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ダンジョンへ向かう前に

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「さて、パーティを組むんだけど」

ライザラグリンネエトナ、3人を連れてダンジョンまで向かう準備の最中、彼女らに対して絶対に聞いておくべきことがある。

「実戦経験は?」

さすがにこれは聞いておかないとならない。パーティにおける役割は『前衛中英後衛』と3つだけだがその中身は役割ごとに明確な細分化されている。前衛でも盾で守る壁役は「フロント・ガード」そう呼ぶし攻撃役ならば「フロント・アタッカー」になる。

もっと細分化すると前衛にも中央に位置し両方に対して対応する役を「フロント・センター」などと呼ぶし両脇は「サイド・トップ」などとも呼ばれる

装備する武器や戦術的なパーティ編成ではもっと細かく緻密に組まれ大人数でのパーティの役割とその明確な役割もまた様々だ。単純に「弓がメインだから後ろで」とか「槍装備だから前で」などと単純なことではないのだ。

ここまではあくまでパーティのここにおける役割の説明であるがそれと同じくらい重要な要素がある。パーティ内における『序列付け』だ。

序列付けとは「そのパーティにおける実力と貢献度の信頼性」そのものであり役割の後に「俺が1番だ」「お前は3番だ」などとか数字で言われることが多い。要するに数字の序列が小さいほど上ということだ。大体ファーストナンバーがリーダーを務めている。

一番強いやつが一番になれるんじゃないか?って思うかもしれないけどよく考えてほしい。パーティの共同で使うべき資金を色欲に負けて使い込む馬鹿や犯罪行為を繰り返す輩をリーダーとか言えないでしょ。パーティにおける戦力の維持や物資の補充の必要性などはその運営するリーダーが決めるべきことだ。下っ端には務まらない。

だから、大なり小なりそのパーティにおける役割とは別に誰が一番決定権を持つ人物かは絶対に決めておくべき必要があるのだ。

「各自、これはって言えるほど強い相手と戦った経験は」

「外にうろついてたゴブリン退治程度なら」「「私たちも同じく」」

ま、神官系クラスなんだからそんなところだろう。

「僕は見ての通り剣を振う戦士だけどある程度の魔術も使える。で、だれがこのパーティで一番を務めるかについて決めておくべきなんだけど」

やってみる気、あるか?意地悪な質問をする。

信頼している神官様のただ事ならぬ対応から相当な実力者であり信頼もあるということは3人に確認済みだ。

「僕がやってもいいんだけど正直君らに対して何の感情もない僕からすれば足早に脱落するであろう3人も連れてダンジョンに挑むのは無謀の極みと言えるだろうね。でも、各々の目的を達成するにはダンジョン攻略が必須。言っとくけど僕の後ろでチマチマとしたことをされても迷惑だし不利を察知し逃げ出したら責任が負えないから」

各自地獄に入り込む覚悟はあるか。それを問う。

『……』

何が出てくるかわからないダンジョンに足を踏み入れるとはそういうことだ。途中で力尽き倒れる冒険者らは数知れず存在している。自分らもその領域に足を踏み入れる。

仲間を見捨てず支え頼り生きて帰る。それを達成するためには全員が一つにならなければならない。それを誓えるか。

「ぶっちゃけマナストーンがあるかどうかも分からない危険な場所に若い女の子を放り込むという状況からして問題なんだよね。願いをかなえるかどうかは別としてさ。どうせ世界の平和なんてどこかの勇者様が守ってくれるわけだし」

『あなたは、勇者ではないのですか?』

3人の気弱な返答。それに僕は明言する

「ちがうね。勇者なんて御大層なものでもないしただただ生き残るのに必死な少年だよ。生き残り平和に生きられればいいだけの気弱な人間でしかない。望むのはささやかな幸せだけ。でもね」

