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決意と覚悟を示す

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ピュアブリングらが私達に見切りをつけて先に進もうとする。どうすれば止められるのか。それを必死に模索する。

「「ま、待って!」」

大急ぎで彼を追いかける。それでこちらを振り返る3人。松明の明かりが照らす彼らからは仲間意識が無くなり良い感情は見られない。冷たく感情のない眼差しだけが彼らの答えだ。ピュアブリングの目には私達などそこにいないも同然だろう。決意と覚悟を示さなければ彼らは何もしてくれない。

私達は他から短剣を借りそれを耳に当てて刃を滑らせ「ザクッ」片耳を切り落とした。その痛みと共に自分がいかに他者に甘えていたのかを痛感する。

『耳切りの大罪』

ビーストやエルフにとって耳を切るということは大変に危険なことだ。自分に許されざる罪状がある時だけ耳を切り落とされる。片耳が無いというだけで他者全てから侮蔑されるのだ。私達は一時的とはいえパーティを組んだ上で許されないことをした。だからこそ罪を償う必要があるのだ。彼らの目の前で。

「「こ、これを、おうけ、とり、ください」」

私達はそれをピュアブリングに差し出す。ラグリンネとエトナは耳切りの大罪のことを知っていたようだが彼は知らないようだ。彼は悩むような面倒そうなつまらないような顔をしてそれを受け取ってくれた。私達はこれで許されたのだ。

その後彼は 《高位回復》で私たちの耳を元通りにしてくれた。戦士なのに神官よりも上の回復の奇跡を使えることに驚いた。これで償いは済んだ。私達に追加で持久の水薬を二人分数個渡してくれた。

「これ以上足を引っ張るようなら二度と振り返らないから」

迷惑をかけたのは3人だけじゃない、他の仲間2人にも多大な負担を強いていた。二人は真面目に冒険者を目指していることを思い出す。物資は誰かから無限に出せなどしないこと。手の中にある物だけが事実だと。彼らはまだ奥に敵が潜んでいることを考え水薬をなるべく温存していた。

それに気づかなかった私達の方が愚かだったのだ。

「注意しようと思いましたが」「ごめんねぇ。先んじて言われてたんです」

「「ごめんなさい」」

私達二人は仲間に頭を下げた。そんな当たり前のことに気づこうとしなかったし注意されても無視していた。他二人からもパーティの秩序を乱していたのは私達の方だ。それを考えれば頭を下げるのは当然だ。

彼がいなかったら愚かな夢を抱いたまま惨たらしい最期を迎えていただろう。それに心の中で感謝する。まだ先がある、油断せずしっかりと役割をこなそう。

「しゃあぁぁあ」

ゴブリンたちの襲撃、敵は3体。私達の前に出ている。ミーアは二刀流で素早く相手の喉元を切り私は弓で打ち抜く。

「お見事」

ピュアブリングがここで初めて褒めてくれた。今まで家族からしかもらえなかったその言葉が何よりもうれしかった。そしていよいよ最深部に到着する。

「ぐぅうう。よくぞここまで来たものだ」

そこにいたのはオーガだった。それも2体!

「ここに先んじてやってきた冒険者らはどうしたの」

言葉が通じるのかオーガは答えた。

「とっくに我らの腹の中よ。女はおらんかったのでな」

最悪だ。

「で、貴様らももうすぐ同じ事になることだな」

オーガはニタニタとしていたが。

「ざけんな。食われるのはお前らの方だ」

各自戦闘態勢を取る。ピュアブリングはここで初めて背中の剣を抜く。

『あ、あんなものが、地上世界に、あっていい物なの?!』

その剣からは妖しい輝きが立ち上がり持ち主すらも飲み込もうとしている。それはまるで世界を焼き焦がす業火のごとき光と闇。それすらピュアブリングは手の中に納めている。

「一体は僕で引き付ける。あと一体をお願い」

「我らをなめるな」「死ねぇえええ」

オーガが横並びで突っ込んできた。

「《剣突撃》」

僕は切っ先を片方のオーガに向けて突進した。ズドンと明確な手ごたえがある

「があああぁああ」

オーガのどてっぱらを貫けなかったが内臓には間違いなく届いているだろう。さらに突進の勢いで前後に分かれた、残りの仲間に片方の対処を任せる。

「《小さき魔術使い》ファイアーを撃て」「《勇ましき人形》ゴーレムども、前に出ろー」

ラグリンネとエトナが召喚魔術で呼び出す。数はそれぞれ3体、だがさすがにオーガとはいえキツイものがあるだろう。

「我らも負けてはいられませんぞ」「魔術で援護します《石弾》」

バーゼルはハルバードを持ち振いシェリルはスタッフで魔術を唱える。一瞬ミーアとエメリアが躊躇したが覚悟を決めたようで互いで出来ることを行う。ミーアは足元に滑り込み切り付けエメリアはやや離れた場所から弓を番える。

「やぁっ」「このっ」

僕以外はオーガを相手にするのは初めてだろう。その屈強さで僕の制作した装備でもなかなか通らない。各自全力で攻撃を継続する。

「貴様らは食い物だ。さっさとしねぇ」

「嫌だね」

一応人語を使うがこいつらなんぞに食われる気はない。どうやら魔術を使う気がないのか巨大な鉈をひたすら振り回してくる。右左左右後ろ、ステップで鉈を躱しつつ手足を攻撃していく。イヴラフグラは確実に体を傷つけるがさすがオーガである。いくら切りつけ血塗れになろうとも戦意が喪失することはない。

