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お嬢様二人に現実を教えてやる
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一時的にと組んだパーティだがこのトラブルメーカー二人のコントロールをどうするのか考え始める僕だが頭が痛い、無能なら切り捨てればいいがこの二人は意外と素質はめっぽう高い。それがまた彼女らが自信過剰になる原因の一つであった。
さらに言えばこのまま実家に帰っても良好な縁談などやって来ないことだ、それなら危険でも自分の身を立てて相応しい相手を選びたい。その一心である。それはそれでいいが経験値があまりにも足りなさすぎる。
(一回ゴブリンの巣穴にでも放り込まれれば心を改められるか?)
危険な考えが浮かぶ。うん、悪くはないな。現実を思い知らせ苦悩し嫌悪し憎悪し最後に現実は無慈悲であることをたっぷり見せることにしよう。
それで実家に帰ってくれれば好都合だが意外とど根性を見せてくれるかもしれない、その期待があるのかどうかを試すことにした。
二人はソワソワしながら「早く討伐に行こう」という顔をしている。それがお望みなら行くことにしようか。
冒険者ギルドで早速依頼を受ける。ちょうどよくあればいいんだけど。
「いらっしゃいませ。本日の要件はなんでしょうか」
僕はあの二人を引き離すように連れの二人に命じておいてから密かに「この条件でお願いします」職員に伝えた。それで一瞬驚く職員だが僕が黒鉄色のプレートを見せると『そういう事情だから』それで理解したのかすぐさま依頼の受注をしてくれた。
多分、あの二人のことに関しては冒険者ギルドも頭が痛い問題なのだと理解してたのだろう。僕としてはさっさと家に帰れば見たくないものを見ずに済む、それだけ。
でも、ラグリンネとエトナはそれを乗り越えた。それと同じことをもう一度やるだけだ。他の4人には伝えている。
「じゃ、早速行こうか」
「「待ってました」」
さて、場所はここよりちょっと離れた村だ。数時間歩けば届く範囲、そこに向かう。
「早速討伐依頼を進めましょう」「そうしましょう」
血気盛んな二人だが先にやるべきことがあるだろう。まずは村々を歩きつつ各家の状態を見る。どこか損壊してないか、子供が通りそうな隙間はないか、何かが失われてないか、家々を訪ねる。
その後は負傷者が出てないかを確認する。何名か農作業で怪我をしていて薬が欲しい。その要望に応えて回復の水薬を無償で配る。
回復の水薬を配り終えると村長を訪ね最近起こったことなどをよく聞いておく。農作業用の鍬や鎌などが足りずに困っているそうなのでその手の道具をある程度の数融通する。さらに言えば麦が少しばかり足りないと。それにピュアブリングは答え麦を30袋分出す。それに感謝する村長。
2人のお嬢様は、
「こんなことして何になるの?」「状況は依頼から聞いてるでしょ?」
という顔をした。
それをラグリンネとエトナが忠告する。
「冒険者ギルドに来る依頼のかなりの数がこのような農村からなのです。モンスターをただ見かけたというだけですけど実はどこかで巣穴が築かれていた、などという場合もあります。実際に遭遇したのは村人らなのですから彼らから状況を聞くのが一番良いんです」
「まどろっこしくない」
「たしかにねぇ。村人の話をそれぞれ聞いて要望に応えて回復の水薬配ったり物資を融通したりとか、短期的に見れば損だよ。でもね、武勲詩で語られている人々の中の多くがこのような地道な草の根活動から進んでいるよ。その地に住んでいる住民からすれば冒険者なんてのは『外の人』だからだよ。長期的に見れば人々の些細な助けでも要望に応えてくれるなら恩人なんだよね」
「ただ敵を倒せばいいというわけではないという事なのね」
二人はここで住民らの顔と態度を確認する。住民たちは笑顔で冒険者の到来を歓迎していた。
