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プロローグ

2 私の朝の日常

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「はい? タオルですか?」

私の唐突な話に、神高が怪訝そうな顔をする。
 まあ、脈絡もなく「タオルを持って行け」と言われたら、反応としてはこうなるわな。

「たぶん必要だから」

「必要な意味がわかりません」

私の念押しに、神高がしかめ面をしたとき。

「そこの新入りと神高ぁ!」

外から声が聞こえて来た。

「俺を待たせるたぁいい度胸だ!
 早く降りて来いやぁ!」

この学園に来てからほんの数日だが、すっかり聞きなれてしまった声に、私は肩を落とす。

「……別に待ってくれなんて頼んでいないのですけどね」

興味なさ気な神高だが、無視するとまた面倒なことになったりする。

「ねえ、少しは構ってあげないと、またボヤ騒ぎ起こされて巻き込まれるよ?」

そう、実力行使に出た相手のせいで寮の入口付近がちょっとした火事になり、色々大変なことになったのはつい先日のことだ。

「面倒な先輩ですね、全く」

神高もそのことを思い出したのか、眉をひそめてから下駄箱に靴を採りに行くと、窓枠に足をかけてひらりと外に身を投げる。
 ちなみにここは三階だ。
普通に考えれば投身自殺以外の何物でもない行為なのだが、数秒後には地面で平然としている神高の姿があった。

「部屋の鍵、閉めてから来るね~」

私はブンブンと下に向かって手を振り、急いで戸締りをしてから出ようとしたところで、厚手のタオルを一枚掴んでから外に向かって急ぐ。
 もうそろそろ騒ぎも収まっているかなと思いつつ、寮の玄関に差し掛か多ところで。

「毎回、朝から騒がしい!
 静かに登校できないのか⁉」

これまた聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
 なんか、揉め事が拡大している予感。
 果たして、私がそろりと外を覗いてみると。

「うわぁ……」

一部の空間だけが濃い水蒸気に覆われていて、その中心に神高の姿が確認できた。
 何故にこんな現象が起きたのかは簡単で、能力者同士のぶつかり合いの副産物だ。
 そして水蒸気の真っただ中にいる神高は、当然ぐっしょり濡れていると思われる。
 この現象を引き起こした犯人たちはこの状況をマズいと思い、さっさと逃走したのだろう、周辺に姿はない。
 まあ、グズグズしていると神高からお仕置きされちゃうもんね。
 基本荒事は好まない神高も、降りかかった火の粉は払うだろうし。
 ともあれ、私はしばらく待って水蒸気が空気中に散ったのを見計らい、神高に近づく。

「ほら、タオル必要だったでしょう?」

私がそう声をかけると、掴んだままだったタオルを差し出す。
 神高はそれを受け取りつつ、ジト目で睨んでくる。

「……なるほど、これが『予知』ですか。
 けど安城、もしやこうなることを知っていたのなら、タオルよりそちらを話すべきではなかったですかね」

不機嫌そうな神高だが、そんなこと言われたって、私の『予知』はポンコツ仕様なんだってば。
 「タオルがいる!」っていうことしかわかんなかったんだから、仕方ないじゃないか。
 まあ、『予知』の能力については、知られるとヘタすれば監禁される危険もあるため、秘密なんだけれども。
 そんな私の身の危険を案じた学園側が、ボディガード代わりにつけたのが、この神高というわけだ。
「それより、早くしないと本当に遅れるんじゃない?」
今のやり取りでかなりの時間をロスしたのだ。すでに周囲に生徒の姿はない。
「さっさと行きますよ。なんなら飛ばしてあげましょうか?」
神高がそんなことを言ってきたが、断固拒否である。
「絶対にイヤ! 全速力で走るほうがマシ!」
あの恐怖体験を、忘れるには時間が短すぎる。
 この恐怖体験の内容もそうだが、どうして私が神高と同居生活をすることになったのか。
 お願いだから誰か聞いてくれないかな。
 そしてホームルームに間に合いそうにないため、結局飛ばされる羽目になった私、かわいそうじゃない?
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