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第三話

4 田舎者をなめるなよ!

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「でもそんなの、コソコソすればバレねぇって思うんですけど」

松川君の指摘に、万智先輩は「確かにそうだ」と頷く。

「風紀の人数も限られているからな。
 だからこそ自衛が第節となる。
 安城、お前は一人でうろつかないことだ」

そう忠告した万智先輩は、食器を返却口へと持っていく。
 このやり取りは当然周囲にも聞こえていて、ヒソヒソ話す人、ニヤニヤ笑っている人、しかめっ面をしている人と、反応は様々だ。

「やっぱり危ないよねぇ」

「できるだけ神高と一緒のがいいんじゃねぇ?」

そう話す徳倉君と松川君が、心配してくれているのはわかっている。
 けど私は今モヤモヤした気持ちでいた。
 なんか私ってば、すっごい「か弱い」みたいな扱いじゃない?
 なんなの、ココだと「無能」イコール「なんにもできない奴」扱いなの?
 田舎で伸び伸びと生きてきて、言ってはなんだがガキ大将相手だって適当にあしらいはしても、泣き寝入りなんてしたことのない私なのに。
 ここへ来てからの扱われ方は、地味にストレスだったりするんだよね。
 能力が一体ナンボのモンだっていうんだ、所詮同じ人類だろう?

「群れっていうのは、マウント取った方が勝ちなんだよね……」

低く呟く私に、徳倉君と松川君がきょとんとした顔になり、我関せずで一切会話に加わっていなかった神高は眉を上げる。
 誰もかれも、田舎者のポテンシャルを舐めるなよ?


鉢巻とりゲームは一週間後。私はその一週間で、できる限りの対策を立てることにした。
 神高を拝み倒してなんとか頼み、一年生各人の能力についてレクチャーを受けた。
 心底面倒臭いという顔だったが、それでも一応説明してくれた内容によると。
 能力は大まかに「身体強化」「エレメント」「その他」の三つに分けられているという。
 身体強化というのは怪力や俊足とかいう、自分の肉体に能力が発露する系。
 エレメントというのは、鴻上先輩が見せたような発火とかの、自然現象を操る系。そしてその他というのが、それ以外のもの。
 ねえ、その他ってカテゴリーって雑じゃない? もっと細かくカテゴライズしてやろうよ。
 そんな感想を抱いたものの、一応要注意能力者というのも教えてもらった。
 けど神高自身の能力は、「教える必要を見出せません」と言われてしまった。
 いーじゃんか、ケチ!
 ともあれ、そうして情報を仕入れたら次の対策。
 ゲームは長丁場になるようなので、途中でお腹が減っちゃってエネルギー切れにならないように、おやつの準備もしなくっちゃ。
 でも、食費は大事に使いわけで。
 ここで発見してしまったのが、食堂でタダで貰えるというパンの耳。
 朝はパン食派の学生用にサンドイッチを作る際の余りものらしく、結構な量が入った袋がドーンと置いてあった。
 ……パンの耳で、揚げパンを作ると美味しいよね。
 あとパン耳フレンチトーストとかもアリだ。
 これは貰うしかないってことで、これで揚げパンを作ることにした。
 けど部屋で揚げ物するには設備が不安。
 部屋には一応水場と一口IHコンロがあるんだけど、換気扇とかがないから油料理はしたくない。
 というわけで、放課後に夕食前の食堂へ行ってお願いすると、快くフライヤーを使わせてくれるという。親切! と感激していると。

「ここの生徒は色々だからな、アンタみたいなのはいるんだよ」

食堂のおばちゃんならぬ、シェフの格好のおじさんが笑って言う。
 まあそうだよね、「能力がある」っていう一点だけで集められたものの、家庭環境や経済力なんかはバラバラなのは当然。
 おじさんが言うには、学園に入れたものの、そのまま放置されている生徒もいるんだとか。
 それって、悪い言い方だと「捨てられた」ってことなのかな。だとしたら切ないなぁ。
 そうした生徒は、学園が用意した最低限度生活保障がされているのみで。
 育ち盛りの男の子だと、成長するのにそれだけで満足できるはずもない。
 そうした生徒は誰もいない時間にコッソリと食堂へ来て、おじさんが多めに作っておいた賄を貰っているんだって。

「けど、アンタみたいに自分で作ろうって奴ぁいないな」

「そりゃあね、私は高校生になってからですし」

ここの生徒ってほとんどが小学校低学年で来る。
 その年齢で料理に目覚めている子なんて、そうそういないでしょうよ。
 低学年が台所に入るって、普通に危ないからね。
 その点私は台所作業が出来る年齢だったし、ド田舎だったからおやつは買うより作る方が早かったんだよ。
 こんなわけで、私は同級生よりも食堂のおじさんと仲良くなりました。
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