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第一話 いかにして私が「男子」になったのか

1 田舎者、都会へ行く

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私が生まれ育ったのは日本でも超がつくド田舎で、そこで農家を営む安城家の家族構成は祖父母に両親、それに私を含めた兄弟姉妹合わせて子供が六人。
 いわゆる子だくさんの家庭だ。
 そんな一家の長子である私が通った小学校は、入学時に三年生までの合同クラスに五人しかいないという、超小規模校。
 中学校は山を二つほど挟んだ地域にある公立校に通うという田舎っぷり。
 しかもバスは一日二本しか走っていないので、乗り遅れたら通学不可能、帰宅不可能だったりする。
 私の故郷がどのくらいド田舎か、想像できただろうか?
 そのド田舎暮らしの私が突然、都会にある私立の高等部に通うことになったのだから、ご近所中が驚いた。
 なにせつい最近まで近く――といっても中学校からさらに山一つ向こうにある学校だが、そこに通う予定だったんだから。
 でも卒業を待つばかりだったある日、その予定は大幅に狂うこととなる。
 学校に知らない大人がやって来て、担任に呼び出されたかと思えば、心理テストみたいなものを教室で一人ぼっちで受けさせられ。
 その後もなんだかんだと色々検査を受けさせられた挙句、人払いがされた個室で言われたのが、「あなたは能力者です」だってさ。
 聞かされた私はまず「能力者ってなによ?」って思ったね、だってSFの世界じゃあるまいし。
 しかし説明されたことはびっくりな内容で、この現代ではすでに超能力は存在が確認されているんだって!
 しかも国の支援が出るレベルで!
 でもそんなSFじみた存在がいるなんて、どうして騒ぎにならないのかって思うでしょう?
 それは簡単な答えで、国が能力者を子供のうちに秘密裏に見つけ出し、保護しているから。
 そうした子を育て、教育するための学校まで創って。
 そんな能力者の子供がわんさかいる学校である、私立誠心学園高等部に、私も今年の春から通うことになったわけだけれども。
 学園に入学する原因である能力者うんぬんという話は秘密らしく、知っているのは私と両親のみ。
 祖父母と弟妹たちにすら知らせていない。
 なのでいつの間に都会の学校を受験していたのかと疑問を抱かれているが、適当なことを言ってごまかすしかない。
 それでも、こんな田舎から大出世だと、集落を上げてのお祝いをしてくれたんだが、大人たちはきっとこれを理由に宴会をしたかっただけだろうな。
 でもこの宴会は、しばらくここに戻れない私を送り出す会でもあった。
 実は誠心学園は全寮制で、私もこの春から寮生活となるのだ。
 学園の生徒の中には、幼稚舎から寮生活だっていう人もいるという。
 これって隔離っぽいけど、ちゃんと理由があるらしい。
 能力者は幼い頃に能力を表した子ほど、潜在能力が大きいそうで。
 それが破壊系だったり精神系の能力だったりすると、親子関係に重大な歪を生むからだって。
 まあそうだよね。
 親が能力者じゃなくて、もし自分の子供が急に火を噴いたりしたら怖いって。
 親も子供本人もトラウマものだろう。
 だからそうした子には自分の能力との付き合い方を教えて、社会に出て普通の人と一緒に生活するための教育を施すんだそうだ。
 まあでも、私の場合能力がどういったものなのか、まだ判別できていないけどね。
 なにせ発覚したのが中学の卒業間際だったせいで、色々と時間が足りず、詳しくは学園に来てからと言われている。
 ともあれ、そうやって入学式前日の今日、地元から送り出された私は、一人で電車を乗り継ぎえっちらおっちらやってきたんだけれど。
 これがまた、実に長く険しい道のりだった。
 朝の暗いうちから移動を始めて、乗りなれない電車に長時間揺られ。
 昼食時になってお腹が空いても、都会のオシャレな軽食屋に一人で入って注文する勇気が持てず、結局都会のオシャレなコンビニで、おにぎりとサンドイッチを買って駅前のベンチで食べ。
 それから誠心学園行きのバスが出るバス停を探して迷子になり、ようやくバスに乗れたかと思えば、下ろされたのは山のど真ん中ときた。
 ウチの小学校と同レベルで山の中なんだけど、本当にこんな山の中に学校があるの?
 疑問に思いながらもバス停近くに立て看板があったので、それに従って歩くが、これまた結構な距離だ。
 しかもその間、人っ子一人出会わない。
 誠心学園の生徒とか教師とかとすれ違いそうなものなのに。
 それからしばらくしてやっと「誠心学園」と書かれた門を発見した頃には、もう日が暮れようとしていた。
 そしてヘトヘトになっていた私が門をくぐって最初に見たのは、だだっ広い駐車場だった。
 校舎でも寮でもなかった。
 しかしよく見ればはるか向こうに建物が見える。
 あそこがゴールだと考えていいのだろうか?
 それでも遠すぎるというもので、ここはウチの中学の何倍あるのか。
 しかも人影がない上に車が停まっておらずがらんとしており、ここでも誰とも出会えそうにない。
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