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番外編

城編 11

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リックスとサザンはジド目でバルトを見ていたが、深いため息をついた。

「謝罪は受け取りました。ただし今度同じことをしたら……わかっていますよね?」

「……もちろんだ」

若干ばつが悪そうな顔のバルト。

「本当にわかってるのか?」

「……わかっている」

ぶっきらぼうのバルト。

「バルは俺との約束は守るから大丈夫だよね」

「もちろんだ!」

いい笑顔のバルト。

人によって態度や表情が変わるって大人としてどうよ……と思いつつも、仕方ないなぁと笑ってバルトを許してしまうのは俺の悪い癖だ。
バルトが何しても、例え悪に堕ちても俺は許してしまうんだろうな。まぁ、最愛な人だから……と言うのもあるが、俺はバルトの側にいられればなんだっていい。

「あー、ちょっといいか?おーい」

思いにふけっているとサザンが俺の前で手を振っていた。

「あっ、ゴメン。何?」

「ジン殿下がジンだと言うことはわかったが、召喚されてうんぬんってのはどういうことだ?」

「んー、話せば長くなるけど……聞く?」

「「はい、お願いします」」

2人が頷いたので、俺も答えるように頷く。

「俺が……」

「少しお待ちください」

「うわあっ!」

スッと気配なく現れたのは俺の従者ヤミ。一体いつの間にいたのか……。

「こちらにサインを」

あっ、あの契約魔法の書類だ。

「ヤミ、別に契約魔法はいらないよ。俺は2人を契約で縛りたく……」

「ジン」

俺の言葉を遮ったのは、意外にもバルトだった。

「騎士になる前にした契約魔法は覚えているか?」

「えっ?」

突然のバルトの質問に瞬きした後思い出す。
騎士になる前の契約魔法……そう言えば、した気がする。アーガンが王になって契約魔法が取り入れられたんだっけ。色々あったから……。
城にいる全ての者は国に忠誠を。国王・王族や騎士、貴族や使用人もだ。例外はない。もちろん俺もこの間契約した。
契約魔法には1・2・3のランクがある。
1は俺も契約した軽いもので、違反した場合、額に✕マークが表れる。
2は嘘をつけばその場で気絶し、王に絶対服従。
3は国を裏切った時点で体に毒が回り死に至る。
そして、騎士だけは契約魔法のランクを自由に選べるようになっている。
王に誓う契約魔法。絶対、国を裏切らないという己自身への誓いでもある。
ランクは選べるが、今まで騎士になった者達は誰一人して3以外を選ぶ者はいなかった。

「ん、覚えてる……」

「なら、わかるだろ?」

バルトの言葉に頷きかけるが、ぐっと留まる。
だって、ここで頷いたら2人は……。
俯き唇を噛み締め押し黙る俺の手を、跪いたサザンとリックスが優しく包んだ。
顔を上げるとサザンとリックスが、俺を真っ直ぐ見つめていた。

「ジン殿下。国への忠誠は騎士の誇り。騎士にとって何より国を守るのは絶対だ。王は国を守る者、国を守る王は我ら騎士が守るべき尊いお方。もし、国や王を裏切るようなことがあれば、それはもはや騎士ではない」

「己の意思以外の場合もそうです。自白剤や精神魔法で操られ、国や王を裏切るような行為があれば、我々騎士は迷いなく死を選びます」

……そう、だった。騎士という者は……。

「私達は今、ジン殿下の騎士です。貴方に仕え、守ることが誉れなのです」

「騎士であったジン殿下には、俺らのこの気持ちわかってもらえるかと」

リックスとサザンが期待を込めた眼差しで俺を見ている。

「うぅ……」

はっきり言って、わかるようで……わからない!
おぃ!っといわれるかもしれないが、俺は元々騎士に憧れて入ったわけではないから。でも、そんな眼差しで、騎士の誇りなんて言われたら頷くしかないじゃないか……。

「わかった……お願い、します」

2人に頭を下げると、サザンとリックスが握っていた俺の手に力を込める。

「おやめください!私達に頭を下げるなど!」

「そうです!俺達は自分の意思で契約したいんです!」

「それでも……お礼はさせて。サザにぃ、リックにぃ、ありがとう」

もう一度頭を下げようとすると、前にいたサザンとリックスからギュッと抱きつかれた。

「ジン、こちらこそありがとう」

「ありがとうな、ジン」

「ん」

3人して抱き合っていると、ぐいっと横にいたバルトから引っ張られ、強く抱き締められた。

「触るな」

「……はぁ……バルト。相変わらず独占力が強すぎです」

「お前いつかジンに呆れられるぞ」

「ジンは……」

「ストップ。御託はいいからさっさとサインしろ」

ヤミが背後にゴゴゴという文字が出てきそうなぐらい、不気味に笑っている。

「あっ、はい」

「すぐ、サインします」

サザンとリックスがサインし終わると、皆をまずソファーに座らせる。座ったと同時にヤミがお茶と軽食をインベントリーから出してくれた。

「ジン殿下、お食事がまだでしたので、よろしければ」

「ありがとう」

目の前には、小さなクッキーと小さなサンドイッチ。
このクッキーとサンドイッチ、どこかで見たことがある気がする……。
手を伸ばしクッキーを食べると、数回噛んだだけで口の中で溶けていった。

「……これ」

サンドイッチにも手を伸ばし、食べる。
バター風味で卵がしっとりとした卵サンドと、ふわりと苺の甘い香りを裏切らない丁度よい甘さのイチゴサンド。
懐かしい味……そうだ……昔、眠れないときにイーダが夜食にと持ってきてくれた味だ。でも、どうしてヤミが?

「ジン?どうした?」

バルトの声で我に返り、何でもないと首を振る。

「ん、じゃぁ話すね」

俺はサザンとリックスに、この世界に来た経緯を話した。これからのこと、そして、前世のジンの生まれのことも……。
長い話しだったろうに、サザンとリックスはただ黙って俺の話を聞いてくれた。

「で、以上です。色々終わるまでご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願い……」

頭を下げようとした瞬間、ヤミの手が延びてきて俺 の額へ。下げようとした頭が止まる。

「ジン殿下、王族が簡単に頭を下げてはなりません」

「……ん、ごめ……」

癖で頭を下げそうになるのをヤミがまた止める。

「……ヤミ、ありがとう」

「ふふ、本当、ジン殿下は変わっていませんね」

「えっ?」

どういうこと?変わってない?
意味がわからず首を傾げていると、ヤミが目を細め優しく笑いながら答えてくれた。

「私は昔、イーダの影でしたので、ジン殿下とは何度もお会いしているのですよ」

昔?イーダの影?

「どういうこと?」

どうやらヤミは変化魔法が得意で、俺がアークに拾われた時から、たまにイーダに変身して俺と接していたらしい。
あっ!さっきのクッキーとサンド!

「もしかして、夜食に軽食を持ってきてくれた?」

「っ!はい、そうです」

「やっぱり!俺、あれ好きなんだ。ヤミ、美味しいクッキーとサンドイッチありがとう」

「……ありがたき幸せ」

うっすらと涙目で、ふわりと嬉しそうに笑うヤミに、俺の胸が温かくなり一緒に笑った。






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