「もし、無用な搾取を行った後パーティがボロボロになってその村に帰ってきたら住民はどうするでしょうか」
答えは一つだけだ。
「冒険者はただ腕っぷしが立つだけじゃ務まりません。このように善行を地道に積み上げていかないと背後の梯子を簡単に取り外されてしまいます」
「そういった連中は長生きできないし横や後ろから容赦なく矢が飛んでくる。それに比べたらこのぐらいの余裕はないとね」
「そういうことですな。お嬢様達は人々から助けを求められる冒険者になりたいのでしょう。彼の姿を覚えておかねばいずれ破滅いたします。それは我々も同じです」
「人々は様々な噂を流しますからねぇ。良くも悪くも。吟遊詩人などが語るものがすべてではありませんが真実の一端を間違いなく含んでいますから」
まず間違いなく。常にこれをやれという訳ではないが現地の住民を敵に回すような言動は控えたほうがいい。それを胸に刻んでおけと。
しばらくするとピュアブリングが戻ってきた。
「ここから向こうのほうでゴブリンたちを見かけたらしい」
さっそくその場に向かう前に各自に回復の水薬などを配るピュアブリング。一通り渡し終えるとその現場に向かうその前に説明がされる。
「この依頼は僕たちで4組目だからね」
「「え?!」」
よんくみめ、ヨンクミメ、え?4組目!頭の中で復唱する。じゃ、前に向かった3組はどうなったんだ。その答えがあまりにも恐ろしくて体が震えはじめる。だけども依頼放棄はできない。全員の顔を見ればどうなったのかが分かった。『壊滅』したんだと。
物語の中での敗者の運命は残酷である。いまそれが自分達になるのかもしれないと。
そうして、巣穴まで向かうことになる間震えが止まらない二人。
「あれがゴブリン」「醜悪」
この二人はゴブリンとは初対面なのだろう。ほらこちらには弓兵がいるんだよ。お仕事の時間だ。
「狙って」
「は、はい」
エメリアは矢を番え弓を引き絞る。いままで鍛錬したことをやればいい、やればいいが、的は生きたゴブリンだ。何か動きがあれば矢は外れるかもしれない。そうなったらゴブリンは間違いなく警戒態勢となるだろう。巣穴から数多く出てくるかもしれない。それがこちらに向かってくる恐怖を思い浮かべる。
目を瞑りたい、でもこの距離から攻撃可能なのは弓兵である私だけだ。目は瞑れない、弓を引く手が重く感じる震えが止まらない。そしてついにその決断を下す。
(当たって)
私はここで初めて神に願った。番えた弓の弦を放す。
バシーン
矢は容赦なく敵の体を射抜いた。それでゴブリンは倒れる。
私達はすぐさま洞窟の前まで足を進める。が、どういう訳か彼は仕留めたはずのゴブリン相手に剣を抜きのど元に突き刺すそれで「ぐぎゃあああ」ゴブリンの悲鳴がこだました。ゴブリンは即死していなかったのだと。
「よかったね、背後から襲われなくて」
「「……」」
私達には言葉が出てこない。もし見逃していればゴブリンは背後からやってきていただろう。
「ミーア、エメリア、ここはもう安全な場所ではない。注意を払い警戒をして敵を確実に殺さなければ待つのは悲惨な運命だけだ」
バーゼルが忠告する。
私達は息を引き取ったゴブリンの醜悪さよりも自分に降りかかるかもしれない恐怖を覚えた。2本の松明を分配して持つことになる。
「はぁはぁ…」「ぜぇぜぇ…」
息が苦しい。呼吸が荒い。冷や汗が止まらない。
何度かゴブリンと戦闘があった。狭い洞窟内では対処できる人数が限られる。隊列は組めず各自で対応するしかない。ミーアはともかく純粋な弓兵であるエメリアは接近戦では対応が難しい。どうすればいい、どうしたらいい、だれもそれに答えてくれない。
ミーアもゴブリン相手に大苦戦でいつも通りには動けない。それはそうだ、機動力を生かすには広い空間と確固たる足場が必要なのだ。狭く起伏があるここではそれは生かせずうまく立ち回れない。経験が足りない。
たかがゴブリン、されどゴブリン、一応仲間が援護してくれるがこんな状態でどうしろと、返答はそれだけ。
