上 下
3 / 6

03

しおりを挟む
 模擬戦で華々しくニレットを倒した俺だが、それでもやっかみをかけてくる連中は多い。
 平民ってだけで唾をはきかけられるような学院だ。
 奴隷だと知ったマウント取りの連中は、どこからか拾った噂を頼りにネチネチ迫ってくる。
 暇なのか?
 そんなに俺なんかにマウント取りたい?

 まぁ、俺は短気だからすぐ殴っちゃうんだけど。

「いったい、あなたが生徒指導室に来るのはコレで何度目ですか?」

「3回目?」

「4回目です」

 俺の目の前ではぁと呆れるのは、帝国が誇る美姫・ネフィリア。
 皇位継承権は低いものの、皇帝の娘。
 才色兼備にして、その物腰の柔らかさから教官の信頼も厚い。

 まさに未来の帝国を背負しょって立つ人物だ。

 ネフィリアは人手不足の教官のかわりに、生徒指導も行っている。
 将来は今期代表生として壇上に立つんじゃないだろうか。そうなったら俺、最前列で話を聞くけどなぁ。あ、いま俺のこと睨んだ。
 …………ツンとした顔も可愛いなぁ。

「終わりましたか?」

「終わった終わった」

 反省文をネフィリアに渡す。
 
「じゃあ、これで今日は帰っていいですよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! ネフィリア……さん!」

 部屋出ていこうとするネフィリアを、大慌てて引き止める。
 三度目ならぬ四度目の正直。
 ここで言わねば男がすたる!

「なにかごようですか?」

「放課後、ひま?」

「暇というほどではありません。公爵令嬢とのお茶会、ダンスとヴァイオリンのレッスン、それが終わったら明日の授業の予習を──」

「無理やりどっか時間を開けられねぇか!? 俺、ネフリィアと一緒に街で買物がしたいんだ! 頼むよぉネフィリア! このとおりだっ!」
 
 九十度、いや百度は腰を折り曲げた俺に、ネフリィアはしばらく沈黙していた。
 おそるおそる、顔をあげてみる。

「ネフィリア……さん…………?」

 ネフィリアは。

「……………………ふふっ」

 とても小さく、微笑んでいた。
 普段は氷の姫とも恐れられ、一切表情を緩ませない彼女が。

「仕方ないですね。見ていて飽きないので、一回だけですよ?」

 破壊力が凄まじすぎて。
 俺の心臓、マジでもたん…………。

「オルヴィ、どうしたのですか? オルヴィ…………?」

 俺…………今なら死んでも悔いないわ。


 …………………。

 …………。

 ……。


 あれ、なんか体が冷たいな。
 もしかして、昔の記憶かよみがえったとか? 
 え、いくら死んでもいいって言ったけど今さら前世の死ぬ瞬間なんて──

 バシャァアアンン。

「ってつめてぇぇえええ!!」

「ようやく正気に戻りましたね。出かけようって誘ってきたのはあなたのほうでしょう」

 なんだこれ、全身水浸しじゃねぇか。
 まさか、ネフィリアがかけたのか?

「あなたがずっと、呆け面してたので水をかけたんですよ?」

「え、ツッコみたいけどマジで? 俺、そんな長い間バカ面さらしてたの?」

「私が水をかけるまでは」

 確かにネフィリアの格好をよく見てみると、ブレザーの制服からオシャレな私服に変わっている。
 周りだって、学院じゃなくて街中だ。

「デート、するんでしょう?」

「え!? べ、別に俺は、た、ただ親睦を深めるためにネフィリア様と一緒にお買い物をだな!」

「? 二人きりの男女の買い物をデートというのではないのですか? そうですか、これはただの付添い──」

「デートしようぜ」

 俺はいま、最高にかっこいい表情を浮かべている…………と、思いたい。
 しかしどうやら、氷の美姫はデートというものをそんな深い意味だと捉えていないらしい。
 緊張したのに損したぜ、まったく。

「しっかし、誘った俺が言うのもなんだけど、いいのか? 俺みたいな問題児と一緒にいて。しかも、放課後に街へ降りるのは禁止だぜ?」

「それはさっきも言ったでしょう。私は生徒指導室を請け負う人間として、問題児を管理しなければなりません。これは遊びではなく、監視です。か・ん・し」

 監視ねぇ。
 俺より楽しそうにおめめキラキラさせてますけどねぇ。

 でも、ネフィリアが俺と一緒にいる動機がわかった。
 彼女だって、ちょっとは学生らしいことがしたいのだ。
 いつも周りに取り巻き連れて、全生徒の模範生みたいな振る舞いして。
 そのかわり、女子なら当然できそうな貴重な時間を無駄にしている。

「よし、ちょっくらかっこいいところを見せてやりますか」

「なんです? 私に勝てない僻みですか?」

「悪かったな学年総合二位で! む、むしろこの位置がちょうどいいんだよ! ネフィリアを目立たせるには俺という存在が必要なんだよ!」

「そう……かもしれませんね」

 な、なんだこいつ。急にどうした。

「じゃあ、今回はエスコートしてくれますか? 騎士ナイトさん」

「……………」

 優しく、微笑むその姿に。

 あぁ、どうやら今回も。

 俺は、惚れさせるより惚れる側なんだと、思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...