上 下
48 / 54

第48話

しおりを挟む
「……じゃあ、最後に一言だけ。
 さっきは助かったよ」

「……ん? なんのこと……?」

 ゼマは彼女にお礼を言われるようなことをしたかなぁ、と思い出す。そしてすぐに、クリスタルロッドを魔人ハライノスに投げつけた時の事ではないのかと考えた。正確には、あの時はまだクララではなくララクだった。けれど、あのおかげで【デュアルシフト】は正常に作動した。

「っあ、もしかして、あれのこ……」

 ゼマが答えようとしたとき、その先を聞かずにクララがスキルを発動してしまった。

「またね、ゼマ。
 【デュアルシフト】」

 今度こそ【デュアルシフト】が発動を開始した。クララの体は魔力に包まれ、別の姿へと変化していく。

「っげ、逃げられた。
 でも、ちょっとは心開いてくれたかな。
 もしかして、ツンデレ~?」

 クララがいなくなったというのに、ゼマは彼女をいじるような発言をする。ずっとニヤニヤしており、もう次会って何を話そうか考えだしていた。

 しばらくすると、【デュアルシフト】の効果により、クララはララクにバトンタッチをすることになる。

 ララクは目をつむったまま顕現すると、ゆっくりと瞼を開く。さっきまでクララの視界を通して同じ景色を見ていたはずだが、なんだか違った世界を見ているようでならなかった。

 目の前には、ずっと笑みをこぼしているゼマの姿があり続けていた。

「っお、戻ったんだ。あんたさぁ、あんな可愛い子ちゃんがいるなら、はやく紹介しなさいよ」

 ゼマはフランクな対応で、彼の胸を肘で突っつく。何故クララの事を話していなかったのか、純粋に疑問でもあった。

「すいません。一度外に出したことあったんですけど、本人が出るの嫌がっていて」

 ララクは【追放エナジー】を獲得して、少ししてから彼女の存在に気がついた。そしてどんな人物かと気になり前に出て貰ったが、全く乗り気ではなかったのだ。
 理由はやはり、クララが自分の存在意義を見いだせていなかったせいだろう。

「そっか。じゃあさ、あっちから出たいって思うぐらい、仲良くなんなきゃね。
 ララク、あんたもちゃんとクララを呼び出すんだよ」

「っは、はい。承知しました」

 ララクは苦笑いを浮かべる。あまり話したくないクララと、それに反して仲を深めたいゼマ。板挟みになって、ララクは困惑していた。

 今まではゼマと2人だけのパーティーだったので、彼女と気が合いさえすればそれでよかった。けれど、もう1人の存在が公になったことにより、そことのバランスも考えなければいけなくなった。
 リーダーという大変さを、ララクは少しずつ感じ始めている。

「っあ、そうだ。どうやら力は元に戻ったみたいです。随分、体が軽いです」

 ララクは封印されたいくつものスキルが、再び使用可能になったことを体感し始めている。アクションスキルに関しては使ってみないと分からないが、常時発動型のパッシブスキルは、使用可能か不可能なのかが感覚ですぐに分かるようだ。

「ようやく、最強の復活だ。
 よーし、これで一件落着……。あれ?」

 ゼマは厄介な相手を退けたと、大きくのけぞり背中を伸ばしていく。しかし、何か大事なことを忘れていることに気がつく。

「そうです、まだクエストは達成していません。
 他の皆さんも気になりますし、先を急ぎましょう」

「はぁ、そっかぁ。今までのタダ働きかぁ。ショックぅ……。
 帰りてぇ~」

 愚痴をこぼすゼマ。
 確かに魔人ハライノスとカエル掃討作戦に直接のかかわりはないかもしれない。

 だが、クエストに全く貢献していないわけではなかった。

 魔人ハライノスによって【ディスキル】されたスキルを取り戻したのは、彼だけではないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目
ファンタジー
~コミュ障だけど最強で、可愛いお姉さんに溺愛されてます~ 遠野蓮(とおの・れん)は、中学1年生にしてダンジョン配信者になった。 危険のあるダンジョン配信は、最低でも高校生にならなければ許可されないところ、彼だけはその実力から特別に許されたのだ。 蓮を支援しているのは、とある財団。ダンジョンの発生により家族を失った孤児を保護する事業を行っている団体だ。蓮は、その財団がスポンサーを務める事務所と専属契約を交わし、配信者デビューすることになった。 しかしまだまだ中学生。生活面ではサポートが必要。ということで、ダンジョンに最寄りの学生寮に住み込むことに。しかしそこは高校の寮……しかも女子校!? 蓮と同室するのは、柊結乃(ひいらぎ・ゆの)。ダンジョンで蓮が助けたことのある高校2年生。世話好きで、でもちょっと抜けていて、食べるのが大好きなお姉さんだ。ダンジョン配信者になるのが夢で、高校で勉強中だがまだまだ素人。 そんな結乃を助けたのがきっかけで、まさかのカップル配信開始!? 蓮は結乃にダンジョン探索のいろはを教えながら……夜は、結乃にお世話されながら同棲生活を過ごすことに。人前ではガチガチに緊張してしまうが最強の蓮と、戦闘は素人でもコミュ力の高い結乃のコンビはすぐに人気を獲得する。 人付き合いが悪く愛想のない蓮だが、結乃をはじめ年上のお姉さんたちにはそこも可愛く映るらしく……? 結乃たちに溺愛されながらの騒がしい日々が蓮を襲う! ※メインヒロインは1人ですが、出てくるお姉さんたちをほぼ全員堕としてしまいます。 ※他サイトにも掲載しています。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

転生人魚姫マコの逆襲

 (笑)
恋愛
海野真魚(うみのまお)は、水泳部に所属する普通の女子高生。ある日、川で溺れている少年を助けた際に命を落としてしまうが、目を覚ますと異世界の海底王国で人魚の姫・マコとして生まれ変わっていた。新たな世界で姫としての責務を果たしながら、マコは王国に潜む陰謀や新たな脅威に立ち向かうことを決意する。彼女は銀鱗の守護者として、王国を守る力を手に入れ、数々の試練を乗り越えていく。海の深淵に潜む敵との戦いが迫る中、マコは王国を救うために奮闘し、自分自身の運命と向き合うことになる。

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

結婚式当日に私の婚約者と駆け落ちした妹が、一年後に突然帰ってきました

柚木ゆず
恋愛
「大変な目に遭ってっ、ナルシスから逃げてきたんですっ! お父様お姉様っ、助けてくださいっ!!」  1年前、結婚式当日。当時わたしの婚約者だったナルシス様と駆け落ちをした妹のメレーヌが、突然お屋敷に現れ助けを求めてきました。  ふたりは全てを捨ててもいいから一緒に居たいと思う程に、相思相愛だったはず。  それなのに、大変な目に遭って逃げてくるだなんて……。  わたしが知らないところで、何があったのでしょうか……?

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

処理中です...