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しおりを挟む「これ、本当に大丈夫?」
俺は姿鏡でベルが魔法で作った服を見ている。
この服どっちかと言うと女性用だよな?
手を広げて左右に揺らしながら服を見る。そんな俺にベルはいい笑顔で答えた。
『大丈夫よ。とっても綺麗だわ。ねぇ、フウマ』
『……』
『ちょっと、フウマ!』
バシッと口をポカンと開けたフウマの頭を容赦なく叩くベル。怖い。
『はっ!すまん。ジンがあまりにもヤバかったから』
「ヤバい?」
『だってそうだろ!少年から青年になったジンと、この服の組み合わせ!』
ビシッと俺を差すフウマにもう一度自分の格好を改めて見てみる。
黒のタートルネックの半分の服、いわゆるモック・タートルネックといわれる服の上に、いつもベルが着ているような生地の薄い和服を肩まで落とし、下半身はカンフーチャイナ服のような5分丈のスパッツに前垂れの姿。更にベルに髪をアップにセットしてもらい、頭に蝶々の簪が刺さっている。
何がヤバいんだろうか?
『色気ただ漏れの……』
フウマが最後まで言い終わる前に、ベルが黒笑みを浮かべ、俺に向かって指をパチンと鳴らした。
パチンと音と同時に俺の部屋にあるベッドの上に飛ばされた。宙に浮いている中、部屋の椅子に座って本を読んでいたバルトとパチッと目が合い、その表情がみるみる驚愕していく。
「うわっ」
ベッドに着地した瞬間バランスを崩し、床に落ちそうになるのを、バルトが慌てて抱き締め支えてくれた。
バルトの首にぎゅっと抱きつきお礼を言う。
「はぁー、ありがとう、バルト」
「……ジン、か?」
名を呼ばれたので、手を首から肩に置き、バルトの顔が見えるようにちょっと離れた。
「そうだよ?」
「っ!」
目を見開き固まるバルトに首を傾げつつ、今自分の姿を思い出す。
「あー、えーっとね、俺、ちょっと大きくなったけど、ジンだよ。わかる?」
俺が尋ねるとバルトは、はっと我に返った。そして、微笑みながら俺の頬を片手で包み、親指で目元を優しく撫でる。
「あぁ、わかるよ。ジン、この姿はどうしたんだ?艶美すぎて襲……んんん、綺麗すぎてどうしていいかわからなくなる」
「綺麗?」
「っ!あぁ、とても綺麗だ」
顔を赤くさせ微笑むバルトに俺もつられて赤くなる。
「あのね、実は、昨日……」
昨日の精霊王達の飲み会?の出来事をバルトに話すと、こめかみ辺りを片手押さえながら、溜め息をついた。
「はあー、マジか……。じゃぁ、ずっとこのままなんだな?」
眉間に皺を寄せ、そう言うバルトにズキリと胸が痛くなる。
俺、大きくならない方がよかったのかな……。
「……バルトは今の俺嫌い?小さい俺の方が好き?」
目を潤ませながら見つめると、バルトの赤かった顔が更に赤くなった。
「嫌いなわけない!小さいジンも大きいジンも大好きだ!ただ、ちょっと、色気がヤバい……」
「色気?俺が?」
色気ってなんだっけ?フェロモン?
バルトはちょっと離れ、ベッドに座らせた俺を全身くまなく見ながら言った。
「あぁ、なんて言うか、中性的というか、官能的というか……」
「服のせいじゃない?」
「まぁ、服もだが……うっ、そんな目で見ないでくれ!」
片手で俺の目を隠すバルト。
「バルト?」
「うっ、これもこれでヤバい」
バルトはそう言うと今度は自分の目を片手で覆い、「唇が艶かしい……」とブツブツ何か呟いている。
そんな目ってどんな目よ……と、思いつつバルトが落ち着くのを待った。
「はあー」
俯いたまま椅子に座ってブツブツと呟いていたバルトが、今日一番であろう大きな溜め息をつき顔を上げた。
「あっ、落ち着いた?」
ベッドに寝っ転がりながら本を読んでいたので、体を起こしベッドに座ると、バルトがこれでもかと目を見開き固まった。
「バルト?」
俺の声に我に返ったバルトが、サッと素早く近付き、俺の服の乱れをチャチャッと直した。
「この服はダメだ。俺の服をやるからそれを着ろ」
真面目な顔で言われたので、勢いに負けで頷きました。
貰った服はシャツにズボンといったシンプルの服だけど、さすが貴族様生地がいい。
着てみたはいいもののちょっと大きすぎ……。
着替えると言ったら、なぜか後ろを向いて座ったバルトに声をかけた。
「ねぇ、バルト」
「着替え終わった……か……」
「ん、でもちょっと大きいみたい」
襟元が大き過ぎて片方の肩が出て、袖は手の甲の先まであり、裾は3回ほど折り返した。
手を横にまっすぐ伸ばすと袖がかなり長いことがわかる。
「ねっ、長いでしょ」
「そこがいい!」
いい笑顔で親指を立てるバルトの頭を容赦なくバシッと叩く。
「俺は小さくない!バルトの服が大きいの!」
「いや、そう言う意味じゃないんだが……まぁ、気にするな」
ニッコニコのバルトに若干引きつつ、バルトに魔王化の話を聞こうとためらいながらも口を開く。
「……ねぇ、バルトのステータスって、今どうなってる?」
相手のステータスを聞くのはマナー違反だ。それでも、俺はバルトに本当のことを言ってほしかったのであえて尋ねた。
するとバルトは一瞬停止した後、苦笑いしながら答えた。
「精霊達から何か聞いたか?」
「ん……バルトが魔王化したことを聞いた」
「そうか。聞いたか……」
視線を俺から窓へ移し、どこか遠くを見つめるような目で、ふぅーと息を吐いた。
「座ろうか……」
俺がベッドに、バルトが椅子に深く座る。
しばらく沈黙が続いた後、俯いたままバルトは語り始めた。
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