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模擬戦で華々しくニレットを倒した俺だが、それでもやっかみをかけてくる連中は多い。
平民ってだけで唾をはきかけられるような学院だ。
奴隷だと知ったマウント取りの連中は、どこからか拾った噂を頼りにネチネチ迫ってくる。
暇なのか?
そんなに俺なんかにマウント取りたい?
まぁ、俺は短気だからすぐ殴っちゃうんだけど。
「いったい、あなたが生徒指導室に来るのはコレで何度目ですか?」
「3回目?」
「4回目です」
俺の目の前ではぁと呆れるのは、帝国が誇る美姫・ネフィリア。
皇位継承権は低いものの、皇帝の娘。
才色兼備にして、その物腰の柔らかさから教官の信頼も厚い。
まさに未来の帝国を背負って立つ人物だ。
ネフィリアは人手不足の教官のかわりに、生徒指導も行っている。
将来は今期代表生として壇上に立つんじゃないだろうか。そうなったら俺、最前列で話を聞くけどなぁ。あ、いま俺のこと睨んだ。
…………ツンとした顔も可愛いなぁ。
「終わりましたか?」
「終わった終わった」
反省文をネフィリアに渡す。
「じゃあ、これで今日は帰っていいですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ネフィリア……さん!」
部屋出ていこうとするネフィリアを、大慌てて引き止める。
三度目ならぬ四度目の正直。
ここで言わねば男がすたる!
「なにかごようですか?」
「放課後、ひま?」
「暇というほどではありません。公爵令嬢とのお茶会、ダンスとヴァイオリンのレッスン、それが終わったら明日の授業の予習を──」
「無理やりどっか時間を開けられねぇか!? 俺、ネフリィアと一緒に街で買物がしたいんだ! 頼むよぉネフィリア! このとおりだっ!」
九十度、いや百度は腰を折り曲げた俺に、ネフリィアはしばらく沈黙していた。
おそるおそる、顔をあげてみる。
「ネフィリア……さん…………?」
ネフィリアは。
「……………………ふふっ」
とても小さく、微笑んでいた。
普段は氷の姫とも恐れられ、一切表情を緩ませない彼女が。
「仕方ないですね。見ていて飽きないので、一回だけですよ?」
破壊力が凄まじすぎて。
俺の心臓、マジでもたん…………。
「オルヴィ、どうしたのですか? オルヴィ…………?」
俺…………今なら死んでも悔いないわ。
…………………。
…………。
……。
あれ、なんか体が冷たいな。
もしかして、昔の記憶かよみがえったとか?
え、いくら死んでもいいって言ったけど今さら前世の死ぬ瞬間なんて──
バシャァアアンン。
「ってつめてぇぇえええ!!」
「ようやく正気に戻りましたね。出かけようって誘ってきたのはあなたのほうでしょう」
なんだこれ、全身水浸しじゃねぇか。
まさか、ネフィリアがかけたのか?
「あなたがずっと、呆け面してたので水をかけたんですよ?」
「え、ツッコみたいけどマジで? 俺、そんな長い間バカ面さらしてたの?」
「私が水をかけるまでは」
確かにネフィリアの格好をよく見てみると、ブレザーの制服からオシャレな私服に変わっている。
周りだって、学院じゃなくて街中だ。
「デート、するんでしょう?」
「え!? べ、別に俺は、た、ただ親睦を深めるためにネフィリア様と一緒にお買い物をだな!」
「? 二人きりの男女の買い物をデートというのではないのですか? そうですか、これはただの付添い──」
「デートしようぜ」
俺はいま、最高にかっこいい表情を浮かべている…………と、思いたい。
しかしどうやら、氷の美姫はデートというものをそんな深い意味だと捉えていないらしい。
緊張したのに損したぜ、まったく。
「しっかし、誘った俺が言うのもなんだけど、いいのか? 俺みたいな問題児と一緒にいて。しかも、放課後に街へ降りるのは禁止だぜ?」
「それはさっきも言ったでしょう。私は生徒指導室を請け負う人間として、問題児を管理しなければなりません。これは遊びではなく、監視です。か・ん・し」
監視ねぇ。
俺より楽しそうにおめめキラキラさせてますけどねぇ。
でも、ネフィリアが俺と一緒にいる動機がわかった。
彼女だって、ちょっとは学生らしいことがしたいのだ。
いつも周りに取り巻き連れて、全生徒の模範生みたいな振る舞いして。
そのかわり、女子なら当然できそうな貴重な時間を無駄にしている。
「よし、ちょっくらかっこいいところを見せてやりますか」
「なんです? 私に勝てない僻みですか?」
「悪かったな学年総合二位で! む、むしろこの位置がちょうどいいんだよ! ネフィリアを目立たせるには俺という存在が必要なんだよ!」
「そう……かもしれませんね」
な、なんだこいつ。急にどうした。
「じゃあ、今回はエスコートしてくれますか? 騎士さん」
「……………」
優しく、微笑むその姿に。
あぁ、どうやら今回も。
俺は、惚れさせるより惚れる側なんだと、思った。
平民ってだけで唾をはきかけられるような学院だ。
奴隷だと知ったマウント取りの連中は、どこからか拾った噂を頼りにネチネチ迫ってくる。
暇なのか?
