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動機の探り
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私たちが殺害現場を捜査している間、動機探偵 一党良打は残った二人に話を聞いている最中だった。
「えー、では山井さんからお話をお聞きしましょうか」
親ほど年の離れた渋い一党さんを前に、山井は圧倒されていた。一党さんはめったに笑うことがなく、知り合いの私でもその鋭い眼光にはなれないものだ。
「話せることは警察にほとんど話しましたけど」
「そうおっしゃらず、ほんの些細なことでもいいですから」
見た目に反して物腰柔らかに話す一党さんを見て、少しだけ山井の警戒が薄まった。これも彼のテクニックである。話を聞きだすには、まず状況を整えなければいけない。
最初に山井から話を伺っているのも、まだ情緒不安定な様子の比嘉を見かねてだった。
「それではいくつか質問させてい頂きます。灰城さんとの間に何かトラブルなどはありましたか? もめ事をしたりなど」
「いえ、俺と健は親友だったし、この旅行も仲良く過ごしてました」
「では、周りはどうですか?」
「周りって、健は皆とも仲がよかったです。付き合ってる比嘉さんとは口喧嘩はしてますけど、それも仲がいい証拠というか。新垣さんともよく話してると思いますよ」
昨日の海での出来ことなどを聞いた限りでは、彼らの間で殺人に発展する程の出来事はなかったように思える。もしあるとすれば、彼らが故意的に隠しているかもしれないが。
「それも聞きたかったんですが、どちらかというと聞きたいのはあなたのことです。山井誠さん」
一党さんの目つきがさらに鋭くなり、威圧感が増した。何か気になることがあるようだ。
「お、俺ですか? だから、健とは仲がよかったって……」
質問の意図が理解できない様子の山井の声を遮るように、一党さんが喋り始めた。
「比嘉さんとはどういう関係でしょうか? ただの友人、だけですか?」
この質問に対して山井だけではなく、うつむいていた比嘉も反応した。突飛とも思える発言だが、一党さんは何かを感じ取っているのかもしれない。
「も、もちろんですよ。確かにこうやって旅行に行ったりしてるので、話す機会は多いですよ。でも、それ以上の関係はありませんよ。だよね、希恵ちゃん」
心当たりがあるから戸惑っているというよりは、必死に無実を証明しようとしているように思える。
「誠との間には友人以上の感情はありません。私は、私は健しか愛してませんから……」
彼女は言葉にしてみて、本当に失ってしまったんだという現実を感じだしているようだった。私は恋愛感情に疎いので断言できないが、彼女は灰城健のことを心から思っていたようだ。
「そうですか。大変失礼しました。実は、殺害の動機で恋愛関係というのは多いと言われているんです。あとは金銭によるトラブルも多いですね。ですので、もし山井さんが比嘉さんに特別な感情を持っていたとしたら、灰城さんに嫉妬し殺害してもおかしくないかと。ただの憶測で聞いただけですので、お気を悪くしないでください」
動機探偵 一党良打は、今のように人間の感情から事件を紐解いていく手法をとっている。当たり前だが、動機があればその人物が犯行を行った可能性は非常に高い。
彼は探偵をやる前は刑事をやっていた。警察内部では彼をしならないものはいないほど有名だ。斉田刑事が敬意を示しているのはそういう理由があるからだ。
様々な犯罪者を見てきた一党さんは、それと同じ数の動機をしっているということだ。その経験を生かして、今は探偵として活躍をしている。
「誠君は、誰とも交際してませんよ」
一党さんにそういったのは、二階から降りてきた新垣だった。私に現場に違和感がないか聞かれああと、彼女はリビングに戻っていた。
「それは本当ですか?」
「ええ、まあ。恥ずかしい話、女性と交際した経験がないので」
嫌そうに答える山井。プライベートなことなので聞かれたくないのだろう。そんな彼を見て、一党さんは不思議に感じている。山井の容姿が美男子だから、今までに彼女の一人や二人いたと思っていたのだろう。私もそうだ。