思わず持久の水薬に手を伸ばす。飲み終わると大分息がよくなった。でも、渡されている水薬には上限がある。私達はここでまだまだ先があるのに持久の水薬を飲みっぱなしなのに気づく。
ピュアブリングはこちらを振り返り後ろにいる私達に聞く。
「水薬、いくつ飲んだ?」
リーダーとして必要な各自の物資の確認。それだけのはずが私達に答えられなかった。他は1回しか水薬を飲んでいないがミーアとエメリアはもう4回も飲んでいること。それを言えばまず間違いなく自分たちが迂闊であるのかがバレてしまう。
沈黙は事実なり。
ピュアブリングは私たち二人に近づき、
「この馬鹿が!」
手の平で張り飛ばした。
痛みが頬から全身に伝わる。私達は彼を見返す。
「たかが水薬を多めに使ったぐらいで叩くなんて!」
私達はピュアブリングの顔を見ると地獄の鬼よりもっと怖い深淵の殺意を見てしまった。
「その補充を誰がしてくれる。他の仲間か。どこにいるかもわからない使用人か。はたまた自分の足元にあるだろう影か。ここはもう敵の陣地なんだ。必要のない行動をとる馬鹿のせいで物資が足りなくなるだけでなく命の危険まで際限なく増加する。それの排除を自分でできるのか。お前の無駄使いのせいで仲間が失われる危険性を考えろ。その責任はお前達にある。その責任を取れるのか、彼らの屍の前で」
甘えるな。死はもう目前まで迫っている。消耗した物資はもう帰ってこない。その事実が何よりも重いことだと分かるのに少しばかり時間がかかった。
「「……」」
「甘い顔をしていればつけあがるお前らはゴブリンらの慰み者がお似合いだ」
容赦のない言葉。ミーアもエメリアもそれに反論できない。
「ラグリンネ、エトナ、さっさと行くよ」
「「はい」」
私達4人を置いて先に進もうとする3人。明かりが二つに分かれる。神官たちでさえ私達を振り返らなかった。
私達に見切りを付けられた?。それはだめだ。今ここから自分達だけで帰れる自信なんてない、そんな保証など誰もしてくれない。まだゴブリンどもは他にいてこちらを狙っている。それなのに私達だけ置いてきぼりを食らう。そんなことになったらもう壊滅の一歩手前だ。
何としても引き止めないと。私たち二人は必死になってこちらに振り返ってもらう手段を模索する。
さらに言えばこのまま実家に帰っても良好な縁談などやって来ないことだ、それなら危険でも自分の身を立てて相応しい相手を選びたい。その一心である。それはそれでいいが経験値があまりにも足りなさすぎる。
(一回ゴブリンの巣穴にでも放り込まれれば心を改められるか?)
危険な考えが浮かぶ。うん、悪くはないな。現実を思い知らせ苦悩し嫌悪し憎悪し最後に現実は無慈悲であることをたっぷり見せることにしよう。
それで実家に帰ってくれれば好都合だが意外とど根性を見せてくれるかもしれない、その期待があるのかどうかを試すことにした。
二人はソワソワしながら「早く討伐に行こう」という顔をしている。それがお望みなら行くことにしようか。
冒険者ギルドで早速依頼を受ける。ちょうどよくあればいいんだけど。
「いらっしゃいませ。本日の要件はなんでしょうか」
僕はあの二人を引き離すように連れの二人に命じておいてから密かに「この条件でお願いします」職員に伝えた。それで一瞬驚く職員だが僕が黒鉄色のプレートを見せると『そういう事情だから』それで理解したのかすぐさま依頼の受注をしてくれた。
多分、あの二人のことに関しては冒険者ギルドも頭が痛い問題なのだと理解してたのだろう。僕としてはさっさと家に帰れば見たくないものを見ずに済む、それだけ。
でも、ラグリンネとエトナはそれを乗り越えた。それと同じことをもう一度やるだけだ。他の4人には伝えている。
「じゃ、早速行こうか」
「「待ってました」」
さて、場所はここよりちょっと離れた村だ。数時間歩けば届く範囲、そこに向かう。
「早速討伐依頼を進めましょう」「そうしましょう」
