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本編
07 お守りを作りましょう
しおりを挟むお守りは魔導具の一つだ。
その効果、製作者によって値段はさまざまである。
持っているだけで良いことがある、占いと同じような効果のものは平民のお小遣いで買えるくらい。
魔物除けと呼ばれるようなものは、中央に魔石か魔水晶が嵌められており、意匠も凝らされていて値段も張る。平民でも買えるだろうけれど、一か月の平均給金の半年分以上はあるだろう。
私が作るのは後者だ。
それもただのお守りでなく、魔物の攻撃から持ち主を守る魔導護符を作る。
作り方を教えてくれたのは、亡くなったお母様だ。
お母様は私と同じように銀色の髪を持ち、多量の魔力を持っていた。魔術の才能はなかったけれど、お母様が作るお守りは一級品。装飾も細やかで、その繊細な作りを見たお母様の旧友達が、商業化すれば絶対に人気が出ると絶賛していたほど。
ただ、我がランドハルス侯爵家は商いに携わることを良しとしない。
お母様がお守りを渡したのは、親しい学友やお父様だけ。私が侯爵家から持ってきたお母様の形見の指輪も、お母様が自作した魔導護符の一つ。亡くなる前にお母様が私にくださった。
『この魔導護符は災いからあなたを守り、幸せへと導いてくれるわ』
(お母様……どうか私に力をください)
ジルクス様を魔物から守ってくれるような、そんな魔導護符。
頭の中で設計図を起こし、ゆるやかに腕を伸ばす。
まずは魔糸だ。
「〈作成〉」
魔力のあるものなら、魔力を糸として具現化して魔糸を紡げる。お母様から教わったことを思い出しながら、どんどん糸を作成する。この糸は普通の糸よりも頑丈。これを複雑に重ね合わせることで、まるで鎖のような一本の糸を作る。
続いて、魔力を結晶化する作業。
魔水晶は魔導護符の要だ。
魔水晶にどれだけ強く祈りと魔力を込められるかが、魔導護符の完成度に関わってくる。魔石を使うのが本来の作り方なのだけれど、私には魔石を買うお金がないので、魔水晶を自分の魔力で作る。幸い、自ら作り出せるくらいには豊富な魔力があった。
額から汗が浮かんでくるけれど、拭うことさえ惜しい。とにかく集中し続けること、一時間──
「出来たわ────」
首飾りタイプの魔導護符。
間違いなく史上最高傑作だ。
銀色の光沢を放つ銀の台座、その中央にはこぼれんばかりの大粒の魔水晶。薄闇のなかで、ほんのりアメジスト色に輝いている。
ほぉ……と。
ようやく息を吐くことができた。
「効果を、試してみたいのだけど…………」
攻撃用の魔導具であれば、実践もできる。でもこれは、攻撃を受けてみないと効能が分からない。
(魔物に攻撃されたら結界を張るイメージだから…………)
台所からフライパンを持ってくる。
(無条件で、結界を────)
床に置いた魔導護符に向かって、思い切りフライパンを振り下ろす。
バチンッ。
「っったぁ……!」
(張れたけど腕が、腕がぁ……っ!)
魔導護符に触れる手前、小さな結界が張られてフライパンがはじけ飛んだ。腕に伝わる鈍痛。私が作った物だけれど痛いものは痛い。
(結界はこれで大丈夫ね……)
今まで魔物除けのお守りしか作ったことがなかったけれど、意外とやればできるものだ。
ふと、後ろに人の気配を感じた。
「こんな夜遅くまで、フライパン片手に何をやっていたんだ?」
「ジルクス様……!」
扉に背を預けて腕を組み、ジルクス様は私を見つめていた。
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