言葉にならない言葉を繰り返すオーガ。ああ、もう。うっとおしい。人を食い物にしか見えない化け物どもの声をいくら聞いてきたのかすら分からない。

イヴラフグラは僕の思いに答えるかのように妖しく輝く《富と咎を成すもの》敵を倒す富と咎をしなければ鞘に収まらない剣。これの制御のほうが大変だ。

オーガの大鉈と僕の魔剣、勝ったのはこちらで大鉈が真ん中から粉砕される。さらに力を込めて剣を横に凪ぐと胴体を両断した。上下に分かれるオーガの体、それでもまだ息を止めず抵抗してくる姿が何ともいとおしく感じる。最後に頭を潰して絶命させる。

グチャグチャ

剣先を頭部に差し込んでグリグリと回す。うん、これだけやれば絶命しただろう。

もう一方も終わりを迎えようとしていた。エトナのゴーレムが全力でオーガを押し倒す。

『死んで。すぐ死んで。もう死んで。お前なんて見たくもない。生き返らないで』

押し倒されたオーガは絶叫を上げる。そこに仲間が群がる。皆は頭や胸を重点的に攻撃する。一度目でダメなら二度目、それでダメなら三度目、それでも駄目ならありったけ攻撃するだけ。皆は僕とは違い各所を負傷していた。各自回復の水薬などを飲みながら戦い続けていたのが分かる。

もがき苦しむオーガ、何度も立ち上がろうとするがエトナのゴーレムがそれを許さない。皆が必死の顔でオーガを殺そうとしている。しばらくののち、オーガも耐え切れず絶命した。

「おつかれさま」

僕は気を楽にするよう声をかけたが全員の顔を見る限りでは死闘だったのだろう。血で汚れてない者はいなかった。これは急ぎ休息を与える必要があるとして皆を先に行かせた後オーガの遺体を《収納》に仕舞い込んで後に続く。

外に出てコテージを建築し各自順番を決めて風呂に入る。汚れてない真新しい服に着替えてから一旦自由時間にする。

「…ねぇ」「…うん」

ミーアとエメリアはコテージのベッドルームにいた。

「世界ってこんなに残酷なんだね「そうね。少なくとも物語には成るだろうけど」

いかに現実が醜いものなのかを今日思い知らされた。先人が成した武勲詩に憧れ里の外に出てきた私達は我儘だったし無駄に自信ばかりあった。上位種族となったので資質はあったのだろうし運も良かったはずだ。

でも、それだけの存在だった。

自分たちの知る世界がいかに小さいものであること、それに自分の主張が通ると信じていたこと、世界は自分を助けてくれると考えてたこと、すべてが都合よく甘い夢であったこと。

犠牲は膨大であり一々その中身など見ない。誰かが死んだ、どこかで死んだ、何に出会って死んだ、そればかりだ。自分たちはそうはならない、そう思っていた。それは大間違いだ。

ピュアブリングが私達の頬を叩いたことを思い出す。

『お前たちが無駄に使った水薬のせいで助かるはずの味方が助からなくなるんだぞ。その責任を取れるのか』

たかだか水薬の一つや二つぐらいで大げさな、でもオーガと戦ってその事実を痛感した。激しい戦いだった。腰の鞄にあれだけ入っていた水薬は一つ残らず無くなっていたのを気づいたのは地上に帰ってきてからだ。彼が追加で出してくれなかったらどうなっていたのか分からない。

自分が死んだかもしれないし仲間の誰かが死んだかもしれない。助けられる仲間が自分の無責任で死んでいく、それはやがて自分ですらもその運命に引きずり込む。そんな運命になっていただろう。

あのオーガの死体の光景が目に焼き付いて離れなかった。彼はこう言った。

『自分たちで4組目』

そう、私達よりも先に冒険者が来ていた、それも3組も。彼らは一人残らずモンスターらに食い殺されたのだ。

そうして、私達は自分の手で体を抱きしめる。生きて帰ってきたのだと実感する。するとバーゼルとシェリルがやってきた、多分私達が心配なのだろう。

私達は決意する。

「私、変わる。変わって見せる!もう守られる子供じゃない。ピュアブリングに会ったのは神の思し召しなのよ。やって見せるわ。少なくとも自分の味方を守れるように」「私は色々な人々に迷惑をかけ続けていた。でも、ピュアブリングは私達を激しく優しく叱咤激励してくれた!うん、この幸運を絶対手放したりしない」

少し前まで我儘と無駄な自信ばかり目立つ二人に決意と覚悟の炎が燃え上がる。その二人を見てバーゼルとシェリル「良い顔つきになられた」心の中でとても喜んだ。

「我々は今日この日部自分の武勲詩の最初の1ページを刻めたことを彼に感謝しなくてはなりませんな」

「そうですねぇ、彼ならとんでもないことを達成しちゃいそうですから」

「「やって見せるわ。目指すべきは彼のような存在に成ることよ」」

自分たちはまだまだ未熟で若い世代だ。冒険者として覚えなければならないことは無数にある。だけど彼の導きで進めば望み描いていた夢すらも越えるのではないかと期待が大きくなる一方だった。ただ、その一方で彼をまるで現人神のごとく崇める信者が増えたことがちょっと不安に感じた
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