「私からみても希恵ちゃんと誠君の間に、その、男女の関係があったとはとても思えません」
今まで大人しいイメージの彼女だったが、この時だけは自信をもって主張していた。
一党さんは彼女たちの目を見て嘘を言っていないと判断したのか、この話はいったん中断をした。
そのあとも新垣を交えて、昨日の海での出来事やバーべーキューについて聞き出したが、これと言った進展はなかったようだ。
しばらくしたころ、二階で捜査していた才色と斉田刑事、それに私自身も降りてきた。一通り現場を調べたので、容疑者三人に詳しい話を聞こうと思っていた。
リビングにやってきた私は、ソファでぐったりと座り込んでいる比嘉に近づいた。彼女からは、海ではしゃいでいた時のような元気は感じられない。
「比嘉さん、深夜の二時から四時ごろ隣で大きな物音はしませんでしたか?」
灰城は棚に頭をぶつけていたので、その際に大きな鈍い音が響いたと考えられる。どれくらいの音量だったかは憶測するしかないが、少なくとも隣の部屋にいた彼女には聞こえたのではないだろうか。それが分かれば、さらに正確な時間が判明することになる。
「物音ですか。すみません、酔っていて夜のことはほとんど覚えてないです」
私が危惧していた答えだった。泥酔していた彼女が物音に反応しなかったのは予想できた。もしや、それを犯人は知っていたから、灰城の部屋で犯行に及んだのだろうか。それとも……。
「私思ったんだけどさ、酔いつぶれてた彼女には、犯行は無理なんじゃないの? 凶器はわかんないけど、重いことは間違いないでしょ? それを女性の力で、しかも酔ったまま頭にぶつけるのは難しいよね」
空想探偵の才色が珍しくまともなことを言った。確かに私もそれは感じていた。死体が棚に頭をぶつけていたということは、当初の予想通り灰城は後ろから殴られ、前に倒れこんだということだ。
死体が床に寝転がっている状態なら、球体の何かを落とせば女性の力でも殺すことはできるだろう。
けれど、今回はそうではない。女性のどちらかが犯人だとすると、被害者の頭部にぶつけられるように一工夫しなければいけない。どちらにせよ、凶器が判明しないと進まない話だが。
「酔ったまま殺すのが難しいことは認めよう。しかし、俺は酔った殺人鬼を何人も見てきた。そもそも、酔っているのが嘘だとしたら? 酔っていれば容疑者から外されると思って、あえて酒を大量に摂取したのかもしれない。まだ、彼女は容疑者からは外れていない」
才色のもっともな意見を、論理的な言葉で一党さんが否定をした。どちらの意見も正しく思えるが、推論の域は超えない。まだ、彼女が犯人だという証拠も、そうではないという証拠もそろっていない。
「私は健を殺したりなんかしません。なんで、恋人を殺さなくちゃいけなんですか!」
容疑者として扱われていることに、比嘉はとうとう腹を立てたようだ。彼女からしたら、探偵たちの推理にもてあそばれているようなものだ。
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて」
感情が爆発しだした比嘉を、新垣がなだめていく。比嘉は抑えきれない怒りを必死でこらえていた。その怒りは私たちに対してか、それとも自分自身にか。残念ながら、私は全てを理解することはできない。
「失礼、可能性の話ですから」
「う~ん。他に手がりはないかな~」
この場の空気はさっきよりも増して最悪だった。容疑者は一行にしびれず、三人は慰め会いながらも疑心暗鬼に陥っている。この中に殺人犯がいると、心の奥に眠る疑いがむしばみ始めているだろう。
探偵たちもまた、捜査に行き詰まり表情がいいとは言えなかった。凶器はいまだ判明せず、人間関係にもつれはない様子。これでは、推理のしようがない。
私は新たな手掛かりを得ようと、次の行動に移ることにした。
「リビングを調べたいのですが、最後に使用したのは誰でしょうか?」
「俺ですけど」
「それでは山井さん、一緒に来てもらえますか?」
私は凶器の手がかりを見つけるべく、山井と共にリビングからキッチンに移動した。
「じゃあ、俺は現場を見てくる。お前らが見て何もないなら、進展はなさそうだがな」
「案内しますよ」
そういって一党さんと斉田刑事は事情聴取を取りやめて、二階に移動していった。
「私はガールズトークしてよう」
リビングに残った才色は、とてもそんなことができる状況ではないのにもかかわらず、女性二人に近づき話かけていった。事情聴取なのだろうが、才色は何故か上機嫌だった。
そんな才色をみた比嘉は、怒りを忘れて呆れていた。空気を読まないというのは恐ろしいものだ。
私はキッチンに移動すると周囲をくまなく見渡した。シンクには朝ごはんに使われた皿が洗われてないまま放置されていた。それに対し、三角コーナーのゴミはすでに処理されていた。
冷蔵庫は使用頻度が少ないためか小型の物で、その近くにクーラーボックスが置いてあった。あとは食器棚と電子レンジに、ゴミ箱が置いてあるぐらいだ。
箱の横には、まだ捨てられていない生ごみの袋を発見した。朝の忙しさで処分し忘れたと思ったが、どうやら違ったようだ。
「今日は生ごみの日ではないようですね」
近くの壁にごみの分別を記載した紙が画鋲で止められていた。これによれば、今日の金曜日は不燃ごみになっている。可燃ごみは火・木・土と指示されている。
つまり、生ごみを出す曜日ではないのに、ゴミ箱から出され袋が縛られているのだ。
「それは俺がやりました。住んでるマンションが、今日は可燃ごみなのでつい癖で」
一緒についてきてくれた山井が説明してくれた。彼の言い分に不自然なことはない。
私は生ごみの入った袋をじっと見つめた。卵の殻に野菜や果物の皮、特別不思議なものは入っていない。
「なるほど。そういうことでしたか」
ここでようやく、私は凶器が何なのかを知りえることができた。そして、これによって事件の真相にもたどり着くことができたようだ。
才色の考察通り、犯人は凶器を隠すのではなく消す方法をとっていたようだ。
「すみません。全員、リビングに集まってもらってもよろしいでしょうか」
私は事件の全貌を説明すべく、全員を集めることにした。
そして、ついに謎が解き明かされることになるのだった。
「えー、では山井さんからお話をお聞きしましょうか」
親ほど年の離れた渋い一党さんを前に、山井は圧倒されていた。一党さんはめったに笑うことがなく、知り合いの私でもその鋭い眼光にはなれないものだ。
「話せることは警察にほとんど話しましたけど」
「そうおっしゃらず、ほんの些細なことでもいいですから」
見た目に反して物腰柔らかに話す一党さんを見て、少しだけ山井の警戒が薄まった。これも彼のテクニックである。話を聞きだすには、まず状況を整えなければいけない。
最初に山井から話を伺っているのも、まだ情緒不安定な様子の比嘉を見かねてだった。
「それではいくつか質問させてい頂きます。灰城さんとの間に何かトラブルなどはありましたか? もめ事をしたりなど」
「いえ、俺と健は親友だったし、この旅行も仲良く過ごしてました」
「では、周りはどうですか?」
「周りって、健は皆とも仲がよかったです。付き合ってる比嘉さんとは口喧嘩はしてますけど、それも仲がいい証拠というか。新垣さんともよく話してると思いますよ」
昨日の海での出来ことなどを聞いた限りでは、彼らの間で殺人に発展する程の出来事はなかったように思える。もしあるとすれば、彼らが故意的に隠しているかもしれないが。
「それも聞きたかったんですが、どちらかというと聞きたいのはあなたのことです。山井誠さん」
一党さんの目つきがさらに鋭くなり、威圧感が増した。何か気になることがあるようだ。
「お、俺ですか? だから、健とは仲がよかったって……」
質問の意図が理解できない様子の山井の声を遮るように、一党さんが喋り始めた。
「比嘉さんとはどういう関係でしょうか? ただの友人、だけですか?」
この質問に対して山井だけではなく、うつむいていた比嘉も反応した。突飛とも思える発言だが、一党さんは何かを感じ取っているのかもしれない。
「も、もちろんですよ。確かにこうやって旅行に行ったりしてるので、話す機会は多いですよ。でも、それ以上の関係はありませんよ。だよね、希恵ちゃん」
心当たりがあるから戸惑っているというよりは、必死に無実を証明しようとしているように思える。
「誠との間には友人以上の感情はありません。私は、私は健しか愛してませんから……」
彼女は言葉にしてみて、本当に失ってしまったんだという現実を感じだしているようだった。私は恋愛感情に疎いので断言できないが、彼女は灰城健のことを心から思っていたようだ。
「そうですか。大変失礼しました。実は、殺害の動機で恋愛関係というのは多いと言われているんです。あとは金銭によるトラブルも多いですね。ですので、もし山井さんが比嘉さんに特別な感情を持っていたとしたら、灰城さんに嫉妬し殺害してもおかしくないかと。ただの憶測で聞いただけですので、お気を悪くしないでください」
動機探偵 一党良打は、今のように人間の感情から事件を紐解いていく手法をとっている。当たり前だが、動機があればその人物が犯行を行った可能性は非常に高い。
彼は探偵をやる前は刑事をやっていた。警察内部では彼をしならないものはいないほど有名だ。斉田刑事が敬意を示しているのはそういう理由があるからだ。
様々な犯罪者を見てきた一党さんは、それと同じ数の動機をしっているということだ。その経験を生かして、今は探偵として活躍をしている。
「誠君は、誰とも交際してませんよ」
一党さんにそういったのは、二階から降りてきた新垣だった。私に現場に違和感がないか聞かれああと、彼女はリビングに戻っていた。
「それは本当ですか?」
「ええ、まあ。恥ずかしい話、女性と交際した経験がないので」
嫌そうに答える山井。プライベートなことなので聞かれたくないのだろう。そんな彼を見て、一党さんは不思議に感じている。山井の容姿が美男子だから、今までに彼女の一人や二人いたと思っていたのだろう。私もそうだ。
「私からみても希恵ちゃんと誠君の間に、その、男女の関係があったとはとても思えません」
今まで大人しいイメージの彼女だったが、この時だけは自信をもって主張していた。
一党さんは彼女たちの目を見て嘘を言っていないと判断したのか、この話はいったん中断をした。
そのあとも新垣を交えて、昨日の海での出来事やバーべーキューについて聞き出したが、これと言った進展はなかったようだ。
しばらくしたころ、二階で捜査していた才色と斉田刑事、それに私自身も降りてきた。一通り現場を調べたので、容疑者三人に詳しい話を聞こうと思っていた。
リビングにやってきた私は、ソファでぐったりと座り込んでいる比嘉に近づいた。彼女からは、海ではしゃいでいた時のような元気は感じられない。
「比嘉さん、深夜の二時から四時ごろ隣で大きな物音はしませんでしたか?」
灰城は棚に頭をぶつけていたので、その際に大きな鈍い音が響いたと考えられる。どれくらいの音量だったかは憶測するしかないが、少なくとも隣の部屋にいた彼女には聞こえたのではないだろうか。それが分かれば、さらに正確な時間が判明することになる。
「物音ですか。すみません、酔っていて夜のことはほとんど覚えてないです」
私が危惧していた答えだった。泥酔していた彼女が物音に反応しなかったのは予想できた。もしや、それを犯人は知っていたから、灰城の部屋で犯行に及んだのだろうか。それとも……。
「私思ったんだけどさ、酔いつぶれてた彼女には、犯行は無理なんじゃないの? 凶器はわかんないけど、重いことは間違いないでしょ? それを女性の力で、しかも酔ったまま頭にぶつけるのは難しいよね」
空想探偵の才色が珍しくまともなことを言った。確かに私もそれは感じていた。死体が棚に頭をぶつけていたということは、当初の予想通り灰城は後ろから殴られ、前に倒れこんだということだ。
死体が床に寝転がっている状態なら、球体の何かを落とせば女性の力でも殺すことはできるだろう。
けれど、今回はそうではない。女性のどちらかが犯人だとすると、被害者の頭部にぶつけられるように一工夫しなければいけない。どちらにせよ、凶器が判明しないと進まない話だが。
「酔ったまま殺すのが難しいことは認めよう。しかし、俺は酔った殺人鬼を何人も見てきた。そもそも、酔っているのが嘘だとしたら? 酔っていれば容疑者から外されると思って、あえて酒を大量に摂取したのかもしれない。まだ、彼女は容疑者からは外れていない」
才色のもっともな意見を、論理的な言葉で一党さんが否定をした。どちらの意見も正しく思えるが、推論の域は超えない。まだ、彼女が犯人だという証拠も、そうではないという証拠もそろっていない。
「私は健を殺したりなんかしません。なんで、恋人を殺さなくちゃいけなんですか!」
容疑者として扱われていることに、比嘉はとうとう腹を立てたようだ。彼女からしたら、探偵たちの推理にもてあそばれているようなものだ。
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて」
感情が爆発しだした比嘉を、新垣がなだめていく。比嘉は抑えきれない怒りを必死でこらえていた。その怒りは私たちに対してか、それとも自分自身にか。残念ながら、私は全てを理解することはできない。
「失礼、可能性の話ですから」
「う~ん。他に手がりはないかな~」
この場の空気はさっきよりも増して最悪だった。容疑者は一行にしびれず、三人は慰め会いながらも疑心暗鬼に陥っている。この中に殺人犯がいると、心の奥に眠る疑いがむしばみ始めているだろう。
探偵たちもまた、捜査に行き詰まり表情がいいとは言えなかった。凶器はいまだ判明せず、人間関係にもつれはない様子。これでは、推理のしようがない。
私は新たな手掛かりを得ようと、次の行動に移ることにした。
「リビングを調べたいのですが、最後に使用したのは誰でしょうか?」
「俺ですけど」
「それでは山井さん、一緒に来てもらえますか?」
私は凶器の手がかりを見つけるべく、山井と共にリビングからキッチンに移動した。
「じゃあ、俺は現場を見てくる。お前らが見て何もないなら、進展はなさそうだがな」
「案内しますよ」
そういって一党さんと斉田刑事は事情聴取を取りやめて、二階に移動していった。
「私はガールズトークしてよう」
リビングに残った才色は、とてもそんなことができる状況ではないのにもかかわらず、女性二人に近づき話かけていった。事情聴取なのだろうが、才色は何故か上機嫌だった。
そんな才色をみた比嘉は、怒りを忘れて呆れていた。空気を読まないというのは恐ろしいものだ。
私はキッチンに移動すると周囲をくまなく見渡した。シンクには朝ごはんに使われた皿が洗われてないまま放置されていた。それに対し、三角コーナーのゴミはすでに処理されていた。
冷蔵庫は使用頻度が少ないためか小型の物で、その近くにクーラーボックスが置いてあった。あとは食器棚と電子レンジに、ゴミ箱が置いてあるぐらいだ。
箱の横には、まだ捨てられていない生ごみの袋を発見した。朝の忙しさで処分し忘れたと思ったが、どうやら違ったようだ。
「今日は生ごみの日ではないようですね」
近くの壁にごみの分別を記載した紙が画鋲で止められていた。これによれば、今日の金曜日は不燃ごみになっている。可燃ごみは火・木・土と指示されている。
つまり、生ごみを出す曜日ではないのに、ゴミ箱から出され袋が縛られているのだ。
「それは俺がやりました。住んでるマンションが、今日は可燃ごみなのでつい癖で」
一緒についてきてくれた山井が説明してくれた。彼の言い分に不自然なことはない。
私は生ごみの入った袋をじっと見つめた。卵の殻に野菜や果物の皮、特別不思議なものは入っていない。
「なるほど。そういうことでしたか」
ここでようやく、私は凶器が何なのかを知りえることができた。そして、これによって事件の真相にもたどり着くことができたようだ。
才色の考察通り、犯人は凶器を隠すのではなく消す方法をとっていたようだ。
「すみません。全員、リビングに集まってもらってもよろしいでしょうか」
私は事件の全貌を説明すべく、全員を集めることにした。
そして、ついに謎が解き明かされることになるのだった。
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