魔導兇犬録

蓮實長治

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第一章:海にかかる霧

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「センパイ、どこに行くつもりですか?」
 あからさまにヤバそうな「仕事」から逃げ出す為、俺は、かつての後輩や弟子が手配したホテルを夜も明けぬ内にチェックアウトし、朝一のフェリーで「本土」に逃げ出そうとしていた。
 前の職場は「一時雇いがたまたま年単位で続いた」扱いであり、退職金はゼロゼロ、ゼ~ロっ。
 だが、博多あたりで日雇いの仕事ぐらい見付かるだろう。
 そう思っていたが……誤算が1つ。
 この東京と「本土」を行き来する公共交通機関はフェリーだけ。その発着港は、この東京には、たった1つ。
 俺が逃げ出す可能性が有るなら、そこを見張っていれば良い。
 当然ながら、フェリーの券売機に金を入れようとした直前に、かつての妹弟子に見付かった。
「あ……この仕事降りたいんだけど……ぎゃあっ‼」
 胸に激しい痛み。
「お……おまえ……いつの間に……」
「センパイが元弟子に一服盛られて寝てる間に、ちょっとね」
 どうやら、俺は、何かの「呪い」をかけられていて……多分、俺はこいつの意に沿わぬ真似をしたら、あっさり死ぬのだろう。
「あと……」
 元後輩は首筋の辺りを指差す。
 俺は自分の首筋をさわる。
 かすかなしこり……。
「私らは『魔法使い』ですが『科学技術の産物は使うな』なんて『戒律』は無いですから……」
「えっ?」
「センパイの首にGPS付の発信機を埋め込ませてもらいました。電池は一週間は持ちます」
「お……おい……」
「あ、頚動脈のすぐそばなんで、素人が下手に摘出しようとしたら、余程、運が良くないと……ま、面白い事になるでしょうね」
「て……てめえ……」
『博多行のフェリーが到着いたしました。出発は一五分後の予定です』
 その港内放送と共に……。
「よう、大将」
 そいつらは……男も女もごっつい体だった。
 そいつらは……男も女もスキンヘッドか……長くても五分刈りだった。
 そいつらは……首からごっつい数珠を下げていた。
「そいつがあんたの『先輩』か? ちと頼りなさそうだが……」
 今到着したフェリーから降りてきたらしい十数名の一団。
 そのリーダーであろう男は、俺を見てそう言った。
「ま……頼りないから、今回の件の『鉄砲玉』には最適って事」
「だ……誰?」
「壱岐と対馬の間に有る『台東区』の自警団の連中ですよ」
「はぁ?」
「『九段』の『英霊顕彰会』は……あっちこっちとトラブルを起してましてね……。でも、トラブルの相手は、どこもまだ『英霊顕彰会』と本気で喧嘩する準備が出来てない。なので……もしもの為の……そうですね、推理小説でよくある『交換殺人』みたいなモノですよ。万が一、誰かが失敗しくったとしても、『英霊顕彰会』は、どこがどう動いてるかを把握つかむのは難しくなる」
「だ……だから……何がどうなってんだ?」
「センパイ達が、あいつらと『英霊顕彰会』とのトラブルを解決し……その代り、あいつらが、私らと『英霊顕彰会』とのトラブルを解決する」
 おい……俺、どんだけデカい話に巻き込まれちまったんだ?
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