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短編 汚職神官の末路

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「ふん。今日の寄進お布施の集まりも芳しくないな」

私は正教会から派遣されている司祭だ、しかるべき教養を積み実績もある、がそれも金で買ったものだ。クラスチェンジすらまだ行われていない歯がゆさに歯軋りをする。

教会には神官らを養うためにも金が必要なのだ。人々は奇跡を願う、だからこそ我らが金を管理するのだ。

「しかしながら、広場で演説をしている神官の人気は高くて」

どうにもこうにもこちらに来る人間が少ないと。それは貴様らの怠慢であろうが。まったくもって忌々しいことこの上ない。卑しい身分の出自の神官が自分よりも人々の心を集めていることが絶対に許せないのだ。

あろうことか奴らは直接乗り込んできた。

「寄進やお布施は弾みますよ」

こんな子ども程度が出せるはずはないが言うだけ言ってみるか。その総額は60万ユクール。上級貴族でも出せない金額だ。こいつらに先にクラスチェンジさせられては私の立場は崩壊してしまう。ようやく願っていた教会を預かるという地位が消し飛ぶ。

だからこそ有り得ない条件を提示するのだ。慌てる連中。気分がいいな。ただ、みすぼらしい少年だけは虚ろな目でこちらを見ていたが私はそれに気が付かなかった。

その後領主様に屋敷に呼ばれた。

「これはこれは領主様。直々に私を招くとは光栄の極み。いよいよ我らの神殿の建造に前向きになられたのですな」

ここに呼ばれた以上その話しかないだろう。いよいよ私の夢がかなう、そう確信した瞬間。

「貴殿らに対する計画と予算の申請および計画は廃止とし現教会兼孤児院にしかるべき援助を決定した旨を伝える。それとともに貴殿の役職はすべて剥奪する」

「は?」

私は突然のことに意味不明だった。すぐさま頭に血が上る。

「いったいこれはどういうことですか!あなたは教会の権威を踏みにじるのですか」

「自分は教会の威信や権威を否定はしてない、してないが、助けるべき人を助けようともしない教会の腐敗と堕落については聞いている。お布施を払ったのにも関わらず奇跡をおこなわない神官らに対して信仰心が欠けていると思うがね」

「ぐっ。彼らには信心が足りませんから効果が薄いのです」

「だからといって金だけをとる様は守銭奴というべきではなかろうか」

明らかに教会の腐敗と堕落を見抜いている。これは面倒な相手だと感じてしまう。

「『尊い心臓』から紹介された彼は実に素晴らしい方だったよ」

キマイラの毒を受けた跡取りを瞬時に直すほどの治療薬を用意してくれた。それに対しての見返りはささやかな物であり私欲の無い善良でやるべきことをやってくれる方だと手放しで称賛した。それを聞いた司祭は絶句する。

(馬鹿な。キマイラの毒を打ち消すほどの治療薬など存在するはずがない。それを作れるのは教会の最高幹部ぐらいだ)

それでもかなりの強運を連続で引かなくてはならないだろう。昨日の今日で用意したと。

「貴殿の考えでは孤児院の経営はせずひたすら寄進お布施集めにするそうだね。今現在孤児たちは右肩上がりで増えている。孤児院経営は今後も重要な要素だ。それを切り捨てる貴殿には賛同できない」

「領主様はよからぬ輩に甘い言葉を吹き込まれたのですね。我ら教会こそが唯一無二の正義なのです」

力説するが領主様の反応は芳しくない。

「貴殿は神殿を建築するためにどれほどの労力を我らが領地から奪うつもりだね。予算は馬鹿げているし労働力も無理矢理招集、こんなことをすれば領地の生産力はがた落ちだ。人心を失うだけではなく反乱の危険性もある。貴殿の野心のために領地を乱すことはできない」