血気盛んな二人だが先にやるべきことがあるだろう。まずは村々を歩きつつ各家の状態を見る。どこか損壊してないか、子供が通りそうな隙間はないか、何かが失われてないか、家々を訪ねる。
その後は負傷者が出てないかを確認する。何名か農作業で怪我をしていて薬が欲しい。その要望に応えて回復の水薬を無償で配る。
回復の水薬を配り終えると村長を訪ね最近起こったことなどをよく聞いておく。農作業用の鍬や鎌などが足りずに困っているそうなのでその手の道具をある程度の数融通する。さらに言えば麦が少しばかり足りないと。それにピュアブリングは答え麦を30袋分出す。それに感謝する村長。
2人のお嬢様は、
「こんなことして何になるの?」「状況は依頼から聞いてるでしょ?」
という顔をした。
それをラグリンネとエトナが忠告する。
「冒険者ギルドに来る依頼のかなりの数がこのような農村からなのです。モンスターをただ見かけたというだけですけど実はどこかで巣穴が築かれていた、などという場合もあります。実際に遭遇したのは村人らなのですから彼らから状況を聞くのが一番良いんです」
「まどろっこしくない」
「たしかにねぇ。村人の話をそれぞれ聞いて要望に応えて回復の水薬配ったり物資を融通したりとか、短期的に見れば損だよ。でもね、武勲詩で語られている人々の中の多くがこのような地道な草の根活動から進んでいるよ。その地に住んでいる住民からすれば冒険者なんてのは『外の人』だからだよ。長期的に見れば人々の些細な助けでも要望に応えてくれるなら恩人なんだよね」
「ただ敵を倒せばいいというわけではないという事なのね」
二人はここで住民らの顔と態度を確認する。住民たちは笑顔で冒険者の到来を歓迎していた。
「もし、無用な搾取を行った後パーティがボロボロになってその村に帰ってきたら住民はどうするでしょうか」
答えは一つだけだ。
「冒険者はただ腕っぷしが立つだけじゃ務まりません。このように善行を地道に積み上げていかないと背後の梯子を簡単に取り外されてしまいます」
「そういった連中は長生きできないし横や後ろから容赦なく矢が飛んでくる。それに比べたらこのぐらいの余裕はないとね」
「そういうことですな。お嬢様達は人々から助けを求められる冒険者になりたいのでしょう。彼の姿を覚えておかねばいずれ破滅いたします。それは我々も同じです」
「人々は様々な噂を流しますからねぇ。良くも悪くも。吟遊詩人などが語るものがすべてではありませんが真実の一端を間違いなく含んでいますから」
まず間違いなく。常にこれをやれという訳ではないが現地の住民を敵に回すような言動は控えたほうがいい。それを胸に刻んでおけと。
しばらくするとピュアブリングが戻ってきた。
「ここから向こうのほうでゴブリンたちを見かけたらしい」
さっそくその場に向かう前に各自に回復の水薬などを配るピュアブリング。一通り渡し終えるとその現場に向かうその前に説明がされる。
「この依頼は僕たちで4組目だからね」
「「え?!」」
よんくみめ、ヨンクミメ、え?4組目!頭の中で復唱する。じゃ、前に向かった3組はどうなったんだ。その答えがあまりにも恐ろしくて体が震えはじめる。だけども依頼放棄はできない。全員の顔を見ればどうなったのかが分かった。『壊滅』したんだと。
物語の中での敗者の運命は残酷である。いまそれが自分達になるのかもしれないと。
そうして、巣穴まで向かうことになる間震えが止まらない二人。
「あれがゴブリン」「醜悪」
この二人はゴブリンとは初対面なのだろう。ほらこちらには弓兵がいるんだよ。お仕事の時間だ。
「狙って」
「は、はい」
エメリアは矢を番え弓を引き絞る。いままで鍛錬したことをやればいい、やればいいが、的は生きたゴブリンだ。何か動きがあれば矢は外れるかもしれない。そうなったらゴブリンは間違いなく警戒態勢となるだろう。巣穴から数多く出てくるかもしれない。それがこちらに向かってくる恐怖を思い浮かべる。
