16 / 42
第二話 入学式は波乱の幕開け
4 学校へ行こう!
しおりを挟む
朝食を終えたら、早速制服を着てみた。
「うーん、なんかちょっと大きいような気がする?」
姿見なんていう洒落たものは持ち込んでいない私は、洗面台の鏡で確認する。
男子の制服なんてサイズ感がわからず、いいのか悪いのかイマイチわからない。そしてネクタイなんて結べる気がしない。
神高……に聞いてみてもし無反応なら、常盤さんに言って制服を見てもらい、ネクタイを結んでもらおう。
そう考えた私が寝室を出てリビングに顔を出すと、既に制服に着替えていた神高が、ソファに座って新聞を読んでいた。
なんか、朝のお父さんっぽい構図だな、オイ。
「ねえ神高、これってなんか大きいかな?
実は採寸が間に合わなくて、既製品を用意してもらったんだけど」
恐る恐る声をかけてみると、神高がちらりと目線だけこちらへ向けた。
「……男女の骨格の差でしょう。同じ身長でも肩幅などが違ってくるでしょうし」
無反応化と思いきや、なんと的確な答えが返って来た。確かに、肩が少し余る気がするんだよね。
「間に合わせというのなら、どうせ後日ちゃんと作り直すのでは?」
「うん、そう言われてる」
神高の問いに、私は頷く。
「ならば、しばらくの辛抱です。
それから、ネクタイくらいちゃんと結びなさい」
「……結び方を知らない」
ネクタイのことを正直に言うと、神高は大きく息を吐き、バサリと新聞をテーブルに置いた。
「女子の制服はリボンタイですから、ネクタイの練習をしていなかったのも仕方ないかもしれませんね」
そう、そうなんだよ!
今度の制服は可愛いなぁ、ってくらいしか考えていなかったんだって!
ちなみに中学の制服は地味なセーラーだった。
なんか文句を言われるかと思いきや、そうでもなかったことにホッとする私に、神高がゆっくりと歩み寄る。
そして手早くネクタイを結んでくれた。
にしても、距離が近いぞ。
男とこんな近距離になるなんて、家族以外であっただろうか?
いや、ないな。
「早く覚えてください、困るのはそちらです」
最後に文句はなかったが小言をチクリと言われたものの、これで制服はバッチリだ。
にしても、神高が意外と親切だぞ?
それとも世話を焼くように言われているからとか?
それはあるかも、なにせわざわざ私につけられたボディガードみたいな存在だし。
そんなこんなをしていると、そろそろ寮を出る時間となった。
あ、ちゃんと持参するお茶は、沸かして水筒に詰めたよ。やっぱり飲み慣れたお茶っていいよね。茶葉が無くなったら送ってもらおうっと!
まあ、それはともかくとして。
この三階は高等部の新一年生のフロアらしく、廊下は同じように入学式へ向かう生徒たちでざわついていた。
入学式と言っても、私以外は中学からの持ち上がりだ。
けれど制服はデザインが変わるし校舎も移動となって環境が変わるため、気分がどこか浮足立つものらしい。
廊下のあちらこちらで制服姿を見せ合う様子が見られる。
こういう光景って、田舎も都会も変わらないんだな。
それにしても、同じ高校に行くはずだった友達も、今頃入学式準備でてんやわんやかな。
いや、今はバスで山越え中か、ぼちぼち学校に着いた頃かも。
それに比べれば、私ってば楽しているな。
私がそんな風に、故郷の友人たちに思いを馳せていると、二つ隣の扉が開く。
「おぅい、安城君!」
そして朝あったばかりの顔がニコリと笑う。
「あ、徳倉君。さっきぶりです」
私も小さく手を振ると、徳倉君が近寄って来た。
「食堂で会うかと思ってたのに、来なかったね」
どうやら食堂で私を探してくれたらしい徳倉君は、とてもいい人だと思う。
「うん、部屋で食べたんです。
寮監の常盤さんが気を使ってくれたみたいで、食事を持ってきてくれて」
