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第二話 入学式は波乱の幕開け

2 早朝ランニングは身体にいい

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外はいい天気だった。

「桜も咲いているし、散歩日和だねぇ」

私は購入したお茶を飲みつつそんなことを呟きながら、寮の周りの小道を歩く。
 年々開花時期が早まっている桜だが。
 ここが山奥だからか、はたまたそういう品種だからか、いい感じに咲き誇っている。
 実家では入学準備で花見どころではなかったので、ここで桜を愛でることができるのは嬉しい。
 もう少し早く到着できていれば、お花見できたのかなぁ。
 ……いや、お花見するには誘う人がまだいないか。
 同室の神高は、誘ったら快く応じてくれそうなキャラには見えないし。
 一人だけで花見とか、微妙に寂しすぎる。
 桜を見て、気分が上がったり下がったりと忙しい私だったが。

 タッタッタッタッ

 軽快な足音が聞こえて来た。
 前を見れば、誰かが小道をこちらへ向かって来ている。
 私と同じくスウェット姿で、どうやらランニングをしているらしい。
 私からあちらが見えるということは、あちらからも私が見えるということで。
 相手はゆっくりと速度を落とし、私の前で止まった。

「あれー? 知らない顔だなぁ」

そう言って目の前で首を傾げるのは、小柄な男子だ。
 昨日のマルチーズ、じゃなかった万智先輩と同じくらいだろうか。
 けど可愛い系な万智先輩に比べれば、顔は普通に平均的男子の顔だ。

「おはようございます。
 私は昨日の遅くに着いた新入りなんで、よろしくどうぞ」

挨拶をしながら、ふと思う。
 もしかして、男子だったら俺とか僕って言ったほうがいい?
 でもいきなり口調って変えられないし、慣れないからたぶん変なしゃべり方になりそう。
 ならいっそ私で通して、丁寧語キャラでいったほうがいいかも。
 うん、そうしようかな。
 私が今後の方針について考えていると、相手はポン! と手を叩いた。

「ああもしかして、神高君と同室の人?
 だったら僕も同じ年で今日入学式だよ。
 僕は徳倉健司とくら けんじ、君たちの二つ隣の部屋なんだ」

ニパッと笑って握手に手を出される。
 おお、初対面からフレンドリーなのは、常盤さん以来だ。
 昨日から付き合い辛そうな人とばかり会ったせいか、そのフレンドリーさにとても感動した。

「安城明日香です、仲良くしてくれると嬉しいな」

差し出された手を握り、二人でニコニコブンブンと振り回す。

「にしてもあの神高君と同室って、どんな人だろうって皆で噂してたんだよぉ。
 意外と普通な人でホッとした!」

楽しそうに言ってくれる徳倉君だが、色々ツッコミたいのだが。
 今のセリフで「あの」ってところが強調して聞こえたのだが。
 神高と同室だと普通でない判定されるのが通常なのか?

「あの神高君、とはどういう意味で?」

気になることは聞いておけ、というわけで、率直に徳倉君に疑問をぶつける。
 すると徳倉君は、パチリと目を瞬かせてから「ああ!」と漏らした。

「安城君は昨日来たばっかりだったら知らないよね。
 この寮って中高一緒なんだけど。
 中学の頃っていうか、その前の初等部の頃から、神高君ってずっとルームメイトがいなかったんだよ」

私は速攻で「それは何故」と聞きたいが、聞きたくない気もする。
 だってこの言い方だと、絶対にろくでもない理由に決まっているじゃないか。

「そんな神高君のところの空き部屋に、急に人が入るっていう話でしょう?
 しかも滅多にない高等部からの新入生だし、きっとワケアリなんだって噂になってて」

まあ、ある意味ワケアリではあるな。
 パンダの子供的な珍獣ポストにいるという。

「昨日の夜もなんか騒ぎがあったし、どうしようかってルームメイトとドキドキしてたんだけど。
 神高君が出てきて納めちゃうから、ビックリしたよ。
 だって彼、そういうタイプじゃないもん」

それはなんとなくわかる。
 常盤さんも神高が出てきてくれて助かったって言ってたし、たぶん通常の彼だとまず顔を出さないのだろう。
 なんだ、もしかして神高も十分に珍獣ポストなのか?
 珍獣同士でまとめられちゃったみたいなことなの?
 まあこのあたりの事情は、追々追求するとして。

「にしても、徳倉君は早朝からランニングですか、健康的ですね」

私が話を振ると、徳倉君はまたニパッと笑う。

「僕ねぇ、あんまり身体が逞しくないでしょ?
 でもマッチョって憧れでさぁ。
 こうして地道に体力作りをしていれば、いつかきっとグーンと背が伸びて、ムキムキって筋肉つくかなって」

なるほど、マッチョ志望なのか。
 こういうのって努力以前に体質が大きいらしいから、明らかに痩せ体質っぽく見える徳倉君には厳しい望みだな。
 でも人って自分にないものに憧れるって言うもんね。
 それに体力作りはいいことだよ。
 それにゴリマッチョも細マッチョも無理でも、ちょいマッチョにはなれるかもしれないし。

「なるほど、マッチョは一日にしてはならずと言う、かもしれません。
 頑張ってください」

「ありがとう、僕頑張るよ!」

私のエールに、徳倉君はムン! と力こぶを作るポーズをする。
だが肝心の力こぶは確認できず、マッチョへの道のりはまだまだ遠そうである。
 ちなみに私のところは両親祖父母が皆体は逞しい方なので、私もその遺伝子を引き継いで逞しく育っているわけだ。
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