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第五章:The Good, the Bad, the Weird

ニルリティ/高木 瀾(らん) (4)

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「ぐ……ぐえ……っ……」
「お……おい、何が起きてる?」
 相棒が突然、血を吐いた。
 いや……血だとは思うが、血にしてはドス黒過ぎる。
「判らん……でも……生命力は弱ってるが、体の調子は小康状態になってるようだ」
 金翅鳥ガルーダがそう言うと、水神ヴァルナも頷く。
 この2人は、人間の体の調子・健康状態を調べたり、近くに隠れている人間の存在を感知する事が出来る。
 ただし、原理は違う。金翅鳥ガルーダは人間の生命力そのものを認識出来て、水神ヴァルナは人間の体内の「水」の状態を認識する事で、間接的に人間の体調・健康状態なんかを調べている。
 ちなみに「魔法使い系」が使う「気配を隠す」系の術では、この能力の妨害は不可能だ。
 あと、皮肉にも「間接的な認識」の筈の水神ヴァルナの方が解像度みたいなものは高いらしく、水神ヴァルナは対象の思考や体の次の動きまで読めるのに対して、生命力を直接見ている金翅鳥ガルーダの方は健康状態や体の調子、病気や怪我をしてた場合、どの程度重篤かまでしか知る事が出来ないらしい。
「何とか……生命力の補充なんかは出来ないのか?」
「私は、たしかに生物の生命力に干渉出来るけど……何だってそうだろ……壊すのは簡単でも、修理は難しい」
「単純に生命力を与えただけでは、巧く行くとは限らん訳か……」
「そう言う事だ。現実はファンタジーRPGとは違う。しかも、ここまで体が弱ってると、恐くて迂闊な真似はやりたくない」
「……水……」
「うがいと、水分補給のどっちだ?」
「……両方……」
 相棒にペットボトルの普通の水と経口補水液の両方を渡す。
「大丈夫か?」
 五〇〇㏄の水をうがいで使い切って、ようやく、相棒の口から出て来る水が、ほぼ透明になった。
「ああ、邪気は体の外に出せたっぽいけど……力は全然残ってねえ……もう意識が飛びそうだ」
「いつもの減らず口も叩く余裕が無いか……」
当り前あたりめえだ……ああ、クソ。いいなお前らは……魔法系の力が全然効かなくて……」
「その代わり……魔法系の事件や災害は、私達だけじゃ解決出来ない……。頼りにしてるぞ、相棒……と言いたい所だが……」
「ごめん、体が元に戻るまで、当てにしね~でくれ」
「体が元に戻る……? どうやって元に戻すつもりだ?」
 金翅鳥ガルーダが当然の疑問。
「当ては1つだけ有るが……」
「あれか……あたしも聞いた事は有る」
「何の話だ?」
「医者・看護師・検査技師・理学療法師その他の医療資格も持ってる『魔法使い』系が何人も居る病院だ……ただし……」
「そんな所が有るのか? で、『ただし』の続きは何だ?」
「そこの病院とトラブると厄介な事になる。院長に理事に各診療科の責任者その他の幹部は、下手な魔法結社の総帥クラスと同等以上の技量うでの『魔法使い』らしいんでな」
「トラブルって……どんなトラブルが起きるんだ? とんでもない魔法使いがゾロゾロ居ると言っても、病院は病院だろ?」
 そう……医者は問題無い病院だ。問題は……入院患者達だ。
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