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第88話 思わぬ実力
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「あの人、かなりやるね」
乱舞を終えて降りてきたゼマが、敵の戦闘力についてララクと話し始める。ディバソンの動きは、屈強な体を持っているとは思えない軽やかさがあった。
「記憶が正しければ、レベルは60近いですから」
「嘘でしょ? めっちゃ強いじいさんだったんだ」
彼女はディバソンのことをよく知らないので、意外な数字の大きさに驚く。レベル60といえば、魔熊の森の主 ケルベアスと同レベルだ。
両者が対峙した時にどちらかが勝つかは一概にはいえない。年齢でレベルは下がることはないが、それとは関係なく老化で身体機能が衰えていく。
しかし、対等に戦えるのは間違いないだろう。
ずっと現役で戦ってきたからこそ、そのレベルまで到達できたのだろう。彼は鉱物や植物採取などのクエストをよく行うが、その中でもモンスターとの戦闘は免れない。
なので、今日まで生きていている時点で、相当数のモンスターと戦ってきたという事だ。
40辺りを超えると、かなりレベルアップするのは困難になってくる。それだけ多くの経験値が必要になってくるからだ。
例外として、自分よりも遥かにレベルが高い相手と戦えば、一気に上昇することがある。が、それは諸刃の剣で、死に急いでいるようなものだ。
そんな熟練冒険者のディバソンに、アイアンデーモンの力が合わさったのが、今戦っている敵の正体だ。
(それでも、こんなにディバソンさんは機敏に動けなかったはずだ)
ララクは、モンスター化したことを加味しても、ハンマー攻撃をそう簡単には対処できないと考えていた。だが、実際はたやすく避けられた。鉄の重みが加わって、逆に動きづらくなっているぐらいだと思っていた。
(相当、同化したことによって身体能力が上昇しているのか)
疑問を感じながらも、ララクは次の手を考える。
すると、先に動いたのはディバソンのほうだった。考える時間を与えてくれる気はないようだ。
ディバソンは、魔晶石を足場にしてそこを思いっきり蹴った。すると魔晶石がパラパラと砕けて落ちて行く。そして、勢いをつけたディバソンは、上空から斜め下にいるララクへと急降下していく。
ピッケルを両手で握りしめ、スキルを発動する。
「【刺突】!」
ピッケルの先に魔力が集中する。鎌のように動かせるピッケルだが、武器の種類としては、斬撃ではなく突系統に部類する。
なので、槍のような感覚で突系統スキルを発動可能なのだ。
アイアンデーモンの力を得たピッケルの鋭利な先端が、ララクを突き刺さんと振り下ろされる。
「っぐぅぅうっ!」
急降下の速度はすさまじく、来るのが分かっていてもその場から動いて回避はできなかった。なので、防御用ではない金属製のハンマーの柄の部分で【刺突】を受けた。柄の端の部分を両手でそれぞれ持ち、斜めにして自分の胸のほうへと持っていく。
剣と違って、槍などの突系統武器は攻撃範囲が短い。しかし、逆に防御できる範囲もせまい。このように、大きな盾ではなく武器で細長い武器を防ぐ場合は、正確に攻撃位置にあらかじめ移動させておく必要がある。
「おらぁぁぁぁぁ!」
紙一重で、ピッケルの先はハンマーの柄、中央に突き刺さる。しかし、今度はそのままハンマーを破壊しようと、ディバソンは腕に力を入れて、体重も乗せていく。
「はぁぁぁぁああ!」
ララクは押し返そうと、声を出して気合を入れて、柄を前に突き出していく。が、徐々にララクの足が地中にめり込んでいく。所持しているパッシブスキルでレベル以上の肉体になっているはずだが、それを持ってしても攻撃を停止できない。
そんな状況を見たゼマは、ふとデジャブに近い感覚に襲われる。彼女は、このような状況を最近見たことがあったのだ。
それはシームルグ戦の時のこと。超高速で飛行突進するスキル【ソニックバード】をララクが受け止めた際に、離れた位置からゼマがシームルグの背中を攻撃したことがあった。
「助けるよ! 【刺突】!」
下手に連打をしても反動がこちらに帰って来るだけなので、ゼマは一点集中をすることに決めた。
狙いを定めて、限界までアイアンロッドを後ろに引く。
武器系統のスキルの多くは、レベルの他にその前に行う予備動作によって威力が変動する。スキルは乱発するよりも、研ぎ澄ましたほうがその性能が向上する。
気合十分で出されたその突きは、ディバソンの背を目指して勢いよく伸びていく。
ディバソンはララクに目が離せず、それに気がつくはずがないとゼマは感じていた。このように多角的に攻撃できるのが、パーティーの強みだ。
しかし、またしてもディバソンは予想外の俊敏さで、上空にハイジャンプしていった。
「な、どうして!?」
ディバソンとゼマは目が合っていなかったはずだ。それなのに、まるで攻撃がくるのが分かっていたかのように跳んだことを、理解しがたかった。
アイアンデーモン化したディバソンという目標を失ったゼマの【刺突】は、彼の前にいたララクにヒットしてしまう。
「っく、ハンマーが」
偶然か、アイアンロッドの先端はハンマーにぶつかったので彼自身にダメージは入らなかった。しかし、作り出した武器が、その影響で破壊されてしまった。ピッケルとロッド、2つの【刺突】を喰らったので、耐久値に限界が来たようだ。