そんなに俺なんかにマウント取りたい?
まぁ、俺は短気だからすぐ殴っちゃうんだけど。
「いったい、あなたが生徒指導室に来るのはコレで何度目ですか?」
「3回目?」
「4回目です」
俺の目の前ではぁと呆れるのは、帝国が誇る美姫・ネフィリア。
皇位継承権は低いものの、皇帝の娘。
才色兼備にして、その物腰の柔らかさから教官の信頼も厚い。
まさに未来の帝国を背負って立つ人物だ。
ネフィリアは人手不足の教官のかわりに、生徒指導も行っている。
将来は今期代表生として壇上に立つんじゃないだろうか。そうなったら俺、最前列で話を聞くけどなぁ。あ、いま俺のこと睨んだ。
…………ツンとした顔も可愛いなぁ。
「終わりましたか?」
「終わった終わった」
反省文をネフィリアに渡す。
「じゃあ、これで今日は帰っていいですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ネフィリア……さん!」
部屋出ていこうとするネフィリアを、大慌てて引き止める。
三度目ならぬ四度目の正直。
ここで言わねば男がすたる!
「なにかごようですか?」
「放課後、ひま?」
「暇というほどではありません。公爵令嬢とのお茶会、ダンスとヴァイオリンのレッスン、それが終わったら明日の授業の予習を──」
「無理やりどっか時間を開けられねぇか!? 俺、ネフリィアと一緒に街で買物がしたいんだ! 頼むよぉネフィリア! このとおりだっ!」
九十度、いや百度は腰を折り曲げた俺に、ネフリィアはしばらく沈黙していた。
おそるおそる、顔をあげてみる。
「ネフィリア……さん…………?」
ネフィリアは。
「……………………ふふっ」
とても小さく、微笑んでいた。
普段は氷の姫とも恐れられ、一切表情を緩ませない彼女が。
「仕方ないですね。見ていて飽きないので、一回だけですよ?」
破壊力が凄まじすぎて。
俺の心臓、マジでもたん…………。
「オルヴィ、どうしたのですか? オルヴィ…………?」
俺…………今なら死んでも悔いないわ。
…………………。
…………。
……。
あれ、なんか体が冷たいな。
もしかして、昔の記憶かよみがえったとか?
え、いくら死んでもいいって言ったけど今さら前世の死ぬ瞬間なんて──
バシャァアアンン。
「ってつめてぇぇえええ!!」
「ようやく正気に戻りましたね。出かけようって誘ってきたのはあなたのほうでしょう」
なんだこれ、全身水浸しじゃねぇか。
まさか、ネフィリアがかけたのか?
「あなたがずっと、呆け面してたので水をかけたんですよ?」
「え、ツッコみたいけどマジで? 俺、そんな長い間バカ面さらしてたの?」
「私が水をかけるまでは」
確かにネフィリアの格好をよく見てみると、ブレザーの制服からオシャレな私服に変わっている。
周りだって、学院じゃなくて街中だ。
「デート、するんでしょう?」
「え!? べ、別に俺は、た、ただ親睦を深めるためにネフィリア様と一緒にお買い物をだな!」
「? 二人きりの男女の買い物をデートというのではないのですか? そうですか、これはただの付添い──」
「デートしようぜ」
俺はいま、最高にかっこいい表情を浮かべている…………と、思いたい。
しかしどうやら、氷の美姫はデートというものをそんな深い意味だと捉えていないらしい。
緊張したのに損したぜ、まったく。
「しっかし、誘った俺が言うのもなんだけど、いいのか? 俺みたいな問題児と一緒にいて。しかも、放課後に街へ降りるのは禁止だぜ?」
「それはさっきも言ったでしょう。私は生徒指導室を請け負う人間として、問題児を管理しなければなりません。これは遊びではなく、監視です。か・ん・し」
監視ねぇ。
俺より楽しそうにおめめキラキラさせてますけどねぇ。
でも、ネフィリアが俺と一緒にいる動機がわかった。
彼女だって、ちょっとは学生らしいことがしたいのだ。
いつも周りに取り巻き連れて、全生徒の模範生みたいな振る舞いして。
そのかわり、女子なら当然できそうな貴重な時間を無駄にしている。
「よし、ちょっくらかっこいいところを見せてやりますか」
「なんです? 私に勝てない僻みですか?」
「悪かったな学年総合二位で! む、むしろこの位置がちょうどいいんだよ! ネフィリアを目立たせるには俺という存在が必要なんだよ!」
「そう……かもしれませんね」
な、なんだこいつ。急にどうした。
「じゃあ、今回はエスコートしてくれますか? 騎士さん」
「……………」
優しく、微笑むその姿に。
あぁ、どうやら今回も。
俺は、惚れさせるより惚れる側なんだと、思った。
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