「ああ、食堂に来たらきっと目立っただろうし、それがよかったかもね」
私の話を聞いて、徳倉君も訳知り顔で頷く。
すると、徳倉君の部屋から続いて人が出て来て、徳倉君と話している私の方を見た。
「お、コイツがさっき言ってた新入り君?」
そう話しかけてくるのは、背が高くてすらりとした体格の男子だ。
「そう、安城明日香君だよ」
「どうぞよろしく」
徳倉君に紹介されたので私はペコリと頭を下げる。
すると相手に「ヒュゥ♪」と口笛を鳴らされる。
「噂を聞いてどんなのが来るのかって思ってたら、すっげぇ普通じゃん。
俺はコイツのルームメイトの松川洋也、よろしくな」
そして、こちらもまたフレンドリーに応対された。
っていうか私ってどんな奴だと思われていたんだろう。
その噂が気になるところだ。
「ねえ、学校まで一緒に行こうよ!」
「いいですよ……あ」
徳倉君の安易に頷きかけて、私は駄弁っている間黙って立っていた神高の方を向く。
こちらは昨日の夕刻からの短い付き合いでも、あんまり集団で行動するタイプに見えない。
「一緒に登校」なんてうざったいと思われるだろうか。
そう心配してじっと見ていると、神高が短く息を吐いた。
「どうせ、向かう場所は一緒なのですから、誰と一緒でも構わないでしょう」
「そっか、そうだね!
じゃあ一緒に行きましょう!」
神高の了解を得たところで、改めて徳倉君に返事をしようと振り返ると。
「すごい、神高君が普通に会話してるよ」
「アイツ、教師相手でもガン無視するのにな」
徳倉君と松川君がヒソヒソしていた。
神高よ、君は同級生からどう思われているんだ?
「うーん、なんかちょっと大きいような気がする?」
姿見なんていう洒落たものは持ち込んでいない私は、洗面台の鏡で確認する。
男子の制服なんてサイズ感がわからず、いいのか悪いのかイマイチわからない。そしてネクタイなんて結べる気がしない。
神高……に聞いてみてもし無反応なら、常盤さんに言って制服を見てもらい、ネクタイを結んでもらおう。
そう考えた私が寝室を出てリビングに顔を出すと、既に制服に着替えていた神高が、ソファに座って新聞を読んでいた。
なんか、朝のお父さんっぽい構図だな、オイ。
「ねえ神高、これってなんか大きいかな?
実は採寸が間に合わなくて、既製品を用意してもらったんだけど」
恐る恐る声をかけてみると、神高がちらりと目線だけこちらへ向けた。
「……男女の骨格の差でしょう。同じ身長でも肩幅などが違ってくるでしょうし」
無反応化と思いきや、なんと的確な答えが返って来た。確かに、肩が少し余る気がするんだよね。
「間に合わせというのなら、どうせ後日ちゃんと作り直すのでは?」
「うん、そう言われてる」
神高の問いに、私は頷く。
「ならば、しばらくの辛抱です。
それから、ネクタイくらいちゃんと結びなさい」
「……結び方を知らない」
ネクタイのことを正直に言うと、神高は大きく息を吐き、バサリと新聞をテーブルに置いた。
「女子の制服はリボンタイですから、ネクタイの練習をしていなかったのも仕方ないかもしれませんね」
そう、そうなんだよ!
今度の制服は可愛いなぁ、ってくらいしか考えていなかったんだって!
ちなみに中学の制服は地味なセーラーだった。
なんか文句を言われるかと思いきや、そうでもなかったことにホッとする私に、神高がゆっくりと歩み寄る。
そして手早くネクタイを結んでくれた。
にしても、距離が近いぞ。
男とこんな近距離になるなんて、家族以外であっただろうか?
いや、ないな。
「早く覚えてください、困るのはそちらです」
最後に文句はなかったが小言をチクリと言われたものの、これで制服はバッチリだ。
にしても、神高が意外と親切だぞ?
