな紐と石だけの装備だが投げ方を覚えれば鉄製の兜だって貫けるんだ。石なんてどこにだって転がっているんだ。それを使わないでなんとするんだ」

『はいっ』

「冒険の途中で装備を失った?じゃ、そこらの死体や倒した敵の装備を使え。あ?良心が痛む。お前の良心は自分や仲間の命よりも重いのか。生き残りたかったならあるものは全部使え。それで命が救われるなら軽いものだ」

『ひいっ』

「あとな。各種水薬の不用意な使用は控えろ。解毒剤もだ。それを常時使用していたら金ばかりが出ていく。本当に必要な場合だけ使え。これは仲間も同じだ。補給物資は望めば出てくるとは限らないんだ」

『へ、へいっ』

「おいお前。パーティでの自分の立ち位置をよく考えろ。位置取りをしないと連携が取れず決定打を与えるチャンスはやってこないぞ。常に仲間と違う攻撃点を見つけられるように立ち回るんだ」

『はひぃぃ』

「弓兵と術師が後ろにいるだけなんて思うな。味方が前に出てるのに援護できないとか最悪だ。そういう時は場所を移動し斜めから射線を確保するんだ。魔術は回復時間も考慮しなるだけ道具を使え。手がなければ頭を使うんだ」

『ひいぃい』

「そこの見習い神官聖女ども。後ろで守られてお姫様気取りか?場面によっては《聖光》で敵の動きを止めるため前に出ることも覚えろ。《聖壁》とかも防御用ではなく退路を断つとか使い方を広く持て。それで窮地が救えることも多いんだ」

『うぇええん』

ピュアブリングは鬼教官であった。

この残酷な世界で生き残るために最も重要な『経験値』を出来る限り短時間で吸収させるためにあえてそうしている。仲間達もここまで徹底的に教える教官は初めて見たほどだ。

ただ過酷な鍛錬を課しひたすらいびるならそれまでだろう。だが、彼は人の心の持ち上げ方も非常に上手い。極々些細な行動や発想の変化を見逃さず「お前上手くなったな」などと上手く人を褒めて不満を解消させる。

個々の素質や性格さえ手中に収めスパルタ教育で鍛え上げていく姿は彼の外見からすると違和感ありまくりだが指導者として見るならば何の不思議もない。

訓練に励めば腹も減る。ピュアブリングは彼らのために食事も用意してくれる。

「ほら、さっさと食え。後があるんだから」

『い、いただき、ますぅ』

芋のシチューやパンや茹でたソーセージなど、簡素なものだがそれでも貧困暮らしの彼らからするとご馳走であった。訓練でかいた汗も洗い流せるし寝る場所は訓練場に野営テントを敷いたものだが安全は保障されている。

訓練をある程度積んだら実戦だ。

大鼠や大虫などを数人パーティを組んで順番に経験させる。最初こそ戸惑うが訓練での教育が行き届いており大した問題もなく依頼達成。ささやかな小金は彼らの取り分だ。授業料はもう差し引いてあるからだ。

自力で金を得られたことに喜び涙する彼ら。こんなことは彼らの元主は一切教えてくれなかった。

『オーガとかを倒して勇名をはせるぜ』

出る言葉はそれだけ。

自分の実力も考えずに馬鹿な言葉しか出てこない有様は夢見る自殺志願者そのものだった。そんなのに媚びへつらったり日和見をするしかなかった彼らからすると「嫌な主」である。

社会構造のカーストの下部に位置していた彼らからすれば媚びを売るしかなかったのだろう。もっとちゃんとしたことを教えてもらえれば違う未来があったはずだ。

大鼠や大虫退治は彼らの相手としては不満であった。でも、その主たちはもうこの世にはいない。頼れるのは自分らだけだ。

皆必死の形相である。

何度か実戦を行い順番でゴブリンなどを退治させる依頼へとシフトしていく。それで問題ないと判断されれば各パーティごとに分かれて依頼をこなしていく。

冒険者ギルド側も最低限とはいえ真面目に活動してくれる者が増えることは喜ばしい。でも、問題も起こるのは世の常だ。

「貴様ら!主を裏切り敵側に寝返って誇りはないのか。恥を知れ!我が子らをよくも見殺しにしたな」

案の定彼らの元主の一族や実親らが冒険者ギルドに文句を言いに来ていた。

冒険者とは自己責任自己負担でモンスターと戦う破落戸まがいの無頼漢だ、国が容易に軍勢を動かせないからこそこうした連中に身分保障を与えて冒険者ギルドがそれを管理している。

高名な冒険者はあらゆることが思いのままに出来るほどに権力がある場合が多い、なのでそれに憧れるのは無数に表れるが大多数はどこかで不幸な死を迎える。それは世界という営みの中の些細な出来事であり些末なことなのだ。そんな夢を目指した時点で覚悟しておくべきことであり後になってそれを否定してはならない。

