魔導兇犬録

蓮實長治

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第二章:監視者たち

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 ふざけた「魔法」だった。
 「呪い」のように効果が持続するタイプの「魔法」ではない。つまり、「解呪」も「呪詛返し」も出来ない。
 直接的な魔力・霊力による攻撃ではない。つまり、通常の「魔法防御」では、こちらへの「攻撃」を防げない。
 そして、こちらへの「攻撃」が始まった時点で……相手の「魔法」そのものの効果は発動し終えている。つまり、何が起きたか、こっちが事態を把握した時点では……仮に相手をブッ殺す事が出来ても、こちらへの「攻撃」は持続する。
 更に……こちらへの「攻撃」は……ネズミやゴキブリにたかられると云う、直接的なダメージは小さいが地味に嫌なモノ。
「くそ……あのメスガキ……どこ行きやがった……」
 チンピラ丸出しの口調になっている吾朗だが……その声からは、結構な疲れが感じられる。
 まぁ、実際、吾朗は魔法を少々使えるだけのチンピラだが……疲れてる理由は……。
 俺達3人の体にたかってたネズミやゴキブリは吾朗の「魔法」で何とか地面に落ちて意識を失なっているが……いや、ネズミはともかくゴキブリに「意識」と呼べるほどの高度なモノが有るかは別にして……そもそも「体にたかってる小動物を引き剥がす」専用の「魔法」なんて……普通は存在しない。
 汎用的な「霊力でダメージを与える」ような呪詛系の魔法を……無数のネズミやゴキブリ目掛けて放ち……しかも、俺や吾朗自身やフランケンシュタインの怪物もどきが「流れ弾」に当らないように注意し……。
 吾朗が、げっそりしているのは、ネズミやゴキブリにたかられたからじゃない。
 霊力消費量の面からすると恐しく効率が悪い上に、これまた恐しく精神集中が必要な神経を使う方法でネズミやゴキブリどもを撃退したからだ。
「おい、どうする? 出るか?」
 俺は、元来た道の方を指差す。
「でも……多分、ドアを開けたら、ここの『自警団』の連中が待ち構えてますよ」
「じゃあ、反対側は、どこに通じてんだよ?」
「判りません」
「お前がガチで道間違えてんなら、反対側の出口にも『自警団』が待ち構えてる可能性も有るじゃね~か」
「いや……そう言っても……。そうですね……コイントスで決めますか」
「おい」
「表が出たら師匠の案、裏が出たら俺の案で……」
「百円玉って、どっちが表で裏だったっけ?」
「じゃ、こっちが表って事で」
「どっちから見た『こっち』だ?」
「わかりました。こんな面倒臭い人だったっけ? まぁ……いいや……師匠に向けてる面が表って事で」
 そう言って吾朗は百円玉を投げ……。
「あれ?」
 微かな……コインが床にぶつかったらしい音。
「何やってる?」
「えっと……その……」
「ともかく、百円玉、どこ行った?」
「すいません、一緒に探して下さい」
「おい、デカブツ、百円玉を探せ」
「?」
 デカブツは怪訝そうに首を傾げただけだった。
「駄目だ、こりゃ」
「有りました……嘘……」
「どっちだ?」
「おい、お前が一番前だ、あっちに向うぞ」
 吾朗がデカブツにそう言いながら指差した先は……元来た道だった。
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