上 下
11 / 13
極寒の大陸編

事実を伝えるしかない

しおりを挟む
生命を冒涜するような行いをしていた連中は一人残らず皆殺し、その場所も原型を保てないほどに破壊し終えて帰還する。

両族長に全てを報告する。二人とも予想はしていたがそこまで酷い現実が存在したことに落胆したようだ。

「どう伝えましょうか」

この後の問題、同胞たちは一人でも救いたいという連中への説明だ。それは絶対にしておかなくてはならない。

「それは我らが全力で行う、いやそうしなければならないだろう」

「そうじゃな、あれは同胞でも何でもない。ただの邪悪な存在だ」

僕の力は一切借りず自分達だけで行う決意のようだ。下手に僕が口を出すと問題がややこしくなるための配慮だろう。僕はそれに何も言わなかった。

その後両部族長は全員を集めて同胞たちの非道な行いを嘘偽りなく伝える。なぜ我らに過酷な因果の戒めがあるのか、なぜここまで残酷に追いつめられているのか、それは生命の禁忌に触れてしまい怒りを買ったからだと説明する。

最初こそ動揺が起こるが先の暴君の印象が強い彼らはそれすら上回る非道さを説明されてしまい絶望するしかなかった。

『同胞だから助け合うべきだ』

そんなものは見た目だけの言葉だ。実際にはこれだ。

どこかで同じようなことが行われているかもしれない可能性を示唆され自分らはまだ幸運だったのだと思い知ることになる。

同胞救出派は完全に沈黙し自力での繁栄に邁進するよう考えを改めるしかなかった。

『御使い様、は、その、今回の、ことには』

「それ以上は何も言うな。ここにおられることだけが現実だ」

「もう二度とその話を口に出すな。さもなくば居なくなられると思え」

その言葉でヴァンパイア族もダークエルフ族もこんな非道な行いをしていたにもかかわらずここに留まってくれている御使い様の御心を察してしまった。

『あれだけ同胞たちが罪深いことをしたのに見放さなかった』

普通なら関係を断つだろう、それなのに見捨てずにいてくれている。

「御使い様は常に相手と互角で対等な立場を守る御方、我らと彼らは別人、善人には善人として接し悪人には悪人として接する、ただそれだけだ」

「そうじゃな。相手が悪だったからこそこちらも悪になった。同情したわけでも慈悲をかけたわけでもなく邪悪で秩序を乱していたから消し去っただけ。そこは誤解するな」

自分達と先の連中とは接点がなくこちら側と相手側の状況に合わせただけ、その意味でなら自分らにはまだ手を貸しても良いという寛大な心なのだ。

自分らが勝手に行動してたら大惨事になっていただろう。そこに待っていたのはコロニーの崩壊だ。自分らは実験材料になっていたのかもしれない。

その全てが自分らの思い描く姿と違う部分もあるが行動は間違いなく正しい。増々崇拝の念が強くなった。

これでコロニーの意思統一は完全に終わり通常通りの行動を行えるようになる。問題の対処で少し時間がかかったが食料調達はしっかりと行ってくれた。

「はーい、今日の食料の配給だよ」

『ありがとうございます御使い様!』

皆感謝の言葉を言う。

今回からは成長した木材を加工し短剣の形にしたものをいくつか使う。『刃』のサインを刻んでいるためよく切れる。これで大分作業が捗るだろう。もちろん、武器として使うことは許してないので認められた場合を除いて厳重に保管しておく。

それを使いモンスターの死体を解体し始める。

ガツガツザクザク、と。刃物をあるとやはり効率が違うね。以前よりかは作業が早くなる。解体し終え保存用の分を除いて魚などと過熱し食事にする。

「さ、食べよう」

『い、いただき、ます』

先の事件以後自分らの待遇が恵まれていることをよく理解したの生活の仕方が少し変わった。作業も生き残るため食い物もただただ甘えるのではなくなり何がしか責任感があるように感じる。

自己鍛錬もより熱を持ったものへと変わっていた。良い傾向だ。

その後、より良い環境に進めても問題ないと判断した僕は建物の増加と防衛設備の充実を図る。

「『水』『雪』『氷』「岩」『堅』『築』『建』のサインよ、その力を示せ」

さらに建物を増加し生命の種子も増やし食料の増加や環境を少しばかり向上させた。あと、周りの意識も変化しつつあった。

「御使い様、ご機嫌はどうでしょうか」

「んー、悪くはないね」

向こうの方から積極的に話す頻度が増えて来ていた。以前は遠巻きに眺めたりしてたけど良い関係を構築しようと彼らなりに考えるようになっていた。対等になれる僕には全て分かってしまうが打算とはいえそれを別に拒否する理由はない。

