74 / 111
73
しおりを挟むバタンとドアが閉まり、シーンと静まり返る部屋で、宰相、スウェンはアーガンの表情を見て、はっと我に返り深く頭を下げた。
「主、出過ぎた真似、申し訳ございませんでした……」
頭を下げ10秒後、アーガンの返事を待っていたが届くはずもなく、「御前失礼致します」と反省するかのように肩を落としながら部屋を出ていった。
総騎士団長、サバムもアーガンの表情を確認するなり、無言で眉間に皺を寄せる。そして、何かを感じ取ったのだろう、一度目を瞑った後同じく深く頭を下げ、「王、御前失礼致します」と静かに去っていった。
部屋に残されたのは俺とアーガンの2人。俺はアーガンの肩に手をやり名前を呼ぶ。
「アーガン」
肩を揺すり名前を呼ぶが、返事は返ってこない。
「アーガン!」
俺は放心状態のアーガンの胸倉を掴み引き寄せた。
「アーガン、忠告したはずだ。ジンを傷付けたら赦さない!と」
「す、まん」
「伝えなかった俺も悪いが、なぜあんなことを……ジンを疑うことを言ったんだ!」
ビクッと肩を震わせたアーガンがくしゃりと顔を歪ませる。
「……あの、国は、私の大切な人達を苦しめた……その国が、また何かよからぬことをしてくるのかと……」
「ジンを間者だと思ったのか!」
「高等魔法が使えると聞いていたから、異世界人とは思えなかった……」
「全属性が使えると言っただろうが!」
「それは……魔石を使って、だな……」
「……アーガン、どうして先に、俺に相談してくれなかったんだ」
「すまん。あまりにお前がジンにのめり込んでいるから、私が暴いてやろうと……」
「はぁー」
掴んでいた胸倉を離すと、大きな溜め息と共に顔を両手で覆いながらソファーにドシリと腰掛ける。そんな俺をアーガンは申し訳なさそうな表情でチラリと見た。
「本当に、すまん」
「謝るのは俺じゃないだろ。それにお前、誰にこんなことしたのか理解しているのか?ジンだぞ。お前があんなに求めていた愛するアリサの子だ」
「っ!……アーク、本当に……彼が、ジンの生まれ変わりなのか?」
「あぁ、間違いない」
「どうして、そう言える?彼がジンの生まれ変わりだと言ったからか?」
「一緒にいて何度もジンの面影を見た。俺だけじゃなく、バルトもな」
「それでも……」
「くどい。逆に問う。お前はどうして分からない?目がそっくりだっただろ。アリサの目に」
「っ!」
「だからお前は、前のジンにも、今のジンにも惹かれたんじゃないのか?」
「そう、だな……確かに、そうだ。だったら……私はまた、息子を、ジンを、失うとこ、だったのか……」
泣きながら青ざめるアーガンに俺は何も言えなかった。アーガンはくしゃりと顔を歪め、俺にしがみついてきた。
「アーク……私は、どうすればいい?」
人を疑う事は決して悪いことじゃない。人は自分が裏切られたくないから、傷つきたくないから、疑う。立派な防衛本能だ。疑う事で己の心を守っているやつもいる……アーガンみたいに。ただし、疑うと決めたのであれば、何かを失う覚悟がいる。それが今回はジンの信頼だった。
「どうすればジンは、私を赦してくれるだろうか……」
信頼は一瞬にして失う。そして、失った信頼は簡単には取り戻せない。いや、取り戻せるかわからない。それでも、少しでも取り戻したいのなら……。
「ゆっくりと時間をかけて、ジンの話を聞き、赦してもらえるまで何度も心から謝り、誠意を見せること、だろうな」
「そう、か……」
俺も守ると約束していながら、ジンを止められなかった……合わせる顔がないな……。
俺はバルトに抱えられ部屋を出た後、城の中で唯一魔法が使える部屋まで行き、バルトの『結界・指瞬転移』で俺の部屋まで帰ってきた。
バルトは俺を抱えたままベッドに腰を下ろすと、俺が落ち着くようにしばらくトントンとリズムよく背中を叩いてくれた。
どのぐらい経っただろう。
俯いた俺の頬を片手で包み顔を上げさせた。バルトの心配そうな表情を見て微笑する。
「……ジン、大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ。王達に何を言われた?」
「……頭の中がぐちゃぐちゃで、よくわかんない」
「何でもいいから思った事、浮かんだ事を俺に話せ。少しは気分が落ち着くはずだ」
バルトに優しく問われ、先ほどの出来事がよみがえる。バルトに言われた通り、頭に浮かんだことを順に話していく。
「……最初は召喚の事を話すだけだろうって気軽に思ってたんだ。だけど、フタを開けてみれば俺を疑う事ばかりの質問責めで、まるで、ガイヤードルの間者だって決めつけるみたいでさ……。
俺、アーガンに疑われて悲しかった、怒鳴られて、怖かった。確かに色々あったから警戒するのはわかる。でも、だからって……あんな風に一方的に疑われるのは、もう、ごめんだ……」
「ジン」
頬を大好きな人の大きな優しい手で撫でられ、無意識に頬擦りをする。
「……俺、自分の気持ちがわからない」
「自分の気持ち?」
「ん、俺……父上に何を言われても大丈夫だと思ってたんだ。母上のことだけ言えばスッキリするんだって思ってた。だけど、実際は疑われて、怒鳴られ、怖くて悲しかった。ここがね、胸が痛かったんだ……。なのに、俺の息子なのか?て聞かれて、俺、思わずキレて、傷付く言葉を、暴言をはいた……」
ぎゅと胸の上の服を握りしめ、目を瞑っているとバルトがあっさりとした口調で俺に言った。
「んー、それは、しょうがないんじゃないか」
「えっ……」
「ジン、本当は父上のこと恨んでただろ?」
「恨んで……」
「今まで、父上が誰か知らなかったから、恨むにも恨めなかった。そこに突然、アーガンが父上だと知って、段々と憎しみや怒りが沸いてきた。そんな時、家族同然のアーガンから、急に疑われたり、怒鳴られたりしたら傷付くに決まっている。父上だと知ったから尚更だ。俺は何もしていないのに、どうして信じてくれないの!ってな」
確かに、俺は何もしていないのに!って思った。そうだよ、俺は……。
261
お気に入りに追加
1,442
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる