上 下
2 / 10
先に言っとくけど、私は人をイラつかせるのが得意なんだ

(2)

しおりを挟む
「馬鹿は、どっちよ。あたしの世界と同じなら、その先は……崖」
「だから、何か変だよ。また罠の可能性が……」
「大丈夫、今までのはマグレだよ。だって、あいつは、いくら異常体アノマリーでも、初期能力値は、あたし達の派生体ヴァリアントの中で最低……」
 私は、奴らを崖スレスレで待ち受けていた。
 少しでも下がれば崖から転落。下は急流の川だが……この高さでは水に落ちても助からないだろう。
 絵に描いたような「背水の陣」だが、あいにくと別働隊などは居ない。
「今度こそ……ライトニング……」
 生き残り2人の片方が、そう言い終える前に……。
「えっ?」
 私は、もう片方に投げ縄を投げる。そして、投げ縄の片端を持ったまま、崖から飛び降りる。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ……助け……落ちるぅ~ッ‼ いだい、いだい、いだい、うぎゃ~ッ‼」
「ちょ……ちょっと待って……お……重い……」
 奴らの片方は……崖から落ちる私に引っ張られていたもう片方を支えてくれたようだ。
 私はロープをつたって、崖の上に戻る。
「ありがとう。君達は英雄だ。やっぱり、英雄とは悪者を虐殺する者ではなくて、人命救助を行なう者の事だな」
「ふ……ふざけんな、この極悪人がッ‼ 今度こそ……ライトニング……」
 2名の阿呆の内、より阿呆な方がそれっぽいポーズを取りながら、私に罵声を浴びせるが……。
 魔法の理屈からして、こんなポーズ取らなくても、効果は発動する筈なのに、何で、どいつもこいつも格好付けたがるのだろうか?
 身を低くして、地面を思いっ切り蹴り、地面スレスレにより阿呆な方に向かって突進。
「あ……」
 地面スレスレの状態の私の体を強力な攻撃魔法で消し去る事も可能だろう。
 だが、その余波で、崖まで崩れたら、どうなるか?
 良かった。阿呆は阿呆でも、私の予想より酷い阿呆では無くて。
 想定外のズンドコ級の阿呆の方が、そこそこ程度の阿呆より対処が困難だが、今の所、私はツキを使い果してないらしい。
 そして、左半身を引いて、右手を前に向けていた奴のの太股を狙い、短剣を振う。
 ザクリ……。
 奴のの太股の前面には深く大きな傷が付き、の内股には
「で、あと何回『今度こそ……ライトニングなんたら』と叫ぶつもりだ、マヌケ?」
「ふざけんな……こんな傷……え……えっ……ヒーリング……ヒーリング……あ……」
「あ~、この短剣で付けられた傷には……治癒魔法を阻害する呪いがかかる。完全に効かなくなる訳じゃないが、効果は通常の十分の一まで落ちる」
「だ……だとしても……この程度の傷……」
「その程度の傷にしては、出血量が多いとは思わんか? 太い動脈を断ち切ってる。早く止血しないと、出血多量で、あの世行きだぞ」
「そ……そ……そ……その呪いの解呪方法は?」
「教えてやってもいいが、代りに、教えろ。何故、私を狙う?」
「そ……それは……その……」
「早く言え。言わないと、さっき死んだ別の阿呆と仲良く一緒に地獄で獄卒オニにフェ○○オする羽目になるぞ」
「あんたが……暴走してるからよ……」
「暴走?」
 いや、たしかに人に怨まれる事は散々やってきたが……それでも、私が殺してきた奴の数は、戦争や天災で出る死人に比べれば、誤差みたいなモノの筈だ。
「だ……だから……えっと……この多元宇宙マルチバースには、似たような世界がいくつも有って、それぞれの世界には、似たような……けど、どこかが少しだけ違う人間が居て……そいつらは、やっぱり、似てるけど少しだけ違う人生を送る」
「つまり……お前たちは……別世界版の私で……私に顔がそっくりなのは、そのせいか?」
「そ……そう。でも……あんただけが、神様の……単なる『神聖魔法の力の源パワーソース』なんてチャチな神様じゃなくて、多元宇宙マルチバース規模の超上位神様の想定とは違う性格になって……想定とは違う人生を送っている」
「あ~、つまり、その神様が……私を失敗作と見做して、私を消す為に、他の世界版の私を送り込んだ訳か……」
「そう……だ……だから……」
「この短剣を見付けたのは、ここの崖の途中に入口が有る洞窟の一番奥だ。そこの壁に取説が彫られてた。解呪方法らしいのも含めてな」
「本当?」
「嘘は言ってない」
空中浮揚レビテーションっ‼」
 阿呆は、そう言って、崖から飛び降りた。
「ああ……そうだ……」
 私は投げ縄で縛られてる方の阿呆に顔を向けて、そう言った。
「な……なに……?」
「あいつが、ギリギリで間に合う可能性は結構有る。解呪も出来るかも知れないな。そして、私は嘘は言ってない。ただ、あの阿呆が気付いてないであろう事が1つ有る。お前が教えてやれ、大声でな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

おれのふたごの妹はひとりだが6人いる

るみえーる
ファンタジー
おれのふたごの妹である曽根地直(そねじなお)が少しおかしくなったのは3年前の夏、神社のご神木に落ちた雷の近くにいて気を失ってからだった。それ以来おれは6人の違った妹がいる6つの世界で生きるようになった。高校に願書を出した日におれは、猫神・狐神・龍神、それにご神木の神に会い、その世界を統合するようお願いされた。高校の始業式の日から6日間で何とかなるのかこれ。(なんとかなります。カーテンコールとふたつの結末つき)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

日本入れ替えグルメ旅・られた肥後褐牛死体一頭食べ尽し

蓮實長治
ミステリー
「あれ? この死体の様子、遺族が言ってた事と食い違いが有りますよ?」 変死体の検死を行なっていた監察医は不審な点に気付くが……? 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...