59 / 111
58
しおりを挟む「まぁ、座れ」とアークに言われ、お互いソファーに座る。そして、アークが懐から小さな箱にボタンがついたものを取り出し、スイッチを押した。
「それ、何?」
「遮音円蓋だ。名の通り音を遮る」
へー、以前はもっと大きかったのに小さくなったんだな。持ち運びがよさそうだ。俺も欲しい。
ツンツンと遮音円蓋をつついているとアークが俺の手を掴み、手の平にクッキーを乗せてくれた。
あっ、これ俺の好きなやつ。
口に入れ、ありがとうと伝えると、いっぱいあるから食えと袋ごと渡された。うまし。
「ジン、昨日、属性のことを教えてくれただろ」
「んっ、属性の事……あぁ、俺の?」
「あぁ、そうだ。全属性だと言ってたな。無属性もか?」
「うん」
「そ、うか……」
数秒の沈黙後、アークは意を決したように、真面目な表情で俺を見つめた。
「単刀直入に聞く。ジンは、異世界人か?」
「っ!」
なぜバレた!ステータスは他人には見れないはずなのに……。
「……どう、して、わかったの?」
「この世界の人間は、今まで全属性と無属性の両方持っているやつは一人もいない。過去に持っていた人間はいたが、皆、異世界人だった」
「そう、なんだ。過去にも異世界人が……」
でも、どうやって来たんだ?もしかして、俺と同じ召喚?
「過去に異世界人が、こちらに来る事が出来たのは、召喚魔法だけだが……ジンも、か?」
「うん、俺も」
アークはそれを聞いて、深いため息後、頭を抱えた。
「召喚された者は……もう自分の世界には戻れない。過去の例を見ても……」
アークはハッと何かに気付き顔を上げ、俺の顔を見た。目が合ったので首を傾げてみる。
するとアークは、眉間に皺を寄せ、頭を深くし謝った。
「ジン、本当にすまん。謝って済むことじゃないとわかっている。でも、安心してくれ。衣食住は俺が保証する。ジンには絶対苦労はさせない。やりたいこと、ほしいものがあれば遠慮なく言ってくれ」
「えーっと、うん、まずは顔を上げてほしい」
ゆっくりと顔を上げたアークは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
「アークが謝ることはないよ。悪いのは召喚した奴らだから。それに、俺、あの世界に未練ないから気にしないで。衣食住も、今のままで十分だよ。俺、自分で稼げるし」
「だが、ご両親の……」
「いいの。この話は終わり。ほら、まだ言いたいことがあるんでしょ?」
アークは諦めたように溜め息をつくとまた話し始めた。
「……過去の例を見ても、帰ったやつは一人もいない」
やっぱりな。ガイヤの宰相が言っていた、魔王を倒すまで帰れないは、嘘だったんだな。まぁ、俺としてはよかった。また、巻き込まれてあの世界に帰るのは勘弁だからね。
「召喚は拉致とかわらない。犯罪だ。人ひとりの人生を狂わせるんだ。だから、召喚は禁断魔法となった。……ジン、どこの誰に召喚された?」
真っ直ぐ俺の目を見つめてくるアークに、これは嘘はつけないな、と思った。
「……隣の国、ガイヤードルだよ」
「また、あいつらか!!」
ガンと怒りに満ちた目でソファーの持ち手を叩く。
「……何か、あったの?」
「あぁ、色々とやらかしている国だ。で、何て言って召喚されたんだ?それに、ジンはどうしてこの国にいる?」
やっぱ、気になるよね……どうしようか……ベル達精霊の話はやめた方がいいよね。なんだか嫌な予感しかしない。前世の時、ベル達が『愛し子だと人間に言わない方がいい。過去に愛し子だと言ったやつが捕まえられてひどい目にあっている』と、教えてくれた。いくらアークでもこれは秘密にした方がいい。アークの事だから、守る!といってくれるだろうけど、絶対アークの負担になる。それは嫌だ。
ぐっと唇を噛み締めた後、深呼吸をし心を落ち着かせた。
「……俺の他に、4人召喚されたんだけど……」
「4人もか!」
「ん、学校のクラスメイトなんだけど、その4人が勇者召喚されたみたいなんだ。で、偉い人から、魔王を倒して平和な世界にしたいから力を貸してほしいって言われてた」
「魔王?魔王なんていないんだが……」
困惑するアークにやっぱりなと呟く。
やっぱり魔王なんていないよね。でも、俺のステータスに魔王の卵と……。あれ?これ、俺が倒されちゃうパターン?フラグ?違うよね!うん、違う。
ちょっと悶々していると、アークがふと気付く。
「ん?ちょっと待て、4人が勇者?なら、ジンは……」
「あー、俺は近くにいたから、巻き込まれたみたいで、いらないからって魔法で森に飛ばされた」
「はぁ?あいつらはふざけてんのか!森に飛ばされたって、ジンは大丈夫だったのか?」
「ん、何とか。『他弾転移』で飛ばされて焦ったけど」
「他弾転移!結界は!」
「なかったよ」
「なんと言うことだ!あれは人を飛ばす時は必ず結界をしなければならないと、諸国魔禁止法で決めたはず……それを……」
※諸国魔禁止法→国同士で決めた魔法の禁止法律。
アークはワナワナと震え怒っている。
うわぁ……マジ怖。
248
お気に入りに追加
1,442
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる