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第三話
8 庶民の味をどうぞ
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***
新入生レクレーションゲームは、監視カメラなどの映像が編集され、ゲームオーバーになった生徒や他学年に公開されていた。
そして誰もが想像していたものとは違う展開に、どよめきが起きている。
「おいおい、所詮『無能』だろう?
どうして捕まえられないんだよ」
そう、開始一時間経ってからどこからか突如現れた新入りが、未だ爆進中で捕まっていないのだ。
「しかも喧嘩が強ぇとか」
「けど『無能』だぞ?
いくら神高が一緒だったって、一年連中は情けなさ過ぎだろう」
上級生たちからは困惑と嘲りの混じった意見が上がる。
そんな中一人、鴻上が黙って映像に見入っていた。
「ふぅん、なるほどぉ?」
そう呟き、舌なめずりをするその表情は、面白そうなおもちゃを見つけたようだった。
***
そして、その噂の当人はというと。
「はぁ~、ちょい休憩」
適当な教室に入り込んで、休憩中だった。
いくら喧嘩が強くて並みの女子より体力がある方だとはいえ、所詮「女子にしては」という程度。
私は自分の体力がどのくらいなのか、ちゃんとわかっている。
でないと畑仕事中にその見極めを誤ってぶっ倒れたら、大惨事になるからね。
というわけで、例のパン耳の揚げパンでエネルギーチャージだ。
お茶もちゃんと沸かして水筒に詰めてきたよ。
「神高もいる?
私お手製の揚げパンだけど」
私が揚げパン耳の入った袋を「ほれ」と差し出すと、神高は無表情に言った。
「揚げパンとはなんですか?」
……今、私は衝撃の発言を聞いたぞ。
え、揚げパンを知らないだと?
「揚げパンだよ?
給食で出るよね?」
「他の学校では昼を給食と呼ぶとは聞いていますが。
生憎僕は、昔から食事は食堂ですので」
そうだった、この男はちっちゃい頃からここで育ったんだった!
入学が早い子は幼稚舎からいるっていうし、こんな庶民派なのは食べないか。
だがならばこそ、ぜひとも新しい世界を教えてやらねば!
「これね、給食でも人気なんだ、美味しいよ!」
私はそう言いながら、寮の食堂で分けてもらった紙ナプキンをリュックから出して、それに揚げパン耳を一つ包むと神高にずいっと差し出す。
「いえ、僕は……」
「いいからいいから!
私に付き合ってウロウロして、お腹が空いたでしょ?
腹が減っては戦ができぬ、だよ!」
遠慮しようとする神高に、私はさらにズズイと押し付ける。
見合うことしばし、やがて神高が根負けしたようで。
「はぁ、わかりましたよ。
いただきます」
ため息を吐いて私から揚げパン耳を受け取ると、不審物を見るかのごとく「じぃーっ」と観察した後、意を決して口に入れる。
サクッ
「……美味しい」
「でしょでしょ!?
美味しいよね!?」
心底驚いた様子の神高に、私は我が意を得たりである。
そして脂っこいのを食べたら飲み物ということで、これまた持ってきていた紙コップにお茶を注いで渡す。
そう、私のリュックの中は休憩セットが入っているのだ。
「ところで安城、君はなにか確固たる計画の元で動いていますか?」
神高が揚げパン耳を食べきってお茶を飲みつつ、そう尋ねてきた。
「いや? 得には。
言ってみれば当てずっぽう。
私、昔っから当てずっぽうで動いて、失敗したことないし!」
「では、先程女子からの能力での攻撃をかわしてみせたのは?」
「ああ、あれ?
怖かったね。
かわしたっていうか、あっちがノーコンで助かったっていうか」
そう、さっき女子の集団に出くわし、その一人が念動力っぽいのでイスや机をぶん投げてきたのだ。
私が「うわぉ、超能力!」と興奮しつつもオロオロとしている間に、それらが勝手に横をすり抜けてしまい。
結果、私の後ろにイスと机の山ができたってわけだ。
……あれ、誰が片付けるんだろうね?
「なるほど」
私の説明に神高が一人頷き、置いてある揚げパン耳の入った袋に手を伸ばす。
神高よ、さては気に入ったな?
新入生レクレーションゲームは、監視カメラなどの映像が編集され、ゲームオーバーになった生徒や他学年に公開されていた。
そして誰もが想像していたものとは違う展開に、どよめきが起きている。
「おいおい、所詮『無能』だろう?
どうして捕まえられないんだよ」
そう、開始一時間経ってからどこからか突如現れた新入りが、未だ爆進中で捕まっていないのだ。
「しかも喧嘩が強ぇとか」
「けど『無能』だぞ?
いくら神高が一緒だったって、一年連中は情けなさ過ぎだろう」
上級生たちからは困惑と嘲りの混じった意見が上がる。
そんな中一人、鴻上が黙って映像に見入っていた。
「ふぅん、なるほどぉ?」
そう呟き、舌なめずりをするその表情は、面白そうなおもちゃを見つけたようだった。
***
そして、その噂の当人はというと。
「はぁ~、ちょい休憩」
適当な教室に入り込んで、休憩中だった。
いくら喧嘩が強くて並みの女子より体力がある方だとはいえ、所詮「女子にしては」という程度。
私は自分の体力がどのくらいなのか、ちゃんとわかっている。
でないと畑仕事中にその見極めを誤ってぶっ倒れたら、大惨事になるからね。
というわけで、例のパン耳の揚げパンでエネルギーチャージだ。
お茶もちゃんと沸かして水筒に詰めてきたよ。
「神高もいる?
私お手製の揚げパンだけど」
私が揚げパン耳の入った袋を「ほれ」と差し出すと、神高は無表情に言った。
「揚げパンとはなんですか?」
……今、私は衝撃の発言を聞いたぞ。
え、揚げパンを知らないだと?
「揚げパンだよ?
給食で出るよね?」
「他の学校では昼を給食と呼ぶとは聞いていますが。
生憎僕は、昔から食事は食堂ですので」
そうだった、この男はちっちゃい頃からここで育ったんだった!
入学が早い子は幼稚舎からいるっていうし、こんな庶民派なのは食べないか。
だがならばこそ、ぜひとも新しい世界を教えてやらねば!
「これね、給食でも人気なんだ、美味しいよ!」
私はそう言いながら、寮の食堂で分けてもらった紙ナプキンをリュックから出して、それに揚げパン耳を一つ包むと神高にずいっと差し出す。
「いえ、僕は……」
「いいからいいから!
私に付き合ってウロウロして、お腹が空いたでしょ?
腹が減っては戦ができぬ、だよ!」
遠慮しようとする神高に、私はさらにズズイと押し付ける。
見合うことしばし、やがて神高が根負けしたようで。
「はぁ、わかりましたよ。
いただきます」
ため息を吐いて私から揚げパン耳を受け取ると、不審物を見るかのごとく「じぃーっ」と観察した後、意を決して口に入れる。
サクッ
「……美味しい」
「でしょでしょ!?
美味しいよね!?」
心底驚いた様子の神高に、私は我が意を得たりである。
そして脂っこいのを食べたら飲み物ということで、これまた持ってきていた紙コップにお茶を注いで渡す。
そう、私のリュックの中は休憩セットが入っているのだ。
「ところで安城、君はなにか確固たる計画の元で動いていますか?」
神高が揚げパン耳を食べきってお茶を飲みつつ、そう尋ねてきた。
「いや? 得には。
言ってみれば当てずっぽう。
私、昔っから当てずっぽうで動いて、失敗したことないし!」
「では、先程女子からの能力での攻撃をかわしてみせたのは?」
「ああ、あれ?
怖かったね。
かわしたっていうか、あっちがノーコンで助かったっていうか」
そう、さっき女子の集団に出くわし、その一人が念動力っぽいのでイスや机をぶん投げてきたのだ。
私が「うわぉ、超能力!」と興奮しつつもオロオロとしている間に、それらが勝手に横をすり抜けてしまい。
結果、私の後ろにイスと机の山ができたってわけだ。
……あれ、誰が片付けるんだろうね?
「なるほど」
私の説明に神高が一人頷き、置いてある揚げパン耳の入った袋に手を伸ばす。
神高よ、さては気に入ったな?
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