「そのようなことは」

「貴殿の態度も評判に聞いている。エゴと無駄なプライドの塊だそうだな。自分を崇めるためだけに民に苦労を強いるとは汚職神官でしかない」

さっさとこの領地から出て行けと明言される。

「我ら教会を敵に回すと後が怖いですぞ」

最後のプライドを賭けて反論するが。

「貴殿に頼らずとも領地は回るし後任も当てがある」

お前は無用だ。宣言される。

「クッ。精々我々への懺悔の言葉を唱えておけ」

そうして、司祭は出て行った。出て行ったあと領主は冷淡な表情をする。

「馬鹿者が。我らが根拠もなくそんなことを言うと思っておったのか」

事前に教会への根回しをしていた領主はあの汚職神官ぶりの行動を逐一報告していた。さすがの教会側も「人選を間違えた」正式に謝罪しライザという女の子のクラスチェンジと正式な司祭として教会の管理の任命を許可した。

そうして、汚職神官は今まで通りに振舞おうとしたが今まで座っていた椅子、そこには別の誰かが存在した。

「こっちの予算帳簿の再審査を、孤児たちに配る食料の買い出しを、あとは」

とある女が仮の教会で指揮をとっていた。以前から私に反発心を抱いていた女だった。その女は当然のごとく私が座っていた席に座り指示を出している。

「貴様。誰に話もせずその席に座っているのだ!」

その女は怪訝そうな顔をして言い放った。

「司祭兼支部長殿、いえ元が付きますね。あなたの教会における権限はすべて白紙とさせ一番下っ端の神官からやり直してもらいます。ええ、すでに上のほうから通達が来ております」

あなたはやりすぎました。ただその一言ですべてが崩壊した。

「な、なんだと」

「あなたのご実家の商会。以前から経営が厳しかったようで大口取引を結ぼうとしてしこたま買い漁りましたが失敗したようです。だから、再度やり直すために教会への援助を打ち切りました」

実家が没落した…だと?それじゃもう自分はただの神官で一番下っ端でドブさらいや汚れ仕事ばかりを押し付けられるのか。

そんなのは嫌だ。せっかく、せっかく実家の支援で神官になったのに、もう少しで教会を預かる立場になるのに、これではあんまりだ。

「ああ、それと」

次に教会を預かる人物がほぼ決まっているそうだ。もう私には関係のない話だろうが聞いておけと。

「領主様の口添えもあり教会兼孤児院出身で前任者の孫であるライザ・パニーニという方です。仲間とともにダンジョンに潜り実力でマナストーンを手に入れた強者だそうで、期待できますね。こういう人材をこれからの教会は望んでいたんですよ」

あのライザがクラスチェンジしここでの教会活動を統括する、そんな現実は認められなかった。

「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ。あんな女風情にマナストーンなど!」

「事実です。彼女のことは以前から評判にあがっていたのでこれで当面は後継者については安泰です。私も実に誇らしいですよ。彼女の片腕として今後とも教会の信仰力の上昇に手助けしなさいと、直々に命令が下りましたから」

役職手当が付く上出世しご満悦の表情の女神官。

「貴様ら。私から恩を受けながら裏切るのか」

「裏切る…ですか。先に裏切ったのはそちらではありませんか。色々と悪どく手段を選ばずに私腹を肥やしてましたね。その他色々な貴金属やら嗜好品やらを教会名義で買い込んだくせに。最後に聖堂を使いたいという真面目な冒険者に法外な値段を押し付けた」

そして明言される。もう十分ではありませんかと。

「追い出しなさい。彼には奉仕の精神を嫌というほど叩き込みます」

他の神官が両脇から彼を担ぐ。

「小娘ごときに懐柔された貴様らには天罰が下るぞ!」

汚職神官は絶叫しながら外にたたき出された。

「さて、ライザ様とその仲間たちのクラスチェンジのために聖堂の準備を整えておきませんとね」

女神官は今後自分の主となる方への称賛とともに冷静に自分の仕事をこなすことにした。
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