そもそもが防御目的に作ったわけではないので、当然の結果だ。
乱舞を終えて降りてきたゼマが、敵の戦闘力についてララクと話し始める。ディバソンの動きは、屈強な体を持っているとは思えない軽やかさがあった。
「記憶が正しければ、レベルは60近いですから」
「嘘でしょ? めっちゃ強いじいさんだったんだ」
彼女はディバソンのことをよく知らないので、意外な数字の大きさに驚く。レベル60といえば、魔熊の森の主 ケルベアスと同レベルだ。
両者が対峙した時にどちらかが勝つかは一概にはいえない。年齢でレベルは下がることはないが、それとは関係なく老化で身体機能が衰えていく。
しかし、対等に戦えるのは間違いないだろう。
ずっと現役で戦ってきたからこそ、そのレベルまで到達できたのだろう。彼は鉱物や植物採取などのクエストをよく行うが、その中でもモンスターとの戦闘は免れない。
なので、今日まで生きていている時点で、相当数のモンスターと戦ってきたという事だ。
40辺りを超えると、かなりレベルアップするのは困難になってくる。それだけ多くの経験値が必要になってくるからだ。
例外として、自分よりも遥かにレベルが高い相手と戦えば、一気に上昇することがある。が、それは諸刃の剣で、死に急いでいるようなものだ。
そんな熟練冒険者のディバソンに、アイアンデーモンの力が合わさったのが、今戦っている敵の正体だ。
(それでも、こんなにディバソンさんは機敏に動けなかったはずだ)
ララクは、モンスター化したことを加味しても、ハンマー攻撃をそう簡単には対処できないと考えていた。だが、実際はたやすく避けられた。鉄の重みが加わって、逆に動きづらくなっているぐらいだと思っていた。
(相当、同化したことによって身体能力が上昇しているのか)
疑問を感じながらも、ララクは次の手を考える。
すると、先に動いたのはディバソンのほうだった。考える時間を与えてくれる気はないようだ。
ディバソンは、魔晶石を足場にしてそこを思いっきり蹴った。すると魔晶石がパラパラと砕けて落ちて行く。そして、勢いをつけたディバソンは、上空から斜め下にいるララクへと急降下していく。
ピッケルを両手で握りしめ、スキルを発動する。
「【刺突】!」
ピッケルの先に魔力が集中する。鎌のように動かせるピッケルだが、武器の種類としては、斬撃ではなく突系統に部類する。
なので、槍のような感覚で突系統スキルを発動可能なのだ。
アイアンデーモンの力を得たピッケルの鋭利な先端が、ララクを突き刺さんと振り下ろされる。
「っぐぅぅうっ!」
急降下の速度はすさまじく、来るのが分かっていてもその場から動いて回避はできなかった。なので、防御用ではない金属製のハンマーの柄の部分で【刺突】を受けた。柄の端の部分を両手でそれぞれ持ち、斜めにして自分の胸のほうへと持っていく。
剣と違って、槍などの突系統武器は攻撃範囲が短い。しかし、逆に防御できる範囲もせまい。このように、大きな盾ではなく武器で細長い武器を防ぐ場合は、正確に攻撃位置にあらかじめ移動させておく必要がある。
「おらぁぁぁぁぁ!」
紙一重で、ピッケルの先はハンマーの柄、中央に突き刺さる。しかし、今度はそのままハンマーを破壊しようと、ディバソンは腕に力を入れて、体重も乗せていく。
「はぁぁぁぁああ!」
ララクは押し返そうと、声を出して気合を入れて、柄を前に突き出していく。が、徐々にララクの足が地中にめり込んでいく。所持しているパッシブスキルでレベル以上の肉体になっているはずだが、それを持ってしても攻撃を停止できない。
そんな状況を見たゼマは、ふとデジャブに近い感覚に襲われる。彼女は、このような状況を最近見たことがあったのだ。
それはシームルグ戦の時のこと。超高速で飛行突進するスキル【ソニックバード】をララクが受け止めた際に、離れた位置からゼマがシームルグの背中を攻撃したことがあった。
「助けるよ! 【刺突】!」
下手に連打をしても反動がこちらに帰って来るだけなので、ゼマは一点集中をすることに決めた。
狙いを定めて、限界までアイアンロッドを後ろに引く。
武器系統のスキルの多くは、レベルの他にその前に行う予備動作によって威力が変動する。スキルは乱発するよりも、研ぎ澄ましたほうがその性能が向上する。
気合十分で出されたその突きは、ディバソンの背を目指して勢いよく伸びていく。
ディバソンはララクに目が離せず、それに気がつくはずがないとゼマは感じていた。このように多角的に攻撃できるのが、パーティーの強みだ。
しかし、またしてもディバソンは予想外の俊敏さで、上空にハイジャンプしていった。
「な、どうして!?」
ディバソンとゼマは目が合っていなかったはずだ。それなのに、まるで攻撃がくるのが分かっていたかのように跳んだことを、理解しがたかった。
アイアンデーモン化したディバソンという目標を失ったゼマの【刺突】は、彼の前にいたララクにヒットしてしまう。
「っく、ハンマーが」
偶然か、アイアンロッドの先端はハンマーにぶつかったので彼自身にダメージは入らなかった。しかし、作り出した武器が、その影響で破壊されてしまった。ピッケルとロッド、2つの【刺突】を喰らったので、耐久値に限界が来たようだ。
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