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第二話 入学式は波乱の幕開け

9 ようやく入学式

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そんなこんながあったものの、やっぱり入学式をボイコットなんてするなんてできないわけで。
 だってそんなことしたら、先生に問題児って思われるじゃん?
 なわけで仕方なく新入生の移動の流れに乗って、入学式会場の体育館に到着する。
 そして、目の前に現れた体育館なる建物に、私は思わずパッカーンと口を開けてしまう。

「ふわぁ、大きい、キレイ!」

私が知る体育館というものと違い過ぎるって。
 これって、私の地元の文化センターよりも絶対大きいよ。

「テレビでミュージシャンがコンサートするみたいな建物だね」

「コンサートホールなら、別にありますよ」

私の感想に、後ろから神高がそう言ってくる。
 そうか、コンサートホールなんかまであるのか。
 ますます凄いな、ここってば。
 こんな風に私が駄弁っていると。

「クラス別に整列してください」

体育館前で新入生を誘導している係員の人が、そう呼び掛けて来た。

「あ、じゃあ僕はあっちだ」

「俺はそっちな」

ここで徳倉君と松川君とは一旦お別れだ。
 クラス分けは徳倉君や松川君とは別クラスだったんだよね。
 徳倉君がAクラス、松川君がBクラスだ。
 神高は私のお世話係みたいなものみたいなので、同じCクラスなのは当然と言えるかもしれない。
 ちなみに徳倉君が言うには、このクラス分けは成績順なんかじゃなくて、能力のバランスで分けられているんだってさ。
 攻撃的な能力持ちばかりを集めると、当然クラスは荒れるらしい。
 先生たちもこのクラスわけに、毎年神経を尖らせているようだ。
 ともあれ、徳倉君と松川君と離れることになり。

「徳倉君、緊張して階段から落ちないようにね!」

私が再度念を押すと、徳倉君が「なにそれ」と笑う。

「いつものメンバーが持ち上がるだけの入学式で、緊張なんかしないって。
 むしろ安城君が気を付けるべきなんじゃない?」

言い返せないくらいの正論を返されたところで、それぞれ自分のクラスの列に並ぶ。
 並び方は特に決まっていないらしく、私と神高は一緒に並ぶ。
 他の面々もそれぞれ友達同士で固まっているようだ。
 Cクラスの面々を眺めてみると、男女の内訳はそれぞれ半々程度か。
 並ぶのも自然と男女に分かれるみたいで、女子グループのあたりからキャーキャーという声が聞こえてくる。

「運がいいわ、神高くんと同じクラスなんて!」

「お近づきになれるかしらね?」

頬を赤らめながらそんな会話をしている。

「神高って女子に人気があるんだね」

私が若干ニヤつきながら肘でわき腹を突いてやると、神高が嫌そうな顔をした。
 あれか、神高は私のパンダ仲間なのか。
 そしてそのパンダその二の存在が、女子たちは気になるようで。

「なに、あの隣の奴」

「見たことない男子ね」

「私、さっき受付で騒いでいるのを聞いたんだけど……」

こんな会話が始まり、その中で「無能」という単語が広まっていくのが聞こえる。
 そして自然と距離を開けられ、遠巻きにされる私と、ついでの神高。
 皆して無能、無能ってさぁ。
 私がメンタルがか弱い人だったら泣いてるぞ?
 私が周囲の反応に眉をひそめていると。

「周りの言うことは、気にしないことですね」

神高がボソッとそんなことを言ってきた。
 およ、これは心配してくれているのかな?
 私はにへらっと笑うと、ヒラヒラと片手を振る。

「大丈夫、そもそも能力っていうのがイマイチわかっていないから、気にする状態じゃないし」

そうなのよ。
 ここの皆の言う「無能」なのが普通の環境で育ったもんだから、ピンと来ないというか。
 ここにきて見た能力っていうのも、鴻上先輩の手の平の火の玉くらいだし。
 これだと手品なんかでも見られる範囲で、イマイチ能力感が薄いんだよ。

「そうですか」

私の反応を見た神高が、スッと視線を外す。
 「心配して損した」みたいに思われたかも。
 ごめんね、私が心配しがいのあるか弱い女子じゃなくて。
 でも農家をしていると、メンタルも強くなるんだよ。
 なんてったって日々大自然を相手にしているから、些細なことは本当にどうでもよくなってくるんだよね。
 大いなる自然の力に比べれば、人間なんてちっぽけなもんだ。
 そんなちっぽけな人間のいざこざなんて、悩んでも仕方ないってね。
 このメンタルのおかげで、私は能力がどうのっていう話を呑み込めたんだろう。
 そりゃあ私も最初から、このビックリ話を素直に受け入れられたわけじゃないって。
 当然大混乱をしたけど、混乱が一周回ったら「自然の流れに逆らっても無駄」という農家の原則が降りてきて。
 「ま、いっか」という心理に落ち着いたんだよね。
 ともあれ、そんなギスギスした雰囲気のまま、私たちは入学式の行われる体育館へ誘導されることとなった。
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