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第一話 いかにして私が「男子」になったのか

6 学園の事情

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「ここ誠心学園では、他の一般校と違う独自のヒエラルキーが存在する」

「ああそれ、なんかテレビで聞いたことがあります。
 スクールカーストでしたっけ?」

そんなものと縁のないほのぼのとした田舎の学校で育ったので、どんなものか想像つかない。
 そりゃ田舎だって子供内での上下関係はある。
 しかしそれは先輩後輩とか、ガキ大将とその子分とか、不良とか、そういう程度のものであり。
 普通の生徒をしている分には全く関係のない上下関係だったりする。
 中学も先輩後輩関係も比較的緩かったし。
 私の意見に、学園長が苦笑する。

「まあ似ているけれど、こちらの方がより深刻と言えるね。
 ここでは幼稚舎の頃から能力による序列に慣らされているから」

序列ってまた、なんか大仰だな。

「ちなみにどんな能力が偉いんですか?」

「強い能力、希少な能力だ。
 現在高等部で最も特別視されているのが、強力な発火能力を有する男子と、治癒能力者の女子だね。
 そんな価値観の中へ『能力未定』が紛れればどうなる?」

「……どうなるんですか?」

間抜け面で問い返す私に、学園長がため息を漏らしている。
 すみませんね、「私ってば能力者だってさ!」というドキドキワクワク感や、新しい環境への不安なんてのは、都会を迷っているうちに一緒に迷子になってしまったのですよ。
 昔から、緊張感が持続しないタイプなもんで。
 そんな私に、学園長がさらにわかりやすく教えてくれる。

「つまり、能力という絶対的な序列が存在する学園内で、『能力未定』……悪い言い方だと『無能』ともいえる存在である安城さんは、学園のヒエラルキーの最底辺ということになる。
 これがどれほど危ういことか、さすがに想像がつくのではないかね?」

今日一日色々あった最後に聞かされる面倒な話に、そろそろ私の脳みそがショートしそうになっているんだけれど。
 だからどういうことだ?
 能力自慢が日常な学園に、『無能』な存在が放り込まれる。
 そりゃあ馬鹿にされるわな。
 自慢するものがないんだから。
 そしてそういう場合には放っておいてくれればいいのに、率先して馬鹿にしに来る輩はいるもので。

「……えっと、『無能』だからって色んな人に絡まれるってわけ?」

脳みその最後の活力を絞って出した答えに、学園長が「やっとわかってくれたのか」とホッとした顔をする。

「そういうことだね。
 しかも滅多にない高等部からの急な編入。
 悪い意味で周囲の興味を引くのは確実だろう」

ああ、なんか小説や漫画のネタでよく見るよね、季節外れの転校生。
 暗い過去を背負っていたり、特異な力を持っていたり。
 とにかくすごく目立っていて、それまでの確立していた学校内の空気を、ハチャメチャにかき回す存在って奴。
 今の私が、まさにそのポジションになっているってわけか。
 なんか、すっごい面倒臭そうなんだけど。
 そんな気持ちがありありと表情に出ているであろう私に、学園長が前のめりに告げた。

「だからこそ、神高君との同室にしたのだよ」

ここで唐突に神高君の名前を出され、私は目を瞬かせる。

「あの人って、なんかスゴイ人なんですか?」

確かに、空を飛べるスゴイ人だけれども。
 あれか、なにかあったら私を抱えて飛んで逃げてくれる的な理由だろうか。

「まあ、そのあたりは追々わかるだろうけれど。
 君を守るという意味ではうってつけの生徒だよ」

私のボディガードをしてくれるってか、あのすかしたイケメン男子が。
 なんか私の勝手なイメージとしては、遠くから黙って見ていそうな奴に思えるんだけど。
 本当に大丈夫なの?

「そのうってつけの生徒とやらは、女子にはいないんですか?」

もしそういう人がいたら、そっちの方が断然いい。
 そんな少しの期待を込めて聞いてみたのだが。

「……残念ながらいないね。
 そして女子寮は、安城さんを守るには不向きな環境と言わざるを得ない」

デスヨネー。
 そんな人がいたら、とっとと女子寮に移れているか。

「それにどうして女子寮が不向きなのかも、きっとすぐにわかるよ」

やれやれ、といった口調で学園長が言う。
 つまり、どうあっても私が暮らすのは男子寮になるそうで。
 男子寮で暮らすからには、女子であってはいけないわけで。
 私、安城明日香は、たった今から男子として暮らすことになったのです。
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