それとも世話を焼くように言われているからとか?
それはあるかも、なにせわざわざ私につけられたボディガードみたいな存在だし。
そんなこんなをしていると、そろそろ寮を出る時間となった。
あ、ちゃんと持参するお茶は、沸かして水筒に詰めたよ。やっぱり飲み慣れたお茶っていいよね。茶葉が無くなったら送ってもらおうっと!
まあ、それはともかくとして。
この三階は高等部の新一年生のフロアらしく、廊下は同じように入学式へ向かう生徒たちでざわついていた。
入学式と言っても、私以外は中学からの持ち上がりだ。
けれど制服はデザインが変わるし校舎も移動となって環境が変わるため、気分がどこか浮足立つものらしい。
廊下のあちらこちらで制服姿を見せ合う様子が見られる。
こういう光景って、田舎も都会も変わらないんだな。
それにしても、同じ高校に行くはずだった友達も、今頃入学式準備でてんやわんやかな。
いや、今はバスで山越え中か、ぼちぼち学校に着いた頃かも。
それに比べれば、私ってば楽しているな。
私がそんな風に、故郷の友人たちに思いを馳せていると、二つ隣の扉が開く。
「おぅい、安城君!」
そして朝あったばかりの顔がニコリと笑う。
「あ、徳倉君。さっきぶりです」
私も小さく手を振ると、徳倉君が近寄って来た。
「食堂で会うかと思ってたのに、来なかったね」
どうやら食堂で私を探してくれたらしい徳倉君は、とてもいい人だと思う。
「うん、部屋で食べたんです。
寮監の常盤さんが気を使ってくれたみたいで、食事を持ってきてくれて」
「ああ、食堂に来たらきっと目立っただろうし、それがよかったかもね」
私の話を聞いて、徳倉君も訳知り顔で頷く。
すると、徳倉君の部屋から続いて人が出て来て、徳倉君と話している私の方を見た。
「お、コイツがさっき言ってた新入り君?」
そう話しかけてくるのは、背が高くてすらりとした体格の男子だ。
「そう、安城明日香君だよ」
「どうぞよろしく」
徳倉君に紹介されたので私はペコリと頭を下げる。
すると相手に「ヒュゥ♪」と口笛を鳴らされる。
「噂を聞いてどんなのが来るのかって思ってたら、すっげぇ普通じゃん。
俺はコイツのルームメイトの松川洋也、よろしくな」
そして、こちらもまたフレンドリーに応対された。
っていうか私ってどんな奴だと思われていたんだろう。
その噂が気になるところだ。
「ねえ、学校まで一緒に行こうよ!」
「いいですよ……あ」
徳倉君の安易に頷きかけて、私は駄弁っている間黙って立っていた神高の方を向く。
こちらは昨日の夕刻からの短い付き合いでも、あんまり集団で行動するタイプに見えない。
「一緒に登校」なんてうざったいと思われるだろうか。
そう心配してじっと見ていると、神高が短く息を吐いた。
「どうせ、向かう場所は一緒なのですから、誰と一緒でも構わないでしょう」
「そっか、そうだね!
じゃあ一緒に行きましょう!」
神高の了解を得たところで、改めて徳倉君に返事をしようと振り返ると。
「すごい、神高君が普通に会話してるよ」
「アイツ、教師相手でもガン無視するのにな」
徳倉君と松川君がヒソヒソしていた。
神高よ、君は同級生からどう思われているんだ?
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大正石華恋蕾物語
響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る
旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章
――私は待つ、いつか訪れるその時を。
時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。
珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。
それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。
『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。
心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。
求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。
命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。
そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。
■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る
旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章
――あたしは、平穏を愛している
大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。
其の名も「血花事件」。
体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。
警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。
そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。
目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。
けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。
運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。
それを契機に、歌那の日常は変わり始める。
美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
あやかし蔵の管理人
朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。
親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。
居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。
人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。
ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。
蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。
2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました!
※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。

人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる