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「はぁー、疲れた」

ガバッと机に顔を伏せる。今は昼休み。
朝、あれから荷物をまとめると、バイクでいったん時雨の家に行き荷物を置いて、学校に送ってもらった。朝、ケンさんに本当にいいのかを聞こうとしたが、「ほらほら、学校に間に合わないぞ。また後でな」とにっこり笑って追い出された。
それから時雨のバイクに乗って、チャイムと同時に学校についたのだった。



お昼かぁ……お腹空いてないんだよな……ってか、今朝のことが気になってそれどころじゃない。
それは『コイアイ』のストーリーのことだ。
俺と時雨が一緒に住むなんて話あったか?俺はモブ扱いでゲームには出てこなかったはず……。なのに時雨の側にいていいのか?このままだと時雨とのハッピーエンドルートで終わらないんじゃ……。主人公が時雨を選ばなかった時はどうなるんだっけ?思い出せない……。
急に不安になり、胃がキリキリと痛む。
痛い……。

「瀬名垣さん、どこか悪いんッスか?」

聞きなれない声に顔を上げると、クラスメイトの不良君に敬語もどきで話しかけられた。名前は……知らない。

「えっと……ごめん。誰だっけ?」

「あっ、俺、『クレナイ』の馬場芽乃(ばばめの)っていいます」

「『クレナイ』……あー、もしかして時雨に頼まれたりした?」

「いいえ!あの、俺、この間、『SEA』いて、瀬名垣さんを見て……」

「え"っ……あそこに……!!」

この間の時雨とのやり取りを思い出す。膝にのせられたよな……それを見られて……。
うわぁ!クラスメイトに見られていたなんて、恥ずかしすぎるわ!!
両手で顔を覆ってバタバタと両足を動かしている俺に馬場君は慌ててフォローしてくれた。

「大丈夫っす!皆、総長の豹変にビックリして、瀬名垣さんの印象それほど残ってないッス!だから大丈夫ッス。きっと、皆も覚えてないッスよ!可愛いくてエロっぽかったとか……きっと……たぶん……」

馬場君の目がめっちゃ泳いでいた。バッチリ覚えてるやん!

「うがぁぁぁ!!」

「……すみません、瀬名垣さん」

「……いや、フォローありがと。あー、馬場君、俺のことはミツとかミツルでいいよ」

「えっ、いやーそれは……」

「だめ?」

首を傾げ馬場君の目をじっと見つめると、うっと顔を赤くさせ、手の甲で口許を隠した。
えっ、俺、平凡だよ。赤くなる意味がわからない……あっ、もしかして、あの時の時雨の破廉恥なことを思い出した?きっとそうだ。ごめんよ、馬場君!時雨は歩く18禁なんだ!どうしようもないんだよ!と心の中で思いながらも、自分の意思は曲げない。

「馬場君、俺もメノって呼ぶから、ミツって呼んで?」

「……じゃぁ、ミツさんで」

「えー、じゃぁ俺もメノさんて呼ぶよ」

「うっ、あー……ミツ」

めっちゃ顔を赤くするメノ。かわいいな!




話してみるとメノはメッチャいい奴だった。
金髪でピアスや指輪をじゃらじゃらと着けた、見たまんまの不良君だけど、気配りが出来る超いい子。
寒くないッスか?から始まり、俺が話さなくても何かと笑顔で話題を振ってくれる。なので、心地いい。
さらに、俺が昼御飯は購買とか食堂にいくのが面倒だから、いつもカロリーの名のついたお菓子だと知ると、「それじゃぁ、体に悪いッス!」と自分のお昼ご飯であろう、パンやおにぎりを分けてくれた。4個ほど。メノの前にも4個ある……あれ?合計8個?多くないか?

「いつもそのぐらい食べてるの?」

「昼に4個食べて、残りはおやつッス!」

にへっと笑って返ってきた。
喧嘩するからお腹すくんだね、きっと。うんうん。
さて、現実に戻ろう。お昼ごはんをもらったのはいいのだが、こんなには食べれない。

「えっと、多いからおにぎりを一つもらうよ。お礼にこれ食べて」

「ありがとうッス!」

カロリーのお菓子を渡すとメノは嬉しそうに食べ始めた。

「……」

メノが笑った時、八重歯がチラリと見え、耳と尻尾が見えた。ヤバ、ワンコみたいでかわいい。






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