目を瞑りたい、でもこの距離から攻撃可能なのは弓兵である私だけだ。目は瞑れない、弓を引く手が重く感じる震えが止まらない。そしてついにその決断を下す。
(当たって)
私はここで初めて神に願った。番えた弓の弦を放す。
バシーン
矢は容赦なく敵の体を射抜いた。それでゴブリンは倒れる。
私達はすぐさま洞窟の前まで足を進める。が、どういう訳か彼は仕留めたはずのゴブリン相手に剣を抜きのど元に突き刺すそれで「ぐぎゃあああ」ゴブリンの悲鳴がこだました。ゴブリンは即死していなかったのだと。
「よかったね、背後から襲われなくて」
「「……」」
私達には言葉が出てこない。もし見逃していればゴブリンは背後からやってきていただろう。
「ミーア、エメリア、ここはもう安全な場所ではない。注意を払い警戒をして敵を確実に殺さなければ待つのは悲惨な運命だけだ」
バーゼルが忠告する。
私達は息を引き取ったゴブリンの醜悪さよりも自分に降りかかるかもしれない恐怖を覚えた。2本の松明を分配して持つことになる。
「はぁはぁ…」「ぜぇぜぇ…」
息が苦しい。呼吸が荒い。冷や汗が止まらない。
何度かゴブリンと戦闘があった。狭い洞窟内では対処できる人数が限られる。隊列は組めず各自で対応するしかない。ミーアはともかく純粋な弓兵であるエメリアは接近戦では対応が難しい。どうすればいい、どうしたらいい、だれもそれに答えてくれない。
ミーアもゴブリン相手に大苦戦でいつも通りには動けない。それはそうだ、機動力を生かすには広い空間と確固たる足場が必要なのだ。狭く起伏があるここではそれは生かせずうまく立ち回れない。経験が足りない。
たかがゴブリン、されどゴブリン、一応仲間が援護してくれるがこんな状態でどうしろと、返答はそれだけ。
思わず持久の水薬に手を伸ばす。飲み終わると大分息がよくなった。でも、渡されている水薬には上限がある。私達はここでまだまだ先があるのに持久の水薬を飲みっぱなしなのに気づく。
ピュアブリングはこちらを振り返り後ろにいる私達に聞く。
「水薬、いくつ飲んだ?」
リーダーとして必要な各自の物資の確認。それだけのはずが私達に答えられなかった。他は1回しか水薬を飲んでいないがミーアとエメリアはもう4回も飲んでいること。それを言えばまず間違いなく自分たちが迂闊であるのかがバレてしまう。
沈黙は事実なり。
ピュアブリングは私たち二人に近づき、
「この馬鹿が!」
手の平で張り飛ばした。
痛みが頬から全身に伝わる。私達は彼を見返す。
「たかが水薬を多めに使ったぐらいで叩くなんて!」
私達はピュアブリングの顔を見ると地獄の鬼よりもっと怖い深淵の殺意を見てしまった。
「その補充を誰がしてくれる。他の仲間か。どこにいるかもわからない使用人か。はたまた自分の足元にあるだろう影か。ここはもう敵の陣地なんだ。必要のない行動をとる馬鹿のせいで物資が足りなくなるだけでなく命の危険まで際限なく増加する。それの排除を自分でできるのか。お前の無駄使いのせいで仲間が失われる危険性を考えろ。その責任はお前達にある。その責任を取れるのか、彼らの屍の前で」
甘えるな。死はもう目前まで迫っている。消耗した物資はもう帰ってこない。その事実が何よりも重いことだと分かるのに少しばかり時間がかかった。
「「……」」
「甘い顔をしていればつけあがるお前らはゴブリンらの慰み者がお似合いだ」
容赦のない言葉。ミーアもエメリアもそれに反論できない。
「ラグリンネ、エトナ、さっさと行くよ」
「「はい」」
私達4人を置いて先に進もうとする3人。明かりが二つに分かれる。神官たちでさえ私達を振り返らなかった。
私達に見切りを付けられた?。それはだめだ。今ここから自分達だけで帰れる自信なんてない、そんな保証など誰もしてくれない。まだゴブリンどもは他にいてこちらを狙っている。それなのに私達だけ置いてきぼりを食らう。そんなことになったらもう壊滅の一歩手前だ。
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