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第52話

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 クインクウィは長髪を妖艶に靡かせると、近くにいる仲間2人に声をかける。

「心配させたね。特にナゲキス」

 風心クインクウィは、【ディスキル】で呼び出せなかっただけで、その存在が消えたわけではなかった。なので、デュペルの中にいながら、今まで起きたことはだいたい把握していた。

「別に。私はすぐに戻ってくると思ってたし。あんな爬虫類ぶっ飛ばしたら、すぐにあの魔人をぶん殴るつもりだったし」

 ぶっきらぼうな態度を取るナゲキスだったが、その表情からは安堵感が漂っていた。サブリーダー的な立ち位置で動いていたのもあって、少し肩の力が抜けたのかもしれない。

「そうかい。
 それじゃあ私は、休んでいた分の仕事を取り戻さなきゃだね」

「クインクウィさん、相手はだいぶ強そうだけど、なんとかなりそう?」

 氷刃のシェントルマは、デイダイオウの【マッドブレス】と真っ向から勝負をした。そこである程度、相手のレベルや強さを予想していた。

「もちろん。風心雷心のメンバーが揃っているんだ。私たちはどんな敵にも対応できる。私はスカウトした君たちを信じているよ」

 風心雷心は、【デュアルシフト】ありきのパーティーだ。異なる2つの系統を使えることを強みにし、仲間も不利な相手が出来ないような構成にしていた。
 このパーティーは、彼女が綿密に考えた理想的な部隊なのである。

 それを聞いた2人は、照れくさそうにしていた。
 ナゲキスはそれを隠したが、シェントルマは素直に褒め言葉として受け取っていた。

「アシトンっ! 君も、いや君たちも復活したかい?」

 次に彼女が声をかけたのは、精霊使いのアシトンだった。彼女はいつのまにか、仲間のトーマガイの傍まで移動していた。彼といれば安全と考えたのだろう。
 草むらの中からひょっこりと顔を出し、クインクウィに応答する。

「はい。うるさい奴も、準備万端です」

 まだ召喚はしていないが、精霊使いのアシトンは、自分の中にいる相棒を取り戻せたことを理解していた。
 これでようやく人の役に立てると、やる気十分な表情をしている。

「トーマさんは、きっと同じような事考えているだろうな」

 クインウィは、アシトンの横でどっしりと構えているねんごろのトーマガイを見つめる。それが伝わったのか、トーマガイは親指を上げて頷いていた。
 彼は、若者たちの事を理解したいと常に思っている。なので、特に仲間の力はよく分かっているつもりだし、リーダー同様、深い信頼を置いているはずだ。

「それに今回は、ゲストまでいるんだ。
 これで倒せない、私たちじゃないさ」

 風心クインクウィが、次に対話をしたのは、チームCに該当する冒険者パーティー・光炎万丈の3人だった。

「おーい、君たち。これから作戦を伝えようと思うけど、私たちに協力してくれるか~い?」

 本当は近づいて話したいところだったが、地面が泥まみれなことと、デイダイオウに射撃される危険性があったので、遠くから話しかけた。

「ん? あれ? なんか変わってるじゃねぇか! いや、最初は女だったっけ? 
 ん~、なんか分かんなくなってきたぞ!」

 急に出現したクインクウィに、炎使いゲッキは少々混乱していた。魔人特有の2本角を掴んで、風心クインクウィの存在を思い出す。

「落ち着いてゲッキ。私もよく分かってないから」

 そんな炎使いゲッキの肩を叩くのは、水虎使いのシヲヌだった。彼女たちは【デュアルシフト】について何も聞かされていないので、変身したことへの理解が追いつかなかった。

「とにかく一緒に戦いましょ~う。ってことだと思うよ~」

 狸人・土蹴りのリマンロは、すぐに戦う準備をし始める。求められればそれに答える。のが、彼女の信条である。

「もしかして、あいつならなんとかしてくれんのか? 
 おい、え~と、リーダーさんよ! 
 今は仲間なんだ。もちろん、バンバン戦わせて貰うぜ!」

 炎使いゲッキは、深く考えずに快く了承した。今回の合同クエストではお互い初見だが、ゲッキはすでに一緒に戦う仲間、という認識を持っているようだ。

「感謝するよっ! 
 よし、みんな! これから作戦を伝える! 
 全員で、あいつを倒そうじゃないか!」

 クインクウィは全員の耳に聞こえるように、高らかに宣言をする。
 どうやら、彼女の中では1から100まで、戦いの作戦が思い浮かんでいるようだ。

 彼女の声を聞いた仲間たちはそれに呼応する。

「やっと、本番! って感じだね」

 盾を構えるナゲキス。リーダーのクインクウィと共に戦えるようになって、どこか嬉しそうだった。

「氷が役に立つと、いいんだけど」

 氷刃のシェントルマは、いまいち活躍できていないことを、情けなく感じていたようだ。自分に出来る事なら、精一杯やるつもりのようだ。

「ふぅ、マノワル……。もうちょっと、待っててね」

 精霊使いのアシトンは、今までうっとうしく感じていたこともあったマノワルに対して、寂しさを感じていた。彼を再び召喚できる喜びが、彼女を奮い立たせる。

「この身、朽ち果てるまで、みなと共に歩むだけだ」

 ねんごろのトーマガイは、若い冒険者の中に1人だけ老体が混じっている事を気にしていた。だからこそ、彼らのために力を尽くすことを誓っていた。

「あの泥だんごはおっかねぇけど、なんかワクっとしてきたぞ! 
 大所帯も悪くねぇな!」

 基本3人パーティーだったので、炎使いのゲッキはこんな状況でも楽しんでいるように見受けられた。

「うんうん、あと10人は欲しいね」

 好意的な意見を言うわりには、やはり真顔で暗いテンションの水虎使いシヲヌ。

「あ~、ちゃんと作戦があるっていうのも、おつですね~」

 クインクウィに作戦を授けられることに、妙な高揚感を覚える土蹴りのリマンロ。いつもはゲッキに頼られてはいるものの「なんとかしてくれ!」という漠然としたものが多い。

 ここに集まるは、内側に眠る者を含めて10名の冒険者たち。
 異なる2つのパーティーが、対峙するのは、いるはずのないオオサンショウウオ型のモンスター・デイダイオウ。

 ついに、彼らの反撃が始まるのだった。
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