そう、その人生を選んだ時点でもう後戻りはできないのだ。

怒鳴りこんできたこいつらからすると冒険者とは富と名誉は思うがままの商売、手厚い支援をすれば見返りがもらえる。そんな考えなのだろうが現実の残酷さをまるで理解していない。

どんなに備えていても予想外は必ず起こる。ただ彼らはそれに捕まっただけ、それだけだ。冒険者がどこかで死んだとしても誰も悲しむ必要はないのだから。

ピュアブリングからすると「ウザイ上馬鹿な連中の愚痴は聞きたくない」だ。

「ご家族様。あのですね、我々も注意したんですよ。出来もしない依頼はやめろと」

「その結果死亡しては何にもならんではないか。子供らに支援した分はどう回収するのだ。我が子を返せ」

「そもそも冒険者とはそういう仕事です。ご理解いただけないかと」

「ならなんで我が子らの取り巻き共が敵に寝返ったのだ。恩を忘れた恥知らずではないのか」

あくまでピュアブリングのほうが悪という言い分。埒が明かないとして別室に連れて行くことにした。

「大切な家族を失った悲しみはちゃんと理解できます。であれば、生き残った者はどうなるのでしょうか」

「は?そんなのは農奴なりになればいい。それ以外返済のあてはないだろう」

「彼らは真面目に冒険者を続けその中から返済しようと決意を固めてます。最悪の場合はどうしようもありませんがもうこれ以上無謀な要求はしないで下さい」

「こいつらは我が子らを見殺しにした罪人ではないか」

「その理解自体が間違いなのです。ただ冒険中に不幸な事故に遭遇し生き延びれなかった。事実はそれだけです」

「そんな言葉程度で子供の死を受け入れろと?冗談じゃない。我が子は優秀だった。それを見殺しにしたそちらの方が悪いはずだ」

「なるほど、人の善悪を明確に問えと。そういうことでしたら」

逃げようのない事実を教えてあげます。後悔しないで下さい。念押しするという事は冒険者プレートに記録された事実を公開するという事だろう。良く回収できたね。

ギルドの職員はその中身を次々と明かしていく。

「恐喝、脅迫、略奪、窃盗、代金未払い、女への暴力行為など、数十件の罪状があります」

「こ、こんなのは出鱈目だ。こんなのは証拠にはならない」

「この冒険者プレートの内容を保証しているのは世界中の諸国全てでありその保証は国王陛下から出ております。あなたが何者かは存じませんが国王陛下から権限を預かっている冒険者ギルドが不正を行うとお考えですか」

「い、いや、それでは、我が子は」

「まともに考えていれば即座に牢獄送りでしょう」

「な、なぜ、そのようなことに」

なってしまったのだ。この男は茫然自失となる。

「実家の支援に胡坐をかき真面目に冒険者の仕事をしなかった。それだけです」

「我が子を支援するのは当然ではないか」

「近年このように傲慢になる連中への対処が厳しくなっておりましてコネや縁故採用は軒並み白い目で見られております。つまり、あなたと同じ考えで行った多くの者たちのせいでそうした対処が世界中で行われるようになりました。国王陛下からの実印押しの書類も作成されております」

これ以上文句を言いたかったら国王陛下の前に行ってもらう必要がある。地方の有力者とはいえさすがに中央の大物に即座に会う機会なんてまずありえない。

「……あの子は何でこのようなことに」

この人にとっては可愛い我が子だったのだろう。だけども、冒険者ギルド発行のプレートに改竄は不可能だ。もっと援助すればよかった、そんな考えも出来る。それでは堂々巡りなのだ。犯罪に走ったのも実家の援助が足りないというより見知らぬ土地で潜んでいた欲望を解放しただけ。

それが犯罪であるという認識さえ低かった。何しろ、だれも自分を知らない土地だから。

「……なぜ、なぜ、私は、あの子を、冒険者などに、させてしまったんだ…」

大粒の涙。ごく普通に生きていればこのようなことにならなかったし犯罪に手を染めることもなかったはずだ。ちょっとした火遊び、些細な冒険、それが今この結果になった。

「お前たちは、見殺しにしたわけではないのだな」

「はい。ちゃんと注意しましたし止めたことも何度もあります。でも、彼の心には届きませんでした」

そうか。

「今後は真面目に冒険者として活動し支援した分の返済は徐々に行う予定です」

「わかった。そうしてくれ。私には心の整理を付けるための時間が必要だ。後のことをよろしく頼む」

その人はあれだけ僕のことを敵と見てたのに最後は涙しながら頭を下げてきた。世界にとっては些細な不幸でも一個人から見れば重大なことなんだよね。でも、僕がどうしようとも彼らを救う気はなかったことだけは言わないことにした。
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