言葉を区切る。でも、変えられない信念もある

「そのささやかな幸せを壊すというなら誰であれ武器を手に取り戦うよ。国王だろうが勇者だろうが教会だろうが魔王だろうが、打ち倒す」

容赦なく、ね。

「この言葉を『世の中を知らない子供風情が』って笑ってもいいよ。どうせ生きていくだけならどうとでもなるんだから」

それを踏まえてもなお付いてこれるか。

「まぁ、ダンジョンまでしばらく歩かないとならないしまだ決定を促すまで時間がある」

自分が出来ること、したいこと、叶えたいこと。そのチャンスに手を伸ばす機会は多くないこと。それらを考えておけと。

「というか、君らお金持ってないでしょ」

この3人の環境から察するにその日の食事すら厳しいものだろう。明日の朝までにこちらで全部準備しておくからささやかながらやりたいことをやってこい。って理由を付けて多少のお金を全員分渡して一度解散することにした。

さて、食料やらを準備するために駆けずり回りますか。

翌日

「あ、来たんだね。来ちゃったんだ。ふーん、こんな子供の戯言を信じたんだぁ」

煽る言葉を使う。だが、彼女らの決意は固いものだった。

『…正直申しあげますが君の言っていることが本当なのか嘘なのか私たちには判断できません。判断できませんが…私たちに残されている選択肢も時間さえも少ないことは事実。不幸に会いたくない、死にたくないという気持ちは収まりませんが』

それでも3人はここに揃ったわけだ。自らの願いを叶える唯一の選択肢として。

「お金はどう使った」

『豪勢な食事やら遊びやら色々と誘惑がありましたから惜しみなく使わせてもらいました』

よし、これで思い残すことなく挑めるわけだ。

「じゃ、さっさとダンジョンに行くよ」

「? テントやら食料やらはどこに」

《収納》に全部放り込んでるから手荷物一つで何の問題もないこと説明する。

『《収納》って国が術を使える者らをすべて管理し一生困らないぐらい生活できるんですけど』

驚きと困惑を浮かべる3人だが時間が惜しい。さっさと次に移るよ。

「これを両足に張って」

「なんですかこのお札は」

白い紙に何か文字を書いただけのお札だがしかるべき術者が書けば明確な効果を示す。言われるがまま足に張る3人。

「これで馬以上に速度を出せるし障害物も気にしなくていいから」

『はいぃ!?』

途中逸れないように彼女らの両腕を見えない鎖で固定し強引に繋いでしまい引っ張る。人間種が出せるはずもない速度でダンジョンまで直行する。

「日暮れ前に到着か。まぁこんなもんか」

『ぜぇぜぇ…はぁはぁ…』

3人は「やっと止まってくれた」その一念だけだった。そりゃ普通の人が限界を超えて走らされたらこうなるか。とりあえず彼女らを無視してコテージの設営をする

「《放出》《展開》《建築》」

3人はもうバテバテなのでこちらで勝手にコテージを設営する。え?一つだと足りないだろうって、安心して。これも闇商人から仕入れた特注品だから。

設営が終わり3人はヘロヘロの状態のまま中に入ると。

「なにこれ?」「うそぉ」「しんじられない」

ちょっと大きめのコテージのようだが中の設備はとても充実しており10数人は座れる椅子に立派なキッチンや食材棚など外観からは想像できないほど中身は広い。

「2階がリフレッシュルーム、3階がベッドルームになってるから各自休息しておいて。何か食いたければ食材棚にパンやらチーズやら蜂蜜酒やらがあるから」

3人は各自欲求を満たすために行動を開始する。とにかく腹が減っていたようで棚のものを片っ端から食う。その後あーだこーだ、騒ぎ立てた後。コテージの中身を物色し湯浴びと風呂に入れると分かると即座に全裸になって汗と垢を洗い流し用意されていた簡素で真新しい服に着替えるとベッドで寝てしまう。

「姦しいねぇ」

女とはこういうものなのか。あそこではこんなことは教えてはくれなかった。みんな子供だったということもあるし生き残るのが最優先だったから。とりあえず脱ぎ捨てられた衣服やらはバッチィ感じがしたので全部洗剤で洗うことにした。その日はこれで終了だ。
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