愚かな強者のいいなりにはならず自力で出来ることを真剣に模索し始めていた。

食料を調達しつつ環境を改善しフェリスゥマグナとインティライミの訓練も行う。

「なるほど。色の密度の隙間を潰すのではなく意図的に罠に追い込む方法を考えたのたんだね。でも、まだまだ甘いよ」

「くうっ、こちらの手の中はお見通しというわけですわね!」

まだフェリスゥマグナは色の密度を操作するのは難しいようで逆にその隙間にトラップを仕掛けるように考えを変えたようだ。隙間に迂闊に飛び込むと火の刃でズタズタにされるように。一面が赤く染まる場所では同じ色は隠される性質を理解し行動を抑止しようとする。

僕は相手と互角になれるので相手が出来ることは全てできる。あえて同じ土俵に立ちあえて罠にもかかり予想外の状況をに持ち込む。

さすがの彼女も傷を負う覚悟で接近してくるとは予想外のことだろう、接近戦となる。

前回の反省点を踏まえて炎の大剣を振り回す彼女。当たれば重傷だが当たらなければ問題ない、そこを覚悟でギリギリを責める。こちらも炎の大剣を生み出しぶつけ合う。

「ほら、まだまだ想定が甘いよ」

「くうっ!」

接近戦では威力と手数、何より駆け引きが必要になってくる。最初こそ互角だったが手札を確実に失いやがてその場しのぎのカードに手を出す。当然負けてしまうので防戦一方になる。

やがてそのカードも尽きてしまい降参した。

「ほう、槍の着弾点を一時的に沼のように体が沈み込むようにしたしたんだね。良い考えだよ、相手がそれにかかればね」

「やはりこちらの能力を隠せませんか。ならば!」

インティライミは前回と同じく影の槍を乱射しながら攻撃してくる。影の槍は着弾すると足場を一時的に沼のように変える能力を有しそこには何があるのか分からない。徐々に行動範囲が制限されるがこちらも同じ能力で対抗する。影の槍を乱射し同じようにしていく。

足場を沼のように変える影の槍は確かに協力だが効果時間が短くすべての面を制圧できない。僕はわずかに残る地面を探して飛び込むが彼女はそこへ飛び込む余裕がない。徐々に距離を詰めていき接近戦に持ち込む。

「ほら、その場しのぎのカードではどうしようもないよ」

「ふぁっ!」

前回と同じく最初こそ互角だが予想外の手を使いそれを続けることで劣勢へと追い込まれていく。しばらくの戦闘ののち降参してしまった。

「二人とも。発想は良かったし手探りながらも努力の成果は評価できる。あとは、もうちょっと接近戦への対策だね」

「そうですわね。やはりまだまだ拙すぎてどうしようもありませんわ」

「距離が離れていれば圧倒できるんですけど距離を詰められればやはり未熟ですね」

こうなったら二人の意識を変えてもらうしかないか。

「接近戦で圧倒的に不利なら接近させずに敵を殲滅する方法に切り替えよう」

「あっ、そうか。距離を詰められる前に敵を倒せば弱点なんてないのですから」

「無いものを無理に伸ばそうとしても先が無い。だったら伸びるのものをとことん伸ばせば」

僕にはもうこの二人には接近戦での才能が無いことがよく分かる。だから接近させずに敵を倒す手段を増やす方針に切り替えることにしたのだ。そちらの方がこの二人に適性があるしまだまだ伸びる。そういう能力なのだ。出来ない事をあれやこれや努力するだけ時間の無駄だ。

「次からは接近戦には絶対持ち込まない代わりに自分らの得意な距離で競り勝つ方法を一緒に鍛錬しよう」

「「はいっ」」

二人はやる気に満ち溢れた返事をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?

夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。 しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。 ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。 次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。 アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。 彼らの珍道中はどうなるのやら……。 *小説家になろうでも投稿しております。 *タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鬼切りの刀に憑かれた逢神は鬼姫と一緒にいる

ぽとりひょん
ファンタジー
逢神も血筋は鬼切の刀に憑りつかれている、たけるも例外ではなかったが鬼姫鈴鹿が一緒にいることになる。 たけると鈴鹿は今日も鬼を切り続ける。

処理中です...