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第二部 ヴィランの森合宿

Episode12 大好きな幼馴染(フィオナ視点)

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 よくびっくりされるのだけれど、私ことフィオナとユリアは幼馴染だった。
 物心つくときから孤児院で生活していて、ユリアもその一人だった。
 ユリアは昔から口数の少ない大人しい女の子だったけど、私によく懐いていた。
 
 私はお姉さんになった気分だった。

 絵本を読み聞かせたり、字を教えたり。
 ユリアは頭のいい子で、どんどん知識を吸収していく。
 魔導士になりたいって言ったときも、私は素直に応援した。

「ユリアが呪文を唱えている時は私が前を守るわ。安心して呪文を唱えてね」

「うん……。じゃあ、わたし……フィオナの背中……守る……」

「最強の姉妹コンビ結成ね」

「姉妹……?」

「そうよ。私がお姉さんで、ユリアは妹。ね? これからもずっと一緒よ?」

「……うん……!」

 ただ。
 私たちが12歳のとき、ユリアは本当のお父さんとお母さんが見つかり、孤児院から去っていった。
 私は寂しくて泣いた。
 でも──約束したのだ。

「ね? 孤児院の修道女シスターたちに恩返ししない?」

「恩返し……?」

「そう、一緒に聖ハンスロズエリア学園の高等部に入学するの。いい成績をとれば、奨学金をくれるんだって。ね? そのお金を修道女シスターたちに渡したら、立派な恩返しになると思わない?」

 C等級以下の生徒がF組に配属され、無慈悲な差別を受けることは承知していた。
 でも、ある程度の成績を出せば奨学金を出してくれる。
 今の理事長が庶民の出身だから、私たちみたいな身分が低い人への援助としてお金を出しているみたい。名門の貴族学園に入学できるのは、理事長がいる間だけかもしれないと修道女シスターたちは言っていた。

 そして、私とユリアは晴れて学園の生徒となった。
 私は剣士として、ユリアは魔導士として。
 F組とバカにされようとも、二人一緒なら何だって乗り越えていける。

 でも。

「え? A組?」

「うん。お父さんが……A級魔道士に昇格したんだって。……だから、A等級になるの……」

 もともとユリアの父は、C等級の身分だった。
 魔導士は功績が伴えば等級がアップできる。S級から数えて上から二番目のA級魔導士になったユリアの父は、A等級になる道を選んだ。
 自動的にユリアもA等級に。
 私はちょっと動揺してしまった。

「へ、へえ。よかったじゃない。これで、立派な魔導士になる夢も一歩また前進ね」

「…………わたしね……A組には行きたくない」

「どうして? 強い魔導士になりたいから学園に入学したんでしょ? すごいことじゃないの。幼馴染として誇らしいわ」

「…………え?」

 ユリアは目をまん丸にして驚いていた。
 口をパクパクとさせたけれど、何も言わない。

「……フィオナなんて大嫌い……」

「ユリア? どこいくの? ねえ、ユリア!!」

 喧嘩してしまった。
 あれ以降、私は一度もユリアと喋っていない。
 ヴィランの森合宿にはペアが必要だ。ユリアは真っ先にメルと組むと言い出したから、私はアスベルと組んだ。

 ユリア以外の人とペアを組むのは初めてだ。
 アスベルは人の感情の機微によく気づく男の子で、ユリアと喧嘩していることも深く聞いてこなかった。
 そして、翌日のシェリアヴィーツ先生の授業のこと。
 
「ユリア・リリーゼ、そして最後はアスベル・シュトライム。以上の五人だ」

 私は呼ばれなかった。
 アスベルとユリアが呼ばれている。アスベルが呼ばれたのはびっくりしたけど、ユリアが呼ばれたのは納得だった。
 誇らしい気持ちになる。
 さすが、私の自慢の幼馴染。
 ……じまんの……幼馴染。

(もしかして、ユリアが怒った理由って……)

『私がお姉さんで、ユリアは妹。ね? これからもずっと一緒よ?』

 あのときの約束。
 私はずっと一緒にいようとユリアと約束した。
 でもあのとき、「A組になるなんて誇らしい。もっと魔導士として頑張ってほしい」という思いから、A組にいったら良いのではと進言した。
 だからユリアは怒ったのだ。
 ユリアは、私の背中を守るために強い魔導士になりたいのだ。
 ずっと一緒にいたいから、ずっと隣で笑っていたいから、学園に入学したのだ。

「よし、他のみんなも出来た……いや、ユリアがまだか……」

 四人がベノムの契約を終えている。
 ユリアだけがまだだった。

「ユリア・リリーゼ。もういい、魔法を行使するのはやめるんだ」

「……嫌……」

「聞いているのかい、ユリア・リリーゼ!! 今すぐ契約をやめろ!! それ以上魔獣に近づいたら心を食われちまうよ!!」

 あれだけ大人しかったはずのベノムが、急に暴れだした。
 ユリアは知的で大人しい子だけど、今回ばかりはそうじゃなかった。私との喧嘩で動揺している。
 恐怖は、魔獣が人につけ入る隙だ。
 魔獣に心を寄せていくことで主従関係を結ぶ契約魔法では、主の動揺は魔獣を刺激する。下手すれば逆に心を喰われ、魔獣に体を乗っ取られるかもしれない。
 
「わたしは……ちっぽけじゃないっ!」

「ユリア!!」

 勢いよく走り出す。ユリアの体を突き飛ばし、襲いかかってくるベノムの目の前へ。

「大事な幼馴染に、手を出してんじゃないわよ!」

 ベノムを蹴り飛ばしたあと、腰から肉厚の大剣を抜き去る。
 名をファラティックブレイザー。
 大好きなユリアと一緒に、武器屋で買った名品だ。

「────シッ」

 そして一凪ぎ。
 真っ二つに一刀両断して、ベノムは消滅した。

「大丈夫よ、ユリア。怖い魔獣はやっつけたわ。私はユリアの前を守る、ユリアは私の背中を守ってね」

「……フィオナ、フィオナぁ…………!!」

「こら。もう甘えん坊さんね。こういうところは昔と全然変わってないんだから」

 ユリアが抱きついてくる。
 私より身長が高くて、美人で、知的なのに。
 土壇場で足がすくんで体が動かなくなる現象なんて、何にも変わってない。
 やっぱり私がお姉さんじゃないといけない。
 ユリアを守るのが、私の役目だ。

「フィオナ、ユリアさん!」

「アンタたち大丈夫かい!?」

 アスベルとシェリアヴィーツ先生がやってくる。

「ごめんね、心配かけたわ。でも大丈夫よ、一刀両断してやったわ」

「そっか。でも良かったよ、二人に怪我がなくて」

「本当だよ。今回はフィオナがいち早く気づいてくれたから良かったが、ちょっとでも遅くなっていたらどうなっていたか。三級だからって魔獣は魔獣だよ。何があってもおかしくなかったさ」

 シェリアヴィーツ先生の声に、ユリアは「ごめんなさい」と小さく頭を下げた。
 
「まぁ、過ぎたことをこれ以上責めることはしない。これからは気をつけるんだよ」

「はい、もちろんです」

 そうか、シェリアヴィーツ先生はこれを少しでも感じてもらえるように、あえて魔獣との契約を行ったのか。格下だと思っていた魔獣でも、油断するとやられてしまう。そんな危険性を感じてほしかったのだ。

「よし、本日の魔獣使役の授業はここまでだよ。ベノムと契約した者はすぐに解除するように。間違ってもナメクジを連れて帰るんじゃないよ」

 私は、尊敬の眼差しでシェリアヴィーツ先生